不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
マンション管理委託契約の解約
Q
私は、所有するマンション1棟(以下「本件マンション」といいます)を賃貸して収益を上げています。私は、管理業者との間でマンション管理委託契約(以下「本件管理委託契約」といいます)を締結し、同社にマンションの修繕や賃料の徴収等の一切を委託しています。
このたび、私は、資産整理のため、本件マンションの売却を検討することにし、仲介業者に買受候補者を見つけていただきました。
私は、本件マンションの入居者や管理業者との契約を、買受候補者が承継するものと思っておりましたが、買受候補者から、「マンションの管理業者はこちらで手配するので、現在締結中のマンション管理委託契約(本件管理委託契約)は解約してほしい」と言われてしまいました。
私は、本件管理委託契約を解約しなければならないのでしょうか。
また、解約するとしても、本件管理委託契約の残期間が3年ありますが、直ちに解約できるでしょうか。
A
1 管理委託契約とは
マンション管理委託契約(以下「管理委託契約」といいます)は、法律に定義されているものではなく、その内容は様々ですが、主に、マンションの所有者兼賃貸人が、管理業者に対し、入居者の募集や賃料の徴収など、マンションの管理を委託することを内容とする契約です。法的には、委任契約(民法第643条)または準委任契約(民法第656条)と解されます。
管理委託契約と比較されるマンションの管理方法として、サブリース方式による管理があります。サブリース方式とは、マンションの所有者が、サブリース業者にマンションを貸し(マスターリース契約)、サブリース業者が入居者に貸し付ける(サブリース契約)方式です。
サブリース方式では、マンション所有者とサブリース業者間で、賃貸借契約が締結され、サブリース業者は賃借人兼転貸人の立場で入居者の募集や賃料の徴収を行います。
2 マンション管理委託契約の解約の必要性
賃貸物件を入居者(賃借人)のいるまま売却した場合、買主は、原則としてその物件の賃貸借契約を承継し、入居者を引き続き住まわせなければなりません。なぜなら、売買により、売主と入居者との間で成立していた賃貸借契約の賃貸人の地位が、原則として、買主に移転するためです(民法第605条の2第1項。2021年2月号「収益不動産を入居者のいるまま売却する際の注意点」もご覧ください)。
他方で、管理委託契約締結中に賃貸物件を売却しても、買主は、当該管理委託契約の委託者の地位を、法律上当然に承継するものではありません。売主が買主に管理委託契約を承継するためには、買主との間で管理委託契約の承継に合意し、さらに管理業者から、承継についての承諾をもらう必要があります(民法第539条の2)。
そのため、今回のケースのように買受候補者が管理委託契約の承継に応じない場合、売主(ご相談者様)は同契約を買受候補者に承継することができないため、同契約を解約してマンションを売却する必要があります。
3 管理委託契約の解約
前記1のとおり管理委託契約とサブリース方式による管理方法では契約関係が異なるため、それに伴い解約の要件も異なります。
サブリース方式の解約については、2020年10月号「サブリース物件を売却する際の注意点」をご覧いただき、以下では管理委託契約の解約について説明いたします。
マンション管理委託契約は、上記のとおり(準)委任契約であるため、民法上、いつでも解除できるのが原則です((民法第656条)、第651条第1項)。
しかしながら、(準)委任契約の解約については、民法と異なる定めを設けることも可能であるため、本件管理委託契約の解約の可否を検討するにあたっては、契約書の解約条項を確認することが重要です。
例えば、国土交通省が公表しているマンション標準管理委託契約書では、
(解約の申入れ)
第19条 前条の規定にかかわらず、甲及び乙は、その相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の申入れを行うことにより、本契約を終了させることができる
とされており、この場合、管理委託契約の期間中に解約するには、3か月前の予告が必要です。
国土交通省が、同条の趣旨について、「解約の申入れの時期については、契約終了に伴う管理事務の引継等を合理的に行うのに通常必要な期間を考慮して設定している。」と説明しているように(国土交通省マンション標準管理委託契約書コメント参照)、管理委託契約において、当事者の便宜のため、解約に3か月程度の通知期間を設けるケースは珍しいことではありません。
したがいまして、今回のケースでも、ご相談者様は、本件管理委託契約の解約条項に従って解約手続を進めなければならず、直ちに解約できない可能性があることに留意が必要です。
4 まとめ
このように、管理委託契約は、契約の定めにより、直ちに解約できない場合があるため、今回のケースはもちろん、解約を検討する場合には契約書を確認することが重要です。
今回のケースからは離れますが、サブリース契約(賃貸借契約)に該当するか、管理委託契約((準)委任契約)に該当するかが微妙な契約もあり、そのような場合、解約を巡り、業者との間でトラブルになるケースもあります。
管理委託契約締結中のマンションの売却に当たっては、期間に余裕を持って準備を進めることや、解約の可否や方法が不明の場合、専門家に相談することが必要でしょう。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。