不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
越境が生じている土地を売却する際の注意点
Q
私(A)は、約3年前に土地・建物(一戸建て)を購入し、居住していましたが、急遽実家の店舗を手伝うことになり、住まいを売却することにしました。
改めて現況を確認したところ、建物の東側で、隣地の建物(土地建物B所有)の屋根が越境して私の所有地に食い込んでいることが分かりました。他方、西側の境界付近をみると、私の所有地内に植えられた木の枝が隣地(C所有)までせり出していることが分かりました。気づいたばかりなので、両隣地の所有者とは何も話をしていません。このような物件でも売却することができますか。
A
1.売却の可否
土地は、一定の範囲の地面に、合理的な範囲で、その上下(空中と地下)を包含したものであると考えられています。Aさんの土地所有権もこの範囲に及んでいます。
そのため、Bさんの建物の屋根はAさんの土地所有権を侵害していることになります。他方、Aさんの木の枝は、Cさんの土地所有権を侵害していることになるわけです。
このようなAさんの土地・建物も売却すること自体は可能です。ただ、所有権侵害をめぐる問題を事前に手当てしたり、買主に対し状況を説明するなどの手続が必要になってきます。
2.建物の屋根の越境
(1) 説明義務
買主が建物の再築を予定していた場合、越境物が存在すると、建ぺい率などに影響し、買主が希望する建物を建てられなくなる可能性があります。
そのため、Aさんは、買主に対し、越境の存在を説明しておく必要があります。これを怠ると、説明義務違反に基づく損害賠償請求を受ける事態にも発展しかねないので注意が必要です。
なお、越境状態が容易に気づかないケースでは、瑕疵担保責任の問題も生じ得ます。
(2) 越境状態の解消
買主から、残代金決済までに越境状態の解消を求められるケースもありますが、屋根の一部の越境については、所有権侵害となっている土地の面積はそれほど大きくないでしょうから、建物全体の取り壊しまで求めることは、権利の濫用に当たり困難です。
実務的には、越境状態が将来的に解消されるように覚書を取り交わすことで解決を図ります。具体的には、Aさんは、Bさんとの間で、Bさんが将来建物を取り壊して再築する際、Bさんの敷地に収まるように建物を建築し、越境状態を解消させる旨の合意を取り付けます。面積自体は少なくても、所有権侵害が生じていることに変わりありませんので、「合意書」や「覚書」といった形で合意を書面化し、解決したことを証跡として残すことにより、買主の要望に応え、売却を実現していきます。
3.枝の越境
(1) 説明義務
Cさんは、民法上、Aさんに対し、越境状態の解消を求め、枝の切除を請求することができます。枝の越境ですと軽微であるイメージもありますが、越境した枝からの落ち葉や落下した実の片づけなど、越境された土地所有者の負担となるケースもあります。
もっとも、CさんがAさんとの従前の関係を考慮し、枝の切除請求をしない場合もあります。しかしながら、Aさんが第三者に土地を売却すれば、こうした関係もなくなりますので、切除を請求される可能性もあります。
そのため、枝の越境についても買主に説明をする必要があります。
(2) 紛争の予防等
買主から、所有権移転までに、売主であるAさんに対し、Cさんとの紛争が起きないように取り決めを求められることもあります。
その場合、Aさんは、Cさんとの間で、枝の取扱いについて合意を取り付ける必要があります。理論上、上記のとおり枝の切除請求や所有権侵害に基づく使用料相当額の請求などが考えられるものの、枝の越境の場合、高額な金銭の支払に発展するケースはそれほど多くないように思われます。
以上のとおり、越境が生じている土地を売却する際には、近隣所有者との権利調整が必要であり、専門家のサポートが必要な場面も少なからず出てきます。早めに相談をすることをお勧めします。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。