不動産の売却を検討されている方向けに、不動産を巡る紛争を数多く取り扱ってきた弁護士から、売却時の様々な局面にスポットを当てて、気をつけるべきポイントをアドバイスいたします。
浸水被害が生じた住宅を売却する際の注意点
近時、気候変動等による水災害により、住宅に浸水被害が生じることが珍しくありません。台風第15号及び第19号をはじめとした一連の水災害により被害を受けられた方々は、まだまだ不自由な生活を強いられていることと思います。謹んでお見舞い申し上げるとともに、被災地域の一日も早い復旧を心よりお祈り申し上げます。
Q
私は、いま住んでいる住宅を売却しようと思っておりましたが、記録的な大雨で、住んでいる地域一帯で甚大な浸水被害が発生しました。この地域で甚大な浸水被害が発生したのは私が知っている限り今回が初めてです。私が住んでいる住宅も床下浸水被害を受けました。
この住宅を売却する際、私はどのようなことに気を付ければよいでしょうか。
A
1.はじめに
このような浸水被害が生じた住宅の所有者として、今回の浸水被害は通常予想される程度の雨量とは異なる自然災害であって不可抗力であることから、住宅を売却するに当たり特段の責任を負わないと考えるのは早計です。
浸水被害が生じた住宅を売却する所有者としては、①浸水被害が生じたことを説明する義務を負うか、②売却後、同様の浸水被害が生じたときに瑕疵担保責任(契約不適合責任)を負うかを検討する必要があります。
2.①浸水被害と説明義務
住宅の売主は、売買にあたり、買主に不測の損害を与えないよう、買主に対し、重要な事項を告知説明する義務を負っています。
住宅の浸水履歴に関する説明義務については、住宅が頻繁に浸水被害を受けるとすれば、これにより住宅利用者の日常生活に支障が生じる可能性があるため、売主が買主に対してこの点を告知説明すべきものと考えられています。ここでのポイントは、通常予測される程度の雨量によって浸水被害を受けるかどうかです。
また、買主が浸水の可能性について重大な関心を寄せていた場合も、売主が浸水被害につき説明義務を負うことがあります。地下駐車場付きの戸建て不動産売買で買主が地下駐車場への雨水流入の懸念について仲介業者に問い合わせていた事案において、売主と仲介業者には過去の浸水履歴や対応状況について正確な情報を買主に説明すべき義務があると判断した裁判例がありますので、注意が必要です。
3.②浸水被害と瑕疵担保責任(契約不適合責任)
住宅の売主は、売買にあたり、通常備えるべき品質を備えた住宅を提供する義務を負っています。浸水被害との関係で住宅が通常備えるべき品質は、土地と建物を別々に考える必要があります。
まず、土地についてですが、建物の敷地として浸水しやすいというのは、浸水が床下浸水等の程度にまで達していないとしても床材等に腐食や損傷が生じるため、通常備えるべき品質を備えていないようにも思えます。もっとも、浸水しやすい土地というのは、当該土地だけの問題というより、その地域一般の場所的・環境的要因によるものであり、それが付近一帯の土地の価格評価に織り込まれているものです。つまり、浸水の可能性から値段が安くなっている場合があるということです。
また、その土地が容易に浸水するか否かは、付近の宅地開発の進行状況や道路の排水設備の整備状況など土地以外の要因に大きく左右されるもので、恒久的に続く性質のものというより、解消される可能性のある事柄です。そのため、一定の時期に浸水被害を生じたことのみをもって直ちに土地自体に瑕疵があるということにはならないのが一般的な考え方です。
次に、建物についてですが、当該建物が所在する地域の気象条件の下で通常予想される程度の雨量により床上浸水又は床下浸水の被害が生じない状態にあることが通常有すべき品質であると考えられます。したがって、浸水しやすい土地上の建物は、地盤を高くする、建物の基礎部分や1階床面を高くすることなどにより浸水被害を回避する措置が執られていない場合、建物に瑕疵があるとされることがありますので、注意が必要です。
4.まとめ
以上のとおり、浸水被害が生じた住宅を売却するにあたっては、当該浸水被害が通常予想される程度の雨量によって生じたものか、買主の重要な関心事は何かを考慮して、説明義務や瑕疵担保責任(契約不適合責任)の有無を検討する必要があります。
これらは時代による気象状況の変化や買主の属性などによって一概に判断できるものではありません。令和元年7月には、国土交通省が、平成30年7月豪雨等により各地で極めて甚大な被害が発生したことを受け、宅地建物取引業者に対し、不動産取引時のハザードマップを活用した水害リスクの状況提供を求めたところです。今後は、従前以上に慎重な検討が必要でしょう。
長町 真一Shinichi Nagamachi弁護士
弁護士法人 御宿・長町法律事務所 http://www.mnlaw.jp/index.php
平成16年弁護士登録 不動産をはじめ、金融・IT関連等多種多様な業種の顧問会社からの相談、訴訟案件を多数受任。クライアントのニーズに対し、早期解決、利益最大化を目指し、税務・会計にも配慮した解決方法を提案。経営者目線での合理的なアドバイスも行う。