

「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
収入と費用の諸々の細かい話
収入に関する細かい話
前回までの収益物件の例では、細かく触れていませんでしたが、土地や建物の賃貸借を行う時、その契約時等に、月々支払う賃料以外に、権利金や敷金・礼金、更新料等(以下「敷金等」)の授受がある場合があります。したがって、収益物件の価額の妥当性を考えるとき、月々支払われる賃料の額だけではなく、敷金等の額も考慮する必要があります。
ここで、敷金等の額を考慮すると書きましたが、2つの面で考慮する必要があります。1つは、敷金等を預かっているあるいは受け取ることによって得られる運用益等です。もう一つは、「敷金(保証金)持ち回り」についてです。
(1)月額賃料と、敷金等の運用益等
なお、土地の賃貸借と、建物の賃貸借とでは、一時金についても性格が異なることがありますので、今回は建物の賃貸借の賃料に絞って説明します。
賃貸の募集広告を見てみましょう。
賃料以外に賃借人から賃貸人に支払うものとしては、「権利金」、「礼金」、「敷金」、「保証金」、「更新料」など、色々な呼ばれ方をするものがありますが、ある時にまとめて支払われることが多いため、鑑定評価上は、これらを総称して「一時金」と呼びます。
一時金は、契約締結の時等に、賃借人から賃貸人に支払われた後、契約の終了等の理由により、後日賃貸人から賃借人に返還される場合と、返還されない場合があります。
契約で、「礼金」、「更新料」となっている一時金は、賃貸人から賃借人に返還されないのが一般的です。一方、「敷金」、「保証金」となっている一時金は、賃貸人から賃借人へ返還されるのが一般的です。
賃借人に返還しなくていい場合、賃貸人にとって実質的に受け取ることができる額がその分増えることになり、賃料の上乗せ分をまとめて先に受け取ったような形になります。
賃借人に返還しなければならない場合は、賃料を先に受け取ったことにはなりません。賃貸人が賃借人からお金を預かるのですが、金融機関の預金の様に利子をつける必要はないので、契約上、利子をつけずに預かるという契約が大半です。賃借人が退去する際に返還する迄の間は、その預かったお金を元本として運用することで運用益を得ることはできます。
先ほどの①~④の各マンションについて、実質的な家賃の額を計算してみましょう。
前提条件をつけます。今、銀行の普通預金や国債の購入などは、利息や利回りはかなり低いですが、賃借人から預かったお金を、安全に投資したりして、安定的な1.5%の利回りで運用するとします。そして、各マンションでの賃借人の入居期間は5年とします。共益費はほぼ実費が支払われているものとします。
敷金は、賃借人に返還されるものですが、預かっている間は運用することができますので運用益を計算します。
礼金は、賃借人に返還されないので、全額賃貸人が受け取ることができます。そこで、入居期間中、その額を運用しながら、月々に割り振ったらいくらかを計算します。この割り振りの額は、賃貸人から見ると、月々償却する額ですので、1.5%で運用しながら5年間で償却するという考え方で償却額を計算します。
鑑定評価では、月々に支払われる賃料を「支払賃料」といい、支払賃料に、敷金等の運用益や償却額を加えたものを「実質賃料」といいます。
① ○○レジデンスの実質賃料(月額)
②~④も同様に計算しますと以下のようになります。
② 103,735円
③ 102,117円
④ 100,500円
このように、支払賃料の額が100,000円とみんな同じでも、実質賃料の額は、最小と最大で約5%もの差が生じていることが判ります。
なお、上記の例では、敷金は全額返金されるものとして計算しましたが、契約書に「保証金」、「敷金」という記載があっても、全額が賃借人へ返還されるとは限りませんので契約の内容をよく確認する必要があります。契約書に「保証金」、「敷金」という用語が用いられていても、全国どこでも同じ意味で用いられているとは限りませんので注意が必要です。
