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不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
建物解体更地渡しの土地の売却で地中埋設物が見つかった場合の取扱い
Q
私は、兄とともに、先日亡くなった父から茨城県の土地建物を相続した者です。
その土地建物は、私たちの実家であり、曽祖父の代から代々受け継がれてきたものです。
他方で、私は既に東京都内に、兄は千葉県に既に独立して家を所有しています。
そのため、私と兄は、相談した結果、固定資産税や管理の負担を考え、先祖には申し訳ないのですが、その土地建物を売却することにしました。
不動産会社にお願いして買い手を探してもらった結果、地元の宅地建物取引業者の方が手を挙げてくださいました(以下、この業者の方を、「買主業者」といいます)。
その土地建物は、隣り合った2筆の土地のうち1筆の上に築60年以上の古い戸建てが建っており、残りの1筆は、家庭菜園に利用されていました。
買主業者からは、その2筆の土地の上に新しい建物を2棟建てて分譲したいので是非買いたいとの申し出を頂きました。
私と兄は、不動産会社とも相談して、少し値段は安くなっても良いので、契約不適合責任を免責にしてほしいとの希望を出すことにしました。これは、祖父や父が家庭菜園をやっている際に、コンクリートがらが地中から出てきて作物を育てるのに苦労した、と聞かされていたからです(このことは、不動産会社を通じて、買主業者にも伝えています)。
買主業者は、契約不適合責任は構わないが、築60年以上の古い建物に価値は無いので、そちらで解体して更地にして引き渡してくれるなら構わない、と回答してきました。
私と兄は、買主業者の希望を受け容れて、土地2筆を、買主業者に、契約不適合責任を免責、建物を解体して更地にして引き渡すとの条件で売却しました。
不動産会社に紹介していただいた解体業者の方が決済日までに問題なく解体工事を終えてくれましたので、私と兄は、決済日にその土地2筆を買主業者に引き渡しました。
ところが、それから2か月ほど後、買主業者から、不動産会社を通じ、私と兄あてに、土地2筆のうち建物の建っていた方からコンクリートがらが見つかった、建物解体更地渡しの条件であったのにコンクリートがらが出てきた以上、これは売主側の責任だ、そちらの費用負担で撤去してほしいとの連絡がありました。
驚いた私たちが、買主業者、不動産会社、解体業者同席の下で現地を確認したところ、そのコンクリートがらは、確かに建物の建っていた方の土地から出てきたものですが、建物の建っていた場所とは数メートル離れた、もう1筆の土地の境界近くから出てきたものであることが確認できました。
先ほど申しましたとおり、この土地は私たちの曽祖父の代からのもので、私たちが生まれてからは建物を建て替えたりはしていませんので、地中に何が埋まっているかは知る由もありません。
このような場合にも、「建物解体更地渡し」であるために、建物が建っていた土地についての地中埋設物については、私たちが責任を取らなければならないものなのでしょうか。
A
1 何が問題か~売買契約内の2つの条件~
土地とその土地の上の建物を売却するに当たり、買主が土地上に新しい建物を建築して使用又は(宅地建物取引業者の場合)転売を目的としている場合に、①土地のみを売買契約の対象とする、②土地の引渡日(通常は、代金支払日と同日)までに、売主の費用負担で、土地の上の建物を解体して更地にした上で、土地の引渡しを実行するとの条件が売買契約に定められることはしばしばございます。
これが、(建物解体)更地渡し条件です。
一方で、ご相談のケースでは、売買契約の対象となった土地について、契約不適合責任を免責する特約も付されています。
つまり、買主業者に引き渡された土地が、種類、品質又は数量に関してこのたびの売買契約の内容に適合しないもの(不適合があったもの)であっても、売主であるご相談者様にて、修補等によりその不適合を解消する責任を負わないこととなります。
この2つの条件が共に存在している中で、地中埋設物が見つかったことが、本件の問題となります。
建物解体更地渡し条件だけを見れば、建物を解体して更地にしなければいけない以上、地中埋設物があるならそれを撤去するのが売主の責任であるといえなくもない一方、契約不適合責任免責特約だけを見れば、地中埋設物があっても売主は責任を負わないとも読めるからです。
2 地中埋設物の性質によって変わり得る
お伺いした売買契約の内容を前提と致しますと、これらの2つの条件は、以下のように解釈するのが相当ではないかと考えます。
① 築60年以上の古い戸建てを解体して更地で引き渡す条件となっていた以上、解体の対象となったその戸建て及び基礎部分などそれに付随する物については、売主であるご相談者様にて解体、撤去する義務を負う。
② 一方で、その戸建てとは無関係な地中埋設物については、解体、撤去の対象となっていない以上、契約不適合責任の免責特約によって、ご相談者様は、撤去する義務を負うものではない。
単に「更地にする」というだけでは、その土地の地中に埋設された物までを撤去しなければならないとまで当然に解釈できるものではありません。そのため、「建物解体更地渡し」である以上、その土地も地中埋設物も全て撤去しなければならないとまで解釈するのは、困難ではないかと考えます。
以上の解釈を踏まえますと、ご相談のケースでは、発見された地中埋設物が、解体の対象となっている古い戸建てを構成していた物であるといえれば(買主が証明できれば)、売主であるご相談者様にて解体、撤去する義務を負うといわざるを得ませんが、そうでなければ、買主業者にて撤去しなければならないと考えられます。
つまり、発見された地中埋設物の性質によって、売主であるご相談者様と買主業者のどちらの費用負担で撤去しなければならないかが変わることになります。
3 ご相談のケースについて
ご相談のケースにて発見されたコンクリートがらは、建物の建っていた場所とは数メートル離れた、もう1筆の土地の境界近くから出てきたものとのことです。
そうなりますと、これらのコンクリートがらが、ご相談者様で解体するものとされた戸建てを構成していた物であるということは難しく、ご相談者様の責任と費用負担で撤去しなければならないとまではいえないのではないかと考えます。
4 最後に
ご相談のケースでは、以上のように考えますが、売買契約に付される条件はケース・バイ・ケースですし、そこに至る交渉過程も様々です。
そのため、事案によっては、契約不適合責任免責特約を付けていながら、解体する建物に関係のない地中埋設物について責任を負うとの条件が付されていたとして、売主側の責任が生じてしまう場合もございます。
後日、売買契約の内容について争いにならないよう、解体する建物に関係のない地中埋設物については責任を負わない旨を売買契約書に明記しておくなど、事前の対応が望ましいことは、言うまでもありません。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。