不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
借地権付建物を売却する際の注意点(2)
Q
私は、マンションの1室を子と2分の1ずつ共有し、このマンションに子と一緒に住んでいましたが、終活の一環として、マンションの私の共有持分2分の1を子に売却しました。
ところが、後日、私と子は、マンションの地主から、土地賃借権の無断譲渡を理由に土地賃貸借契約を解除するので、マンションの私の共有持分2分の1を売り渡すようにとの請求を受けました。
マンションの敷地は第三者である地主が所有し、毎月、管理費と併せて地代が銀行口座から自動引落されていますので、マンションの敷地利用権は賃借権です。ただ、私は、子に、マンション1室の共有持分を売却しただけで、土地賃借権を売却したつもりはありません。
それにもかかわらず、土地賃借権の無断譲渡になってしまうのでしょうか。地主からのマンションの売渡請求に応じなければならないのでしょうか。
A
1 はじめに
本事案のように、親子や夫婦などの親族間で、賃借権を譲渡したり転貸したりすることは少なくありません。また、地代がマンションの管理費と併せて徴収されていると、マンションの所有者は、土地を地主から借りているという意識が希薄であることもあるでしょう。
しかしながら、マンションの敷地利用権が賃借権である場合、安易にマンションを譲渡(売買、贈与等)すると、地主との関係で法的問題が生じかねません。
2 土地賃借権の無断譲渡になるか
土地上に建物があり、土地の利用権が賃借権の場合、建物の共有持分割合と、賃借権の準共有 1 持分割合は通常一致することになっています。そのため、建物の共有持分割合が変わると、それに伴い賃借権の準共有持分割合も変わります。
本事案では、当初、親と子が建物の共有持分をそれぞれ2分の1ずつ保有していましたので、土地賃借権の準共有持分割合もそれぞれ2分の1ずつになります。その後、親が子に建物の共有持分2分の1を譲渡(売却)し、子が建物を単独所有しましたので、土地賃借権の準共有持分2分の1も親から子に譲渡され、子が土地賃借権を単独で保有することになります。
そのため、親が子に建物の共有持分を譲渡(売却)した際、土地賃借権の準共有持分の譲渡につき地主の承諾を得ていないと、土地賃借権の無断譲渡になってしまいます。
1 所有権以外の財産権を複数の人が所有することを「準共有」といいます。
3 地主からのマンションの売渡請求に応じなければならないか
(1) どのような場合に売渡請求ができるか
マンションのように、部屋ごとに所有権が設定されている建物を区分所有建物、その部屋の所有権を区分所有権、その部屋の所有者を区分所有者といいます。区分所有者が敷地利用権を有しないと、地主は、区分所有者に対し、区分所有権を売り渡すよう請求することができます(区分所有法10条)。
本事案で、地主が、親の子に対する区分所有権2分の1の譲渡に関し、土地賃借権の無断譲渡を理由に土地賃貸借契約を解除できると、子は土地賃借権の2分の1の準共有持分につき賃借権(敷地利用権)を失い、マンション1室の2分の1の共有持分に係る敷地利用権を有しないことになります。そうすると、地主はマンション1室の2分の1の共有持分(区分所有権)を売り渡すよう請求することができることになります。
(2) 土地賃貸借契約を解除できるか
建物の譲渡に伴い、土地賃借権を譲渡する場合、地主の承諾が必要とされています(民法612条1項。詳しくは、本コラム2019年8月号をご参照ください。)。地主の承諾なく、土地賃借人である建物所有者が建物を譲渡し、これに伴い土地賃借権を譲渡すると、地主は、建物所有者との土地賃貸借契約を解除できるのが原則です(民法612条2項)。例外的に土地賃貸借契約を解除できないのは、土地賃借権の無断譲渡が、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときです。この「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」は、①賃貸借の実態に変化がないか、②賃貸人に経済的不利益を与えないか、③譲渡人と譲受人との間に密接な人的関係があるか等を総合考慮して判断します。
本事案では、①マンション1室の所有者が変わったとしても、敷地上のマンション自体が変わるわけではないので、敷地の利用実態に変化はありません。②譲受人に地代を支払うに足りる資力があれば(地代は、通常、それほど高額ではありません。)、賃貸人に経済的不利益を与えることはありません。③譲渡人である親と譲受人である子は同居の親族であるため密接な人的関係があります。
そのため、本事案における土地賃借権の無断譲渡は背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるとして、土地賃貸借契約の解除は認められない可能性が相応にあります。
それゆえ、子は、地主からのマンション1室の2分の1の共有持分(区分所有権)の売渡請求に応じなくても足りるかもしれません。
4 最後に
以上のとおり、本事案では、結論として、子は、地主からのマンション1室の2分の1の持分(区分所有権)の売渡請求に応じなくても足りるかもしれませんが、地主から売渡請求を受け、紛争になること自体がリスクです。
親族間の不動産譲渡であったとしても、慎重に進めなければならない場合もあることに留意する必要があるでしょう。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。