「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
区分所有建物及びその敷地の価格の評価【その3】
今回は、分譲マンションの一室(専有部分)の価格を求める3種類の計算方法(2022年4月号)のうち、【②取引事例比較法による比準価格:前編】です。
取引事例比較法による比準価格
比準価格は実際に売買された分譲マンションと、評価しようとする分譲マンション(対象不動産)を色々な視点から比較して、売買された価格よりも高くなるかそれとも低くなるかを検討して求める価格です。
前回お伝えしたとおり、分譲マンションの価格を構成要素に分けると以下のとおりです。
専有部分の建物の価値+土地の価値+共用部分の価値
同じ広さや築年数、グレードであれば、駅から遠いマンションよりも近い方が人気は高く、最寄り駅が同じでかつ駅からの距離が同じであれば、古い建物よりも新しい建物の方が人気は高いと言えます。この点では、この構成要素毎の価値の差が反映されることになります。
しかし、実際に分譲マンションを売買する当事者は、その分譲マンションの価格を、上記の様に「土地」「建物」「共用部分」のそれぞれの価値に分けて売却価格や購入価格を考えているとは言えません。したがって、分譲マンションの取引事例から価格を試算するときは、この点に気をつける必要があります。
例えば、下記AとBの土地の更地としての価格を考えてみます。Aは間口が狭く、形状も不整形です。そのため、AとBの立地条件がほぼ同じであれば更地としての単価はAよりもBの方が高くなります。しかし、その各土地を敷地とする分譲マンションが取引される場合、築年数、グレード、専有部分の広さ等の条件がほぼ同じであれば専有部分の価格にはあまり差が生じないのが一般的です。
土地Aを敷地とする場合、敷地の形が悪いために、低層階に位置する専有部分の日当たりや景観が悪くなっていることがあります。一方、敷地がBの形状の場合には、低層階でも日当たりや景観の問題は生じにくいと言えます。そうだとするとやはり、Aを敷地とするマンションはBを敷地とするマンションより価格が安くなる、つまり土地の形状は分譲マンションの価格に影響がある、と思われるかもしれません。確かに、土地の形状が悪いことによって道路との間に他の建物が建ち、日当たりや景観が悪いことがあると、専有部分の価値に影響します。しかし、取引当事者の考える「日当たりや景観が悪い理由」は、「土地の形状が悪いから」よりも、「土地の周りの環境」や、「建物(専有部分)が低層に位置するから」ではないでしょうか。
同じマンション内の同じ低層階に位置する専有部分でも、家が建てこんでいるところに位置する専有部分と、公園のところに位置する専有部分とでは、どちらが好まれるでしょうか。一般的には公園の方が好まれます。このように分譲マンションを売買する当事者は敷地の形状自体をあまり気にしないのです。
形状以外にも、敷地の規模や敷地内の高低差なども、マンションの専有部分の価格に大きな影響は与えない場合が多いと言えます。
土地について比較する項目
取引されたマンションと評価するマンションとを比較する際には、それでも、土地の位置や環境等に関する要因は検討する必要があります。
〔土地に関する主な比較対象項目〕
① 交通機関からの距離(駅やバス停)
② 周辺の環境の状態
③ 地盤の状態
④ 前面道路の状態
上記の①と②は、同じくらい検討対象とされます。
①は、今存在する駅だけでなく、新しく開設される駅に近いかどうかも検討対象です。価格を検討する分譲マンションが駅からバス圏に立地するのであれば、取引価格の比較対象とする分譲マンションもバス圏のもので比較する必要があります。
②は、住宅用地単独で取引する場合にも検討する内容と同じです。都心では閑静な住宅地か等は考慮しにくい場合があります。抽象的ですがごちゃごちゃした環境よりも、落ち着いた環境の方が好まれますし、有名な地名のエリアであるか否かで価格に差が生じます。他にも、眺望を妨げる建物がないか、日常の買い物をするスーパーマーケットや小中学校や保育所等が周りにあるか等も②に該当します。ただ、低層階の場合は、小中学校のグラウンドに隣接していると人気が落ちることがあります。子供達が元気に走り回ると砂埃が舞う等の理由からです。
