不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
駐車場契約を解約して同土地を売却する際の注意点
Q
私は父の相続により戸建ての土地建物4棟と駐車場用の土地を取得しました。1棟は亡くなった父の居住用、他の3棟は賃貸に出されています。駐車場は、屋根のない青空駐車場で、戸建てとは道路を挟んで向かい側の土地にあります。そこに8台分の駐車スペースがあり、1台分は亡き父の自家用車用、3台分は3棟の賃借人に1区画ずつ駐車場として賃貸し、残り4台分も駐車場として別の方々に賃貸しています。
私は、相続税の原資にするため、駐車場賃貸借契約を解約し、駐車場の賃借人に退去してもらった上で、駐車場の土地を売却したいと思っています。本コラム2019年3月号によると、賃貸借契約を解約するには正当事由が必要とのことでした。駐車場賃貸借契約を解約するにも正当事由が必要になるでしょうか。
A
1 何が問題か
土地賃貸人が土地賃貸借契約の解約を申し入れるのに原則として正当事由が必要とされるのは、「建物の所有を目的」(借地借家法(以下「法」といいます。)2条1号)とする土地賃貸借の場合に限られます(法6条)。そうすると、本件の青空駐車場賃貸借契約は、「建物の所有を目的」とするものでないため、解約申入れに正当事由は不要なようにも思えます。
もっとも、青空駐車場の一部は、向かいの戸建ての賃借人が利用しています。建物賃貸人が建物賃貸借契約の解約を申し入れるには、原則として正当事由が必要とされています(法28条)。
そこで、戸建ての賃借人との駐車場賃貸借契約の解約を申し入れるのにも、正当事由が必要となるのではないかが問題となるのです。
2 建物賃貸借に付随した駐車場の多様性
一口に、建物賃貸借に付随した駐車場といっても、その内容は多種多様です。本件事例とは別に、例えば、以下のような場合が考えられます。
①建物と同一敷地内に1台分の駐車スペースがあり、そこを駐車場として利用する場合
②建物(マンション)と同一敷地内に居住者専用の駐車スペースが用意されており、居住者は建物賃貸借契約のオプションとして駐車スペースの利用申込みができるようになっている場合
③建物賃貸人とは全く別の第三者との間で、建物近隣の月極駐車場を利用する場合
①の場合、そもそも駐車場契約がないことが多いでしょう。建物の賃借人は、賃借している建物を使用するために必要な限度で敷地を使用することができ、建物の敷地内に駐車スペースがあるような場合、駐車スペースについて別途利用契約を締結していなくても利用できると考えられているからです(東京高判S34.4.23参照)。そのため、①の場合、駐車場契約の解約は観念できないでしょう。
②の場合、駐車場スペースの利用契約は建物賃貸借契約と一体であることが多いでしょう。そのため、②の場合、建物賃貸人は、駐車場スペースの利用契約につき、正当事由が必要とされる建物賃貸借契約から独立して解約の申入れをすることができないでしょう。
③の場合、建物賃貸借契約と駐車場契約はまったく別個の独立した契約です。そのため、③の場合、駐車場契約の解約申入れに正当事由は必要とされないでしょう。
3 正当事由の要否
駐車場の賃貸借契約に正当事由が必要とされるかどうかは、上記の事例の分析から、大枠として以下のことが分かるでしょう。
①建物の賃貸借契約とは別に駐車場の賃貸借契約があるか
②建物賃貸借契約と駐車場契約が一体かどうか
本件でも、建物賃貸借契約とは別に駐車場の賃貸借契約があるかどうか、あるとして、両契約が一体かどうかを検証する必要があります。両契約が一体かどうかを検証するにあたっては、以下の事情を考慮する必要があります(東京地判H21.1.30、東京地判H31.1.30参照)。
ⅰ両契約の契約書が同じか否か
ⅱ両契約の契約期間が同じか否か
ⅲ建物賃貸借契約の募集時や締結時に駐車場が有るものとされていたか否か
ⅳ駐車場賃貸借契約が建物賃貸借契約とは別に必要とされていたか否か
4 権利濫用
上記3の検証の結果、駐車場賃貸借契約が建物賃貸借契約と一体ではないとしても、駐車場賃貸借契約を解約することが権利濫用として認められないことがあります。その判断にあたっては、以下の事情を考慮する必要があります(福岡高判H27.8.27、東京地判H31.1.30参照)。
ⅰ建物を利用する上で、駐車場が不可欠かどうか
ⅱ周辺に別の駐車場が存在しているか
ⅲ建物の敷地とは別に駐車場の土地のみで利用価値があるか
5 まとめ
以上のとおり、本件の駐車場契約を解約するのに正当事由が必要になるか、解約することが権利濫用として認められないことにならないかは、様々な事情を総合考慮した判断が必要となります。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。