不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
老朽化した住宅を売却する際の注意点
Q
私は、都内に中古の一戸建てを購入して長年生活してきましたが、定年退職を機に、妻とともに、生まれ故郷に戻って生活したいと考えています。そこで、近々、現在の住まいである一戸建て住宅を売却したいのですが、この住宅は、築40年以上で老朽化も進んでいます。このような住宅でも売却することができるのでしょうか。また、売却する際の注意点があれば教えて下さい。
A
1.築40年以上の一戸建てでも売却できる
築40年以上の一戸建ては、壁・柱・床版などの躯体だけでなく、電気・ガス・水道などのライフラインの設備も老朽化しています。また、建築当時は現在より耐震基準が緩かったため、十分な耐震性を備えていない建物が多くあります。そのため、実際は、土地の価値に着目し、建物は取り壊す前提で取引が行われることも少なくありません。
とはいえ、何度かリフォームを行っている建物や、ライフライン設備のメンテナンスをこまめに行っている建物のように、いわば「手をかけた」建物は、引き続き住居として使用したいとするニーズも一定程度あります。
建物の状態次第ではあるものの、築年数が40年以上であるからといって、売却を諦めてしまうのは早計です。
2.瑕疵担保責任を負ってしまっては
老朽化した建物を売却する際、売主として気になるのが瑕疵担保責任です。
瑕疵担保責任とは、建物に、容易には発見できない欠陥等(いわゆる「隠れたる瑕疵」)がある場合に売主が負う責任のことです。例えば、売却後間もなく、水漏れが発生したケースで、その原因が水道管の老朽化にあった場合、売主は、買主に対し、その修繕のためにかかった費用などを賠償しなければなりません。
もちろん、売買契約を締結する際、売主が瑕疵担保責任を負わない特約(瑕疵担保責任免除特約)を設けていたケースでは、売主は免責されますので、将来の修繕費等を負担する必要はありません。
もっとも、買主からは、建物を取り壊す前提であればともかく、建物の継続使用を予定している場合、瑕疵担保責任の免除に反対されることが多く、売買契約において、売主が瑕疵担保責任免除特約を勝ち取れるケースは決して多くありません。
なお、売買契約書には「現状有姿」にて売買を行う旨定められていることがよくありますが、「現状有姿」とは、もともと契約時の状態で引き渡せば足りる(「引渡し」としては十分である)という意味で、必ずしも瑕疵担保責任の免除を意味するものではありません。
3.低い売買価格との関係は
築年数が経過した老朽化物件の売買価格は、新築物件に比べると大幅に低くなってしまいます。低い価格に加え、瑕疵担保責任を負わなければならないことは、売主にとって大きな負担になりそうです。
もっとも、裁判例を概観すると、老朽化物件の瑕疵担保責任については、ある程度柔軟な解釈がされる傾向にあります。
例えば、排水管の老朽化により漏水事故が発生したケースで、この老朽化が建物の通常の経年劣化によるものであることを認定した上で、経年劣化の点は代金設定において考慮されており、老朽化から生ずる欠陥は買主が予測できた範囲内ものであるとして、この排水管が「瑕疵」には該当しないと判断したものがあります。
この裁判例を前提とすれば、売主が瑕疵担保責任を負うのは、通常の経年劣化では説明できない瑕疵であると考えてよいでしょう。
4.説明義務を尽くす
他方、売主は、瑕疵担保責任に加え、買主に対する説明義務も尽くしておく必要があります。
説明義務とは、売買契約に伴う付随義務として、買主に対し、売主が対象物件の状態につき説明する義務をいいます。実務上は、仲介会社から重要事項説明として買主へ情報提供がなされ、また、売主が作成した物件状況報告書や付帯設備表を買主に交付することにより、説明義務を履行していきます。
特に老朽化物件では、建物の状況について、買主へきちんと情報提供を行うことが重要です。例えば売主が雨漏れの状況を知っていたのに、買主に伝えなかったために、引渡後買主から雨漏れのクレームを受けたようなケースでは、売主の説明義務違反を問われてしまいます。
5.まとめ
以上のように、築40年を経過し、老朽化した一戸建てであっても、売却の可能性は十分にあります。ただ、これまで述べてきたように、瑕疵担保責任や説明義務の問題など、新築物件の売却にはない難しさがあります。老朽化物件は、仲介会社含め専門家のサポートがあってこそ実現できる売買といっても過言ではありません。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。