

不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
建物の貸付けと「消費者」該当性
Q
私は、地主として自ら所有する土地上に共同住宅を建築し、その共同住宅の賃料収入をもって生計を立てています。また、私は、その共同住宅とは別に投資用マンションを2部屋保有し、各月額8万円の賃料収入を得ています。最近、不動産市況がいいので、この度、投資用マンション2部屋を売却することとしました。
最も高い金額で購入申込をくれたのは、公立高校の教員をしている50代個人の方です。投資用マンションの購入はこれが初めてとのことですが、間もなく定年を迎えるにあたり、家賃収入を年金の補完とすること(年金的機能)や、死亡した際に団体信用保険から残債が支払われ、遺族に家賃収入が残ること(生命保険的機能)を期待しているとのことです。
私はこの方に売却することとしましたが、売買契約の条件として契約不適合責任を免責としたいです。それは可能でしょうか。
A
1 何が問題か
本売買契約が消費者契約に該当する場合、契約不適合責任を免責とすることはできません(消費者契約法8条1項)。消費者契約とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいいます(消費者契約法2条3項)。消費者契約法の「消費者」とは、個人であるが、事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものは除くとされています(消費者契約法2条2項)。
売主と買主が「消費者」に当たるか「事業者」に当たるかは、以下のパターンが考えられます。
① 個人であるため、「消費者」に当たる
② 不動産賃貸業を営んでいるとして「事業者」に当たる
売主が不動産賃貸業を営んでいるとして「事業者」に当たり、他方、買主は不動産賃貸業を営んでいないとして「消費者」に当たると、本売買契約は消費者契約となり、契約不適合責任を免責にできません。
そこで、売主・買主が不動産賃貸業を営んでいるといえるかが問題となります。
2 不動産賃貸業の判断基準について
「事業」とは、以下のとおり理解されています。
➢ 自己の危険と計算により、一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行をいう
➢ 営利を目的としているかどうかは問わない
➢ ある期間継続する意図をもって行われたものであれば、最初の行為も事業として行われたものと解される
➢ 「同種の行為の反復継続的遂行」については、あくまで社会通念に照らして客観的に事業の遂行とみることができる程度の社会的地位を形成するものをいう
消費者契約法における事業の解釈ではないですが、所得税法、貸間、アパート等の貸付けについては、貸与することのできる独立した室数がおおむね10室以上である場合、原則として事業として行われているものとして取り扱われるとされています(国税庁タックスアンサーNo.1373)。
3 不動産賃貸業該当性について
売主は、共同住宅の賃料収入をもって生計を立てていますので、客観的に事業の遂行とみることができる程度の社会的地位を形成し、不動産賃貸業を営んでいるとして「事業者」に当たるでしょう。
他方、買主は、投資用マンションの購入はこれが初めてですが、投資用マンションを保有することによる年金的機能や生命保険的機能を期待しているので、一定期間継続する意図をもって行われたものとして、投資用マンションの購入が初めてであることにより「事業者」に当たらないということにはなりません。もっとも、買主は、生計を立てるためではなく、年金的機能や生命保険的機能を期待しているにとどまることや、居室は2部屋にとどまり、賃料は少額で本業である公立高校教員としての収入よりも低いであろうことからすると、客観的に事業の遂行とみることができる程度の社会的地位を形成し、不動産賃貸業を営んでいるとまではいえないため、「消費者」に当たるでしょう。
4 まとめ
以上のとおり、売主は「事業者」、買主は「消費者」に当たるため、本売買契約は消費者契約となり、契約不適合責任を免責にできません。
建物の貸付けが事業に当たるかどうかにつき、一律の基準があるわけではありません。必要に応じて専門家に相談するのが良いでしょう。
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長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。