

不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
契約不適合責任の範囲
Q
私は、30年来、クリーニング会社を営んでいますが、高齢のため、引退することとしました。親族や最近話題のM&Aにより後継者を探しましたが、残念ながら後継者は見つかりませんでした。そこで、やむを得ず、クリーニング会社を廃業することとし、クリーニング業を営んでいた店舗を解体し、店舗の跡地(以下「本土地」といいます。)を売却することにしました。
仲介会社のアドバイスにより、不動産業者よりも個人のエンドユーザーを相手とする方が高値で売却できるとのことで、エンドユーザーに売却したいと考えています。
本土地を売却するにあたり懸念していることがあります。当社ではドライクリーニングでテトラクロロエチレン(特定有害物質)を含む薬剤を使用していませんでした。そのため、当社の責任で本土地に土壌汚染が生じていることはないはずです。しかしながら、本土地では、当社がクリーニング店を営む前にもクリーニング店がありました。そのため、そのクリーニング店がテトラクロロエチレンを使用し、本土地に土壌汚染が生じている可能性は否定できません。
本土地売却後に土壌汚染が生じていることが発覚し、土壌汚染対策費用として多額の損害賠償請求を受けるようですと、引退後の資金計画が崩れてしまいます。土壌汚染が生じていた場合でも責任を負わないようにすることはできますか。
A
1 何が問題か
売買契約において、契約の目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」である場合、売主は契約不適合責任を負うとされています(民法562条以下)。
法令の基準値を超える土壌汚染は、人に被害を及ぼす蓋然性があります。そのため、法令の基準値を超える土壌汚染のある土地は、土地が通常有すべき品質を有していないとして、一般に「品質が契約の内容に適合しないもの」に当たるとされています。
土壌汚染が契約不適合に当たるとしても、契約不適合責任を免責とすることが考えられます(民法572条)。しかしながら、事業者である会社を売主、消費者であるエンドユーザーを買主とする売買契約においては、契約不適合責任を免責とすることはできません(消費者契約法8条1項1号)。
2 品質の不適合とは
上記のとおり、本件において、一般的には、本土地に土壌汚染が生じていた場合に売主が責任を負わないようにすることはできません。
では、およそ本件において本土地に土壌汚染が生じていた場合に売主が責任を負わないようにすることはできないのかというと、そういうわけではありません。
そもそも、「品質が契約の内容に適合しない」とは、契約の目的物が「その契約において当事者が予定していた備えるべき品質・性能を欠いていること」を意味します。「その契約において当事者が予定していた備えるべき品質・性能を欠いていること」が何かは、契約内容の問題です。
そこで、契約内容として、「後日、土壌汚染調査の結果、土地利用に制限が課せられたり、対策工事費用の負担が生じることを買主が容認する」旨の定め(以下「本容認事項」といいます。)をおくことで、本土地には潜在的に土壌汚染リスクがあり、そのリスクは買主負担とする内容の契約とすることができます。
本容認事項により、本件において本土地に土壌汚染が生じていた場合でも売主が責任を負わないようにすることができます。
3 最後に
一般に契約不適合に当たる不具合がある場合でも、それを容認事項として定めることで、売主が契約不適合責任を負わないようにすることができる場合があります。ただし、容認事項を定める場合でも、売主の当該不具合に関する認識の有無、買主に対する説明等如何により売主が責任を負う場合があることに注意する必要があります。
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長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。