2017年10月のコラムでも少し触れましたが、例えば、「敷金」については、「敷引」の慣習がある地域では、「敷金6ヶ月」となっていても、全額が返還されるとは限らない場合があります。「敷引○ヶ月」という記載がある場合には、返還されるのは、6ヶ月-○ヶ月の残り分のみです。
また、事務所の賃貸借等の「保証金」については、「6年以内に退去する場合、80%返還する。8年以内に退去する場合、90%返還する。10年経過した後に退去した場合は、100%返還する。」というような契約等があります。
(2)「敷金(保証金)持ち回り」
これも2017年10月のコラムで、収益物件の売買にあたって、売主が現在の賃借人から預かっている預り金を別途精算するのか、売買金額に含まれるのかによって、利回りが変わると説明しましたが、「売買金額に含まれるとは?」という疑問を持たれる方もおられたかと思います。
収益物件の売買において、「敷金(保証金)持ち回り」という言葉があります。本来、この言葉には、前所有者から新所有者に代わる時に、前所有者から入居者へ保証金を一旦返し、入居者から改めて新所有者に預けてもらうということをせずに、前所有者の返還債務を新所有者が引き継ぐという意味しかありません。
しかし、現実には、同じ「敷金(保証金)持ち回り」と表現されていても、地域によっては、物件価格の精算とは別に精算する(売主から買主に預り金を渡す、あるいは物件価格と相殺して決済する)のではなく、物件価格の決済で終わり(この場合、買主は後日退去者への返還額を支出するので、実質的には物件価格はもっと高い)という場合があります。
商業用の物件の場合には、預り金が賃料の6ヶ月や12ヶ月というのもありますし、バブル期には保証金20ヶ月というのもありました。後者(物件価格の決済で終わり)の慣習がある地域での取引では、売主(旧所有者)から預かり金の受け渡しは無い場合がありますので、注意が必要です。
費用に関する細かい話
バリューアップ費用
2017年10月号で挙げた費用以外にも、物件の価値を高めるための費用(バリューアップ費用)をかけた方が、その物件の評価額が上がる場合があります。
バリューアップ費用は、収入の面を支えるものと、費用の面を支えるものがあります。
収入の面を支えるものとしては、現状のままでも通常の生活ができる程度に使えるけれども、費用をかけてでもやっておいた方が、入居者が安定的に入る、周辺の物件と比べて建物の築年数が古くなっても、賃料を下げなくてもよい、場合によっては家賃も上げることができる、という性格のものです。
一方、費用の面を支えるものとしては、今後の費用を抑えることができる、という性格のものです。
例えば、居住用の建物の場合には、次のようなものがあります。
<収入面>
・宅配ボックスの設置
・オートロックの設置
・温水洗浄便座の設置
<費用面>
・共用部の電灯を、白熱電球からLEDに替える
・外壁を雨水で汚れがつかない材質のものに替える
・オール電化仕様にする
バリューアップ費用は、その時代時代に合わせた仕様に変更していくために必要な費用と考えれば、ほかにも色々と考えられます。資金に余裕があれば、ユニットバスでお風呂とトイレ、洗面が一体になっているものをお風呂とトイレを別に設置する、等もあります。
評価に必要な資料
収益用不動産の評価を行う時は、収入、費用に関して、下記のような資料の提供をお願いしています。
・収入関連
現在の賃貸借契約の内容がわかる一覧表(レントロールと呼ばれています)、契約書、契約後に変更があった時の覚書等の書類
・支出
固定資産税・都市計画税の税額がわかる書類(公課証明書や、納付書)
管理費、水道光熱費、修繕の履歴がわかるもの(見積書、発注書や領収書、引き落とし、振込明細等)
・物件に関する資料
建物の建築確認通知書、工事完了検査の検査済証、竣工図面または建築設計図書
早いもので、もう2017年も暮れになりました。今年1年本当にありがとうございました。来年も身近な不動産の価格について解りやすくお伝えしていきたいと考えております。
来年も皆様にとって素晴らしい良き年でありますように。引き続きよろしくお願いいたします。