不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
借地権付建物を売却する際の注意点(1)
Q
私は、この度、自分が生まれ育った実家を親から相続しました。
実家は、建物が親の所有で、土地が親の所有でなく借りているものでした。
実家には思い出が詰まっていますが、私は、今、別のところに生活基盤があるため、実家を売却しようと思います。
そこで、地主さんに実家を売却する旨を報告しに行きました。そうしたところ、地主さんから、実家を売却するのは認めないと言われてしまいました。どうも、親と地主さんとの関係性があまりよくなく、感情的に反対されてしまったようです。
実家の権利は私にあるはずなのに、実家の売却を反対する権利が地主さんにあるのでしょうか。実家を売却するにはどうすればよいのでしょうか。
A
1.はじめに
「平成25年住宅・土地統計調査結果」(総務省統計局)によると、「持ち家」の敷地を利用する権利が借地権(土地の賃借権等※1)である割合は、全国で3.6%、東京都23区で8.0%となっています。実家を相続したところ、それが借地権付建物であることは、それほど珍しいことではないでしょう。
※1 土地を利用する権利である借地権の種類としては賃借権と地上権がありますが、家を所有するための借地権は賃借権であることが多いため、ここでは賃借権を前提として話を進めます。
2.借地権付建物を売却するには地主の承諾が必要です
借地権(土地賃借権)付建物を売却する場合、建物所有権と一緒に借地権(土地賃借権)も建物の買主に移転させることになります。建物の買主としては、借地権(土地賃借権)がなければ、建物が建っている土地を利用する権利がなく、不法占拠になってしまうからです。
この借地権(土地賃借権)を移転させるにあたって、地主の承諾が必要とされているのです。賃貸借契約というのは、1回きりの短期の契約ではなく、継続的な契約です。特に、土地の賃貸借契約の期間は、通常、30年以上とかなり長期になります。地主としては、この人であれば、長期間、きちんと土地を使ってくれるであろう、賃料を支払ってくれるであろうなどと信頼して、土地を貸しています。それにもかかわらず、勝手に借地権(土地賃借権)が第三者に移転され、変に土地を利用されたり、賃料を支払ってくれなくなったりしたら、地主が困ってしまいます。
そこで、借地権(土地賃借権)付建物を売却するには地主の承諾が必要とされています。
3.地主が承諾しない場合、土地賃借権譲渡許可の申立てという裁判手続があります
それでは、設例のように、地主から借地権(土地賃借権)付建物の売却につき承諾を得られない場合はどうしたらいいのでしょうか。利用するあてのない建物を相続して、売却もできないのでは、建物の維持管理に費用や労力がかかるだけで、相続人としては困ってしまいます。これでは、昨今問題になっている空き家問題を助長することにもなります。
そこで、法は、土地賃借権譲渡許可の申立てという手続を用意しています。これは、借地権(土地賃借権)の譲渡につき、地主に代わって裁判所に許可してもらう手続です。裁判所は、借地権(土地賃借権)の譲渡を認めたとしても地主に不利となるおそれがないかどうかを検討し、当該おそれがなければ、地主に代わって借地権(土地賃借権)の譲渡を許可します。地主に不利となるおそれがあるとされる典型例としては、買主候補者が暴力団などの反社会的勢力である場合や風俗営業、騒音・振動・悪臭を伴う営業をしようとしている者である場合などです。
4.土地賃借権譲渡許可申立手続では、地主が建物を優先的に買い取る権利があります
他人に土地を貸している地主は、簡単に、賃貸借契約を解約したり、賃料を増額したりできるわけではありませんので、不都合を感じることがあります。
そこで、法は、土地賃借人から上記土地賃借権譲渡許可の申立てがされた場合、地主が建物を買主候補者に優先して買い取る権利を認めています。これを介入権といいます。
建物及び土地賃借権の譲渡価格は、建物所有者と買主候補者との間の売買契約における代金とは別に、裁判所が独自に算定します。
5.まとめ
以上のとおり、借地権(土地賃借権)付建物を売却するには地主の承諾が必要ですが、地主の承諾が得られなくとも、土地賃借権譲渡許可の申立手続により買主候補者又は地主に対し建物を譲渡することが可能となります。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。