不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
孤独死が生じた不動産を売却する際の注意点(1)
Q
実家に住む父が亡くなり、父の住んでいた一戸建てを相続しました。私は結婚した際、別の場所に家を買って家族と住んでいるので、相続した土地建物は売却したいと思っています。ただ、父は実家で病死したのですが、一人暮らしだったために気づくのが遅れ、死後1週間が経っていました。
このような不動産を売却する際に何か気をつけておくことはありますか。
A
1.何が問題か
高齢化、高齢者の単身世帯の増加に伴い、孤独死と考えられる事例が増加しています。東京23区内に限っても、単身世帯で65歳以上の人の自宅での異状死数は、平成15年(2003)年には1441人でしたが、平成29(2017)年には2倍以上の3319人となっています(東京都監察医務院公表データ)。
一人暮らしの方が自宅で亡くなると、発見されるまでに時間がかかることがあります(東京都監察医務院公表データ(平成29(2017)年)によると、孤独死した方の約3割が発見までに死後8日以上かかっています。)。遺体が部屋に放置されると腐敗がすすんでしまい、死臭や遺体から出た体液などで室内が凄惨な状況になっていることは想像に難くありません。
とはいえ、売主としては、発見が遅れたことに負い目を感じたり、自殺や他殺ではなく、病死は自然なことである、病死したことを明らかにすると物件の価値が下がってしまうかもしれないなどの考えから、病死したことを自ら告げるのは控えたいというのが自然な感情でしょう。
もっとも、自然死や病死でも遺体が腐乱した状態で放置されていたような物件では、その事実を告知しないまま売却した場合、売主が告知義務違反による債務不履行責任を負う場合があります。すなわち、建物自体に物理的欠陥等がなくとも、建物に嫌悪すべき歴史的背景があり、忌み嫌い敬遠される物件は、通常人にとって住み心地の良さを欠くものであって(一般に「心理的瑕疵」と呼ばれています。)、売主が心理的瑕疵を告げないまま不動産を売却した場合、売買契約が解除されたり、損害賠償責任を負うことがあるのです。
2.どのようなときに心理的瑕疵が問題になるか
人はいつか亡くなります。死因が自然死や病死の場合は何ら特異なものでなく、それだけで心理的瑕疵があるということにはなりません。心理的瑕疵で典型的に問題になるのは自殺や他殺のときです。
もっとも、自然死や病死でも、死後遺体が放置されるなどして室内が凄惨な状況になっていたり、近隣住民の間で話題になるなど記憶に強く残るような事案のときは、自殺や他殺などに匹敵する嫌悪感を抱かせる物件であることから、心理的瑕疵があるとされる可能性があるので注意が必要です。
また、対象の建物が居住目的で売買されていたか、取壊しを前提に売買されていたかは、心理的瑕疵の有無の重要な判断要素になります。建物が取り壊されてしまえば嫌悪すべき心理的欠陥の具体的対象がなくなると考えるのが一般的だからです。実家建物が古くなっているような場合は、建物を取り壊し、更地にしてから売却することも方法の一つです。
ただし、建物が既に取り壊されていても、取り壊した建物に心理的瑕疵があったことを土地の売買契約締結前に買主に告げておかないと、後々買主から、その事実を知っていれば当該土地を買わなかったとトラブルになる可能性があります。特に殺人事件などの凄惨な事件や事故があった場合など、心理的瑕疵の程度が大きい場合は、その建物だけでなく土地を含めた空間に嫌悪すべき歴史的背景があると判断されることもあり、告知しないことで、売主はなお債務不履行責任を負うこともあります。そのため、建物さえ壊してしまえば大丈夫だと安易に考えない方がよく、トラブル回避のためにも心理的瑕疵について告げておくのが望ましいでしょう。
3.売却価格へはどの程度影響があるのか
心理的瑕疵のある物件は、心理的瑕疵の程度が売却価格に影響します。
一概には言えませんが、心理的瑕疵のある物件の売却価格は時価相場より相当程度割安(心理的瑕疵の状況によっては5割程度)になることもあるようです。
心理的瑕疵のある物件は、通常の物件と比べて市場競争力が落ちてしまいますので、営業力のある不動産会社に買主を探索してもらうのが賢明です。
4.まとめ
以上のとおり、孤独死が生じた不動産は、その事実を買主に説明すべきかどうか、説明するとして売出希望価格をいくらとするかにつき、慎重かつ専門的な判断が求められます。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。