不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
相続の対象となっている不動産の売却
Q
私は、妻の両親との二世帯住宅に住んでおり、義父が住宅を所有していました。今般、義父が亡くなったことに伴い、私と妻、義母の3名で話し合ったところ、この住宅を売却し、都内の別のところに引越をすることになりました。妻には疎遠になっている姉妹が2人いて、いずれも北海道に居住していると聞いていますが、長らく連絡をとっていません。この住宅を売却するには、どのような手続をとればよいでしょうか。なお、義父は遺言書を作成していませんでした。
A
1.売主は誰なのか
不動産の売買は、原則として、その不動産の所有者が売主となり、不動産の所有権を取得したい者が買主となります。
例外として、他人物売買のように、所有者でない売主が、近い将来所有権を取得することを見込んで売買契約を締結するケースもありますが、売買の決済日(実行日)までに売主が所有者とならなければ、売買の対象となる不動産の所有権(の全て)を買主に移転させ、売買(取引)の目的を達成させることができません。
そこで、このケースでは、義父がこの住宅を所有していたところ、亡くなって相続が発生していますので、相続による所有権の移転先(所有者)を確定させ、売主が誰になるのかを確定させる必要があります。
2.遺産分割協議
このケースにおいて、相続人は配偶者である義母、子である妻、その姉妹2名の合計4名です。相続が開始された時点では、この住宅は、4人の共有状態に置かれています。
そのため、4人の共有持分は各々で譲渡することができますが、この住宅の所有権(共有と対比する意味で「全体の所有権」)となると、4人全員の合意がない限り、売却を実現させることができません。
具体的には、相続人4名が遺産分割協議を行い、義父の遺産を誰にどのような形で帰属させるのかを合意し、その結果、この住宅を所有することになった者が売主となります。
このケースについてみますと、妻は、姉妹2人とは疎遠で長らく連絡をとっていないことから、遺産分割が完了していない状況です。そこで、この姉妹2人と連絡をとり遺産分割協議を始める必要があります。
もっとも、この姉妹は長らく連絡をとっていないため、音信不通・行方不明になってしまっているケースも想定されます。この場合は、状況によりますが、裁判所に不在者財産管理人選任の申立てをし、選任された不在者財産管理人を交え遺産分割協議を進めていくこととなります。
また、遺産分割協議は、被相続人(このケースでいう義父)の遺産のすべてを相続人に分割する手続です。そのため、遺産の一部つき、誰が相続するか争いが生じることもあります。例えば、この住宅については、これまで居住してきた義母と妻の共有することについて争いがないものの、他の不動産や預貯金の分割について争いがあるケースも考えられるのです。この場合、他の不動産の評価額が高額であったり、預貯金額が多額にあったりするなど、他の共同相続人(このケースでは姉妹2人)の利益を害するおそれがなければ、先にこの住宅だけを分割することもできます。
3.売買契約の締結
こうして、遺産分割協議の結果、この住宅を義母と妻の共有とすることとなれば、義母と妻を売主として不動産売買契約を締結し、売買を実行していきます。
本来、遺産分割協議が調った時点で、遺産分割に基づく相続登記申請をし、この住宅の登記名義を義母と妻の共有とするのですが、遺産分割協議が終わった直後に売買契約を締結する場合など、相続登記がされていないケースも少なくありません。
このようなときは、状況にもよりますが、相続登記と買主への所有権移転登記を同時に行う方法をとることが考えられます。
4.まとめ
このように、相続の対象となった不動産を売却しようとする場合、遺産分割を経て売却をしていくことになりますが、これまで述べてきたように、状況に応じ手続を踏む必要があります。しかも、遺産分割は、相続人の利害が複雑に絡み合うため、遺産分割協議が難航することや、遺産分割調停等の法的手続を経ることもあり、解決に長期間を要することも少なくありません。適宜、不動産仲介会社、司法書士、弁護士等の専門家の協力を得ながら手続を進める必要があります。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。