不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
旗竿地の売却と所有者不明土地管理制度
Q
私は、ある土地(以下「本件土地」といいます)を所有しているのですが、その土地は、2019年5月号のコラム(「旗竿地を売却する際の注意点」)に挙がっている、まさに接道義務を満たしていない旗竿地となっています。
そのため、評価の下がってしまう本件土地を高く売ることはできないと思っていました。
しかしながら、先日、未接道の土地である場合も、接道義務を満たしている隣地を買収して、隣地と一体として売却することで、評価を下げることなく売却できる可能性があるとの記事を読みました。
本件土地の隣地(以下「本件隣地」といいます)は、長年使われていない土地で、接道義務を満たしているため、私は、記事の例と同じように本件隣地を買収し、本件土地と一体として売却したいと思っています。
そこで、本件隣地を買い受けるため、登記簿で本件隣地の所有者を確認したのですが、所有者として登記されている方(以下「登記名義人」といいます)はとうの昔に亡くなっていることが判明し、登記名義人の相続人も不明でした。
私は、どうにかして、本件隣地を買収して、本件土地の売却に進めたいのですが、どのような方法が考えられるでしょうか。
A
1 本件隣地の買収方法
ご相談者様が本件隣地を買収されるためには、通常、その所有者の方を見つけ、その方から本件隣地の所有権を譲り受けてもらわなければいけません。
ところが、本件隣地の登記を見ても、本件隣地の登記名義人は既に亡くなっているわけですから、現在は、相続により、登記名義人の相続人が本件隣地を単独で所有又は複数で所有(共有)している可能性があります。
ご相談者様が本件隣地を買収するためには、登記名義人の相続人を探し出し、交渉をする必要がありますが、相続人も不明となれば、結局本件隣地をどなたが所有しているのか分からない事態となります。
登記簿や戸籍の確認等による相続人の調査を適切に行ってもこのような事態がなお解消されず、所有者が不明なままの場合でも、本件隣地を買い受ける方法は残されています。
すなわち、このような場合には、法定の財産管理制度を利用して、裁判所に本件隣地に関する管理者(財産管理人)を定めてもらい、その財産管理人から本件隣地を買い受ける方法を検討することになります。
この法定の財産管理制度には、従前のものと、今般の法改正により新たに導入されたものがございますので、以下、説明いたします。
2 従前の財産管理制度
従前からの財産管理制度としては、①不在者財産管理制度(民法第25条以下)、②相続財産管理制度(改正民法における相続財産清算制度)(民法952条以下)があります(法人については会社法に基づく清算制度がありますが、ここでは割愛します)。
① 不在者財産管理制度とは、不在者(住所や居所を去って容易に戻る見込みのない者)について裁判所にその財産を管理する人を選任してもらい、その管理人に不在者の財産を管理してもらう制度です。
② 相続財産管理制度とは、相続人が存在しない等、相続人のあることが明らかでないときに、裁判所に相続財産を管理する人を選任してもらい、その管理人に相続財産を管理してもらう制度です。
今回のケースでは、相続人は特定できるもののその行方が不明であれば①の制度の利用、相続人の有無すらも不明の場合には②の制度の利用を検討することになります。
しかしながら、これらの制度は、財産管理人が、土地に限らず不在者の財産全般又は相続財産全般を管理することになるため、事務作業や費用等の負担が大きくなるという問題がありました。財産管理人の費用は、申立人等(今回のケースではご相談者様)が予納金として納めなければならないため、制度を利用するには大きな負担が生じていました(予納金は20万円以上になることが多いです)。
また、相続人が複数おりいずれも行方不明の場合など行方不明者が複数存在する事案では、行方不明者ごとに不在者財産管理人を選任する必要があるため、更にコストがかさむ問題がありました。
さらに、今回のケースとは異なりますが、未登記等の事情により、土地の所有者を全く特定できない場合には、①、②どちらの制度も利用することができないという問題もありました。
3 所有者不明土地管理制度
以上の問題点を解決するため、民法の改正により、特定の土地に特化して管理を行う、③所有者不明土地管理制度が別途創設されました。この制度は、令和5年4月1日から施行されます。
所有者不明土地管理制度は、所有者不明又は所有者が所在不明の土地について、裁判所にその土地を管理する人を選任してもらい、その管理人に土地を管理してもらう制度です。
所有者不明土地管理人は、先ほどの①、②の制度と異なり、財産全般ではなく特定の土地のみを管理するため、従前の制度と比較して、事務作業や費用等の負担が少なく、申立人等の予納金の負担も軽減されます。また、複数の共有者が不明な土地についても、複数の不明者の持分のすべてを一人の所有者不明土地管理人が管理できるため、管理人を複数選任する必要もありません。
さらに、所有者不明土地管理制度は、所有者を全く特定できない土地についても利用することができます。
したがいまして、今回のケースのように、所有者不明の特定の土地を買い受けたい場合には、従前の制度を利用するよりも、所有者不明土地管理制度を利用した方が、ご相談者様にとって負担が少なく済む可能性があります。
4 まとめ
今回のケースでは、①不在者財産管理制度、②相続財産管理制度のほか、③所有者不明土地管理制度の利用が考えられます。③所有者不明土地管理制度を利用した場合、従前の制度より、ご相談者様の費用負担が少なく済む可能性がありますので、民法の改正法の施行後であれば、同制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、これまで説明してきた財産管理制度は、いずれも、財産管理人の選任や財産管理人が不動産を売却する際に、裁判所の許可が必要となるため、裁判所の許可が下りない等の事情により、本件隣地の買収が果たせない可能性もございます。
このあたりは個別の事情によるところになりますので、財産管理制度を利用したい場合には、専門家へご相談されることをお勧めいたします。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。