不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
共用部分と契約不適合責任
Q
私は、ルーフバルコニー付きの居住用マンションの1室を売却しました。ところが、買主から、上階のバルコニーのアルミ手摺の鉄格子がルーフバルコニーに落下し又は落下するおそれがあり、ルーフバルコニーを使用することができないとして、契約不適合責任に基づき損害賠償請求を受けました。私は損害賠償請求に応じなければならないでしょうか。
A
1 何が問題か
売買契約の売主は、引き渡した目的物の品質が契約の内容に適合しないものであるとき、買主に対し損害賠償責任を負います(民法564条、415条)。では、ルーフバルコニーは売買契約の目的物に当たるでしょうか。
分譲マンションのような区分所有建物は、区分所有者が単独で使用できる専有部分と区分所有者の共用に供される共用部分によって構成されています。マンションの住戸は専有部分とされます(標準管理規約7条1項)。そのため、マンションの住戸は売買契約の目的物そのものです。
バルコニーやベランダも、平時は、住戸の使用者が単独で使用していますので、住戸と同様、売買契約の目的物になりそうです。もっとも、バルコニーやベランダは、火災や地震などの緊急時において重要な避難経路となります。また、構造上、外壁の一部を構成しています。そのため、バルコニーやベランダは、共用部分とされています(標準管理規約8条別表第2)。共用部分は区分所有者の共有とされ(区分所有法11条1項)、専有部分と分離して売却することができません(区分所有法15条2項)。
このように、バルコニーやベランダは、住戸と法的性質を異にし、住戸そのものではありません。そこで、バルコニーやベランダも売買契約の目的物に当たり、その契約不適合につき損害賠償責任を負うかが問題となります。
2 共用部分について
エントランスホール、廊下、階段、エレベーター室のような共用部分は、区分所有者の全員が使用できます。これらの共用部分は、管理組合が管理責任を負っています(標準管理規約21条1項本文)。これらの共用部分に不具合があれば、管理費や修繕積立金をもって修繕します(標準管理規約27条3号、6号、7号、28条1項1号、2号)。そのため、これらの共用部分に不具合があっても、売主は契約不適合責任を当然に負うわけではありません。
他方、バルコニーやベランダも共用部分ではありますが、専用使用権が認められています(標準管理規約14条1項)。専用使用権とは、特定の区分所有者が排他的に使用できる権利のことです。バルコニーやベランダの場合、これらに接続している住戸の所有者に専用使用権が認められています。そこで、ルーフバルコニーは、住戸に付随するものとして、売買契約の目的物に含まれると考えられています(東京地裁平成25年3月11日判決参照)。
したがって、ルーフバルコニーが使用できないという契約不適合がある場合、売主は買主からの損害賠償請求に応じなければなりません。
3 最後に
以上のとおり、売主は、ルーフバルコニーが共用部分であるからといってその契約不適合責任を免れるわけではありません。
専用使用権が認められた共用部分に不具合がある場合、契約前に告知・説明するなどの対応が望ましいでしょう。
なお、専用使用権が認められていない共用部分につき売主が契約不適合責任を負うか否かはより複雑であり、慎重な検討が必要となります。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。