不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
収益不動産を売却しながら賃貸人として住み続ける方法
Q
私はマンションを1棟所有しています。私はその最上階に住み、下の階の各部屋は住居として貸しています。
私は60代ですが、老後に備えて現金を増やしておきたいなと思っていたところ、最近、不動産価格が高騰しているので、今のうちにこのマンションを売却しておいた方がいいかなと思う一方で、もうしばらくここに住み続けたいとも思っています。また、私がこのマンションに住み続けている間は、下の階に住んでいる人に私がマンションを売却したことを知られたくありません。
何かいい方法はありますか。
A
1 マンションを売却しながら住み続ける方法
人生100年時代と言われるように、長寿化で老後の生活が長くなっています。日本では、平均寿命が、約60年の間に男性は約16歳、女性は約17歳、約30年の間に男女共に約5.5歳それぞれ延びており、今後約20年の間に男女共更に約2歳延びると推計されています(厚労省)。こうした状況において、老後資金を確保するため、自宅を活用する例が広がっているとされています。
老後資金を確保するため、自宅を活用する例としては、①自宅から退去する単純な売却、②リースバック、③リバースモーゲージがあります。②のリースバックとは、自宅を売却した上で、買主から自宅を借りるというものです。③のリバースモーゲージとは、自宅を担保に融資を受け、一般に、生きている間は利息の支払のみをし、死亡時に自宅を売却して元本を返済するというものです。
相談者は、マンション売却しながら、なおマンションに住み続けることを希望していますので、相談者の希望を叶える方法としては、②のリースバックが考えられるところです。
リースバックを受ける際の賃貸借契約の形式としては、①期間の更新のある通常の賃貸借契約と、②期間の更新のない定期建物賃貸借契約があります。一般に、①の通常の賃貸借契約よりも②の定期建物賃貸借契約の方が、自宅の売却代金が高くなり、賃料も低く抑えることができます。ただ、定期建物賃貸借契約は、期間の更新がなく、一定期間経過後、退去しなければならないことに注意する必要があります。
2 賃借人にマンション売却を知られないようにする方法
一般に、賃貸不動産の所有者兼賃貸人が当該不動産を売却した場合、所有権と併せて賃貸人としての地位も買主に移転するとされています(民法605条の2第1項、借地借家法31条)。これを賃貸人たる地位の移転といいます。賃貸人たる地位が移転すると、一般に、新賃貸人(買主)と旧賃貸人(売主)が、連名で、賃借人に対し、賃貸人が変更になったこと、賃料の支払先が変わることなどを通知します。そうすると、相談者がマンションを売却したことが賃借人に知れるところとなります。
ところが、相談者は、マンションを売却したことを賃借人に知られたくないとのことです。これを実現する方法として、マンションを売却しても賃貸人たる地位を相談者に留保することが考えられます。賃貸人たる地位を相談者に留保した場合、相談者は、買主からマンションのリースバックを受け、これを賃借人に貸すことで、賃借人との間で賃貸人であり続けることになります。これは、2020年4月に施行された改正民法605条の2第2項において新たに採用された制度です。賃貸人や賃料の支払先に変更はないため、通常、賃借人に何かを通知することはありません。こうすることで、相談者がマンションを売却したことは賃借人に知られにくくなります。ただ、マンションの所有権は買主に移転しており、それ自体は登記で確認することができますので、相談者がマンションを売却したことを完全に秘匿することはできません。
3 最後に
リースバックや賃貸人たる地位の留保は比較的新しい仕組みで、利用するにあたっては注意すべき点も多々あります。これらの利用を検討するにあたっては、専門知識のある不動産業者を活用するのが望ましいでしょう。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。