不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
旗竿地を売却する際の注意点
Q
私(A)は実家の土地建物を相続しました。実家の土地は、住宅密集地の奥まったところにあり、細い通路を通じて幅の狭い公道につながっています。
私は別に自宅があるので相続した不動産を売却したいのですが、このような不動産を売却する際の注意点について教えてください。
A
1.接道義務を満たさないと建物の新築や建替えができません
建物を建築するためには、建物の敷地が、原則として、幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならないことが建築基準法で義務付けられています。これを接道義務といいます。
接道義務は、事故や災害が発生した場合に避難経路や緊急車両の出入りを確保する観点、また、通風や排水など衛生上の観点などから設けられている基準です。
Aさんが相続した土地は「細い通路」で公道につながっているとのことですが、公道につながっている「細い通路」の幅員が2m以上ない場合、Aさんが相続した土地は接道義務を満たさない敷地となります。そのため、そのままでは、建物を新築することはもちろん、老朽化した建物を建て替えることもできません。
また、Aさんが相続した土地は「幅の狭い公道」につながっているとのことですが、その公道の幅員が4m未満の場合も、Aさんが相続した土地は接道義務を満たさない敷地となります。ただし、道路の中心線から敷地の境界線まで水平距離2mになるまで後退する(これを「セットバック」といいます。)ことで、建物を新築したり建物を建て替えたりすることができるようになることがあります。セットバックした場合、セットバック部分は建ぺい率や容積率を算定する際の敷地面積に含まれなくなりますので、建築可能な建物がセットバック前より少し小さくなることに注意する必要があります。
2.接道義務を満たしていない不動産の評価は下がります
接道義務を満たしていない敷地は、建物を新築したり建て替えたりすることができず、利用が制限されます。
そのため、接道義務を満たしていない土地の評価は、近隣の接道義務を満たしている土地に比して下がります。
接道義務を満たしていない土地の評価は、まず、土地を公道へつなげる路地状部分とそれ以外の土地(有効宅地部分)に分け、路地状部分と有効宅地部分をそれぞれ評価して合算します。そこから、接道義務を満たすために新たに取得が必要となる通路用の土地の取得原価など接道義務を満たすために要する費用を控除して求めることになるでしょう。
接道義務を満たしていない土地の評価がどの程度下がるかは、路地状部分の奥行き、接道部分(間口)の長さ、新たに取得する通路用の土地の取得の難易度(接道義務を満たすために要する費用や期間)、有効宅地部分の面積や環境条件などを考慮して判断することになります。
3.どうすればよいか
接道義務を満たしていない敷地は、一般に、接道義務を満たした状態にしてからの方が、売却しやすくなります。
道路に接している幅員が2m未満で接道義務を満たしていない場合、隣地所有者から土地を買収して相続不動産全体を売却することもひとつの方法です。
他には、隣地所有者との間で通行地役権設定契約を締結し、道路に接する幅員を広げることも考えられます。通行地役権は通行目的のために設定される地役権(他人の土地を自己の土地の便益に供する権利)です。通行地役権は、Aさんが相続地を売却しても、Aさんから買主へと移転します。
また、最近では、空き家や空き地などを取得し、周辺の土地を含めた地域を一体的に活用・再生するランドバンキングという手法も模索されています。接道義務を満たしていない土地とその周辺の土地を一体的に活用することで、接道義務の要件を充足させ、土地を再生させるのです。
4.接道義務を満たさないまま売却する場合、説明義務を尽くす必要があります
土地とその土地上の建物の売買は、通常、その土地自体で接道義務が満たされているものとして取引が行われます
そのため、敷地が接道義務を満たしていない場合、売買契約の際に買主にその旨を説明しなければなりません。
その説明を怠ると、損害賠償請求をされたり、契約を解除されたりする可能性があります。
以上のとおり、住宅密集地の奥まったところにある土地を売却するにあたっては、接道義務を満たしているかどうかの調査や隣地との権利調整、接道義務を満たしていないことの説明などが必要となることがあります。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。