不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
破産会社との間での境界確定
Q
私は、20年前に相続して以来、更地のまま放置している土地(以下「本件土地」といいます)を売却することにしました。
私は、仲介業者さんに本件土地を売却したい旨をお伝えすると、仲介業者さんから、「本件土地は、それと隣接する私道との境界が曖昧なので、境界を確定して売却したほうが、買い手が見つかりやすくなると思います」とのアドバイスを受けました。
仲介業者さんが指摘するとおり、本件土地に面する土地は、長年私道として近隣住民に利用されていますが(以下、この土地を「本件私道」といいます)、本件土地と地続きになっており、その境界が明らかではありません。私は、本件土地の相続当時の資料を調査しましたが、それでも境界に関する資料は見つかりませんでした。
そこで、私は、本件私道との境界を確定する作業を、土地家屋調査士さんにお願いすることにしました。
ところが、私は、土地家屋調査士さんから、「本件私道の登記簿上の所有者A株式会社(以下「A社」といいます)が10年前に破産しており、同社に対し測量の立会いを求められないため、このままでは境界を確定できない」と言われてしまいました。
本件私道との境界を確定する方法は、なにかないのでしょうか。
A
1 なにが問題か
境界の確定は、隣地所有者の土地にも影響を与えるため、隣地所有者の立会いのもと測量を行うことが必要です。
ご相談の件では、本件私道の所有者A社が、10年前に破産しています(既に破産手続が終了していると考えられます)。そこで、このような場合に、誰に対し、どのように立会いを求めるかが問題になります。
なお、境界の確定には、訴訟を提起する方法等もございますが、ここでは立会いを達成する方法に絞って考えてみたいと思います。
2 不動産登記簿上の所有者の破産
破産(手続)とは、破産者の不動産等の財産を、換価処分して金銭に換え、それを各債権者に対して弁済等する手続です。また、破産手続において裁判所から選任され、破産者の財産の換価処分を行い、破産手続を進める者を、破産管財人といいます。
本来であれば、破産者の有する不動産は、破産管財人により換価処分されるため、その時点で、不動産の所有者が破産者から第三者に移転します。そのため、不動産の所有者が破産しているにもかかわらず、なお不動産登記簿上の所有者であるとの事態は、あまり目にするものではございません。
しかしながら、例外的に、破産者の破産手続当時、破産管財人が、破産者の有する不動産の存在に気付かず、換価処分をできなかった等の事情により、不動産登記簿上の所有者が破産しているとの事態に遭遇することがございます。
3 破産管財人または売却先へのアプローチ
原則として、破産手続の終了により、破産管財人の業務は終了するため、破産会社に残された不動産が発見されても、破産管財人が当該不動産の換価処分をすることはありません。
しかしながら、裁判所(東京地方裁判所)の運用では、破産会社に残された財産が発見された場合、その財産の換価価値がある場合に限り(破産手続において放棄していないことも条件ですが、ここでは割愛します)、破産手続の終了した後であっても、例外的に破産管財人に当該財産の管理処分権が残っているものと扱うとされています。
ご相談の件でも、本件私道が換価価値を有する場合には、破産管財人に管理処分権が残っているものと扱われるため、ご相談者様は、破産管財人を相手として、立会いを求められる可能性がございます。
また、破産管財人は、その業務として、本件私道の換価処分を進めるため、本件私道の売却後に、ご相談者様がその売却先に対して、立会いを求められる可能性もございます。
4 清算人へのアプローチ
(1) 清算人の選任
他方、前記3と異なり、破産会社に換価価値を欠く財産が発見された場合、裁判所(東京地方裁判所)の運用では、破産会社に当該財産の管理処分権が復活するものとして扱うとされています。この場合、ご相談者様は、破産会社に立会いを求めなければならず、破産管財人に立会いを求めることはできません。
破産会社の立会いを求めるのは、会社が破産しているが故に不可能にも思えますが、ご相談者様は、裁判所に対し、破産会社の代表者(清算人)の選任を申し立てる(清算人選任の申立て)ことで、立会いを達成できることがあります(なお、清算人選任制度は、本来、会社の清算業務全般を清算人に行わせるための制度ですが、東京地方裁判所等では、今回のような特定の目的のため、清算人を選任することを認める場合があります(スポット型運用))
(2) 清算人選任申立ての要件
破産会社の清算人の選任の申立ては、①申立人が法的利害関係を有し、②定款の定めまたは株主総会決議によって清算人となる者がいないときに認められます。
①の法的利害関係については、清算会社の所有する土地の隣地所有者というだけでは、利害関係を有さないと考えられています。もっとも、ご相談の件では、本件土地の所有権の確認等として、ご相談者様の法律利害関係を肯定できるため、①を満たし得ます。
また、②については、申立時に可能な範囲で調査が必要ですが、調査ができないやむを得ない事情等があれば、その事情が考慮される余地があります。
5 まとめ
以上のとおり、隣地所有者が破産会社である場合でも、境界確定のための立会いを求められる可能性がございます。
立会いを求めるに当たっては、上記のとおり、立会いを求める相手が事案により異なったり、清算人の選任申立てが必要となったり等の複雑な対応を迫られるため、ご相談者様としては、裁判所の実務や法律に精通した弁護士等の専門家を交えて対応するのが望ましいでしょう。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。