③は、1995年の阪神大震災で「活断層」という言葉が知られるようになりましたね。また、2011年の東日本大震災では、「液状化」という言葉も知られるようになりました。大阪市内では「上町台地」が堅固な地盤だということで人気がありますが、実は活断層自体は近くに走っているのです。しかし、過去に地震が起こっても新しい建物への被害が少なかった地域ですので「上町台地」に立地するマンションはやはり人気があります。
④は、マンションが面している道の広さというよりも、車両通行量が多いか少ないか、高速道路等の幹線道路に接近していないか否か等が主な比較要因です。
建物について比較する項目
建物については、さらに、一棟のマンション全体の要因、専有部分の要因に分かれます。
取引の事例が同じマンション内にあれば、土地の要因や一棟のマンション全体の要因は比較する必要はありませんが、専有部分の要因については比較することになります。
別の分譲マンションから比較する時には、一棟のマンション全体の要因と、専有部分の要因をそれぞれ比較します。
〔一棟のマンション全体に関する主な比較対象項目〕
① 築年数・仕様・構造
② 共用部分の状態
③ 管理の状態
①築年数については、取引された分譲マンションから比較する時、他の条件が同じで価格も同じなら買い手はより新しいマンションを選択するのが通常です。また、仕様も、他の条件が同じで価格が同じであれば、見栄えの良い仕様になっているものを選択するのが通常です。構造については必ずしも比較対象となるわけではないのですが、現在日本の分譲マンションの大半は、鉄筋コンクリートまたは鉄骨鉄筋コンクリートですので、鉄骨造のマンションは買い手が不安に思うこともあるようで、相対的に人気が低くなっています。
②共用部分は、専有部分を使うために必要なスペースや施設です。エントランスがオートロックか、また広々としているか、駐車場が平面式か機械式か、駐輪場が屋内か屋外か等があります。ここ十数年ほど前から売り出されている戸数の多いタワーマンションでは、ラウンジや来客用の宿泊部屋、スポーツクラブのようなマシンジムがあるものもあります。
③管理の状態は、まず、管理組合が自ら管理しているのか、管理会社に委託しているのかの違いがあります。分譲マンションには管理組合があり、管理組合が自ら管理する場合は「自主管理」と呼ばれます。それに対し、管理会社に委託している場合は「委託管理」と呼ばれます。自主管理の場合、文字通り住民(正確には所有者)が自ら管理することになるため、管理費や修繕積立金の収集、修繕計画の実施なども自ら行う(複雑なことについては、多くはその都度専門業者に依頼)ことになるため、委託管理よりも人気が落ちるのが実情です。
次に、適切に管理されているか否かです。外壁や屋上等の修繕が計画どおりに適切に実施されているか否か等は①の仕様とも関わり、個別の専有部分の価格にも影響を及ぼします。
管理人は常駐しているのか、通いで毎日、土日を除く、午前中のみ出勤、週3回のみ出勤等パターンが色々あります。また最近では、管理人とは別に、ホテルのようにコンシェルジュを擁するマンションもあります。
以上は、取引価格から比較する際に対象とする主な項目として挙げています。つまり、売買市場で売り手と買い手が取引価格を決める時に考慮しているであろう内容です。考慮する内容は時代によって変化しています。
地震の多い日本では、1981年以降新しい耐震基準に則って建築することが求められるようになりました。その後、複数回の震災を経て、制震構造、免震構造が取り入れられるようになっています(【建物Q&A】建物の耐震性・地盤)。
そのマンションが単なる耐震構造ではなく、より進んだ制震構造、さらに進んだ免震構造であるか否かによる価値の違いは、多くの人が住んで経験してみないと実感として分からないかもしれません。今後も避けられない震災を経て、多くの人の実感が価格差となって現れるようになる時には、取引事例を比較する際にも差として検討することになるでしょう。
余談ですが、タワーマンションの高層階ではどの地震でもゆ~らゆ~らという感じになります(個人的体感です)。
専有部分の比較項目については、次回以降にお伝えします。
ありがとうございました。