不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
所在不明(行方不明)の共有者がいる場合の不動産の売却
Q
私は、12年前に、親から実家の不動産を相続しました。相続人は、私と私の兄弟姉妹2人の合計3人です。ただ、そのうちの1人は長年音信不通で、どこで暮らしているのか、そもそも生きているのかも分かりません。その兄弟姉妹には子供がいるようですが、同じように、どこで暮らしているのか、そもそも生きているのかも分かりません。
親が亡くなった後、実家には誰も住んでいません。私が週に1回訪れて、換気や掃除などをして管理していますが、管理し続けるのは大変です。私もいつまで元気でいられるか分かりません。「空き家問題」を私の次の代に引き継がないため、私の代で実家を売却しておきたいです。行方不明の兄弟姉妹の持分を含めて実家を売却することができますか。
A
1. 何が問題か
親が亡くなった際に、遺言がなく、相続人間で遺産分割をしていないということですと、実家の所有権は、相続により、相続人である兄弟姉妹3人が法定相続分3分の1ずつをそれぞれ共有していることになります。
相続人の1名が長年音信不通で、どこで暮らしているのか、そもそも生きているのか分からないとのことですが、だからといって、その相続人の共有持分を勝手に売却することはできません。
2. 従来は何ができたか
所在不明(行方不明)の共有者の持分を売却するための方法として、従来、①不在者財産管理人制度、②失踪宣告がありました。
(1) 不在者財産管理人制度とは
不在者財産管理人制度とは、裁判所に不在者の財産を管理する人を選任してもらい、当該管理人に不在者の財産を管理してもらう制度です。
もっとも、不在者財産管理人は、不在者の財産全般を管理することとされています。そのため、特定の財産にのみ利害関係を有する申立人の申立てにより財産管理人が選任された場合であっても、財産全般を管理することを前提とした事務作業や費用等の負担を強いられ、事案の処理にも時間を要してしまいます。
また、不在者財産管理人の報酬を含む管理費用を賄うために、申立人が管理費用相当額の予納金の納付を求められることがあります。その場合の予納金は、20万円以上になることが多いです。
さらに、不在者財産管理人が不動産を売却するには裁判所の許可を得なければなりませんが、裁判所が不動産の売却を許可するとは限りません。特に、不動産の価額の変動が激しいときには、直ちに売却しないと不在者に不利益であると認められる特別な事情がない限り、不動産の売却は許可されない可能性が相応にあります。
(2) 失踪宣告とは
失踪宣告とは、裁判所手続により、所在不明者の生存が確かめられる最後の時から7年経過していることをもって死亡したものとみなす制度です。所在不明者が死亡したものとみなされることで、所在不明者を被相続人とする相続が生じます。
本件で、所在不明の相続人が所在不明になってから7年経過していない場合、失踪宣告を利用することはできません。
また、本件では、所在不明者の相続人である子も所在不明であるため、結局のところ、当該子のために、不在者財産管理人制度や失踪宣告を利用しなければなりません。
(3) 小括
以上のように、本件において、不在者財産管理人制度や失踪宣告は利用しやすい制度でありません。
所在不明者の持分を売却するのを諦めて、自分の持分のみを売却することはできます。もっとも、自分の持分のみを売却しても「空き家問題」が解消するわけではありません。また、自分の持分のみの売却では、売却額が、不動産全体の価額を持分割合によって案分した価額よりも極めて低額になることが多いです。
3. 何ができるようになるか
以上のような問題に対処するため、新しく①所在等不明共有者持分取得制度、②所在等不明共有者持分譲渡制度ができました。これらの制度は、令和5年4月までに利用できるようになります。
(1) 所在等不明共有者持分取得制度とは
所在等不明共有者持分取得制度とは、他の共有者が裁判手続により、所在不明者の持分を買い取ることができる制度です。
買取金額は裁判所が定め、当該金額を法務局に供託することになります。
本件でもこの制度を利用することが考えられますが、利用にあたり供託金を用意しなければなりません。最終的に売却することを予定しているのであれば、次の所在等不明共有者持分譲渡制度を利用する方が適切です。
(2) 所在等不明共有者持分譲渡制度とは
所在等不明共有者持分譲渡制度とは、裁判手続により、自分の共有持分だけでなく、所在不明共有者の共有持分も第三者に売却できる制度です。ただし、当該共有持分が相続財産の場合、相続開始の時から10年間は、この制度を利用することができません。
本件では、相続開始から12年が経過していますので、この制度を利用することができ、所在不明者の共有持分を含めて実家を売却できます。
4. まとめ
所在不明(行方不明)の共有者がいる場合に不動産を売却する方法としては、①不在者財産管理人制度、②失踪宣告、③所在等不明共有者持分取得制度、④所在等不明共有者持分譲渡制度と4つの選択肢を選べるようになります。
いずれを利用するかは、制度利用の目的・効果・費用・期間等に照らして適切に選択する必要があるでしょう。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。