「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
「評価する対象不動産を確定する」ということと「評価する対象不動産を確認する」ということ
2022年12月から2023年3月までコラムをお休みさせていただいておりました。この間、多くの不動産鑑定士は地価公示の価格評価、相続税路線価の価格評価、固定資産税課税のための評価を行っています。また決算に向けて企業様の鑑定評価需要が増える時期でもあり、コラムのネタを拾う時間となっておりました(言い訳)。
今月は、不動産鑑定評価の用語で用いられている「対象不動産の確定」と「対象不動産の確認」を説明します。鑑定評価ではなくとも価格を考える場合に大切になってくる内容です。
評価する対象不動産を確定する
鑑定評価のご依頼をいただく際、「この不動産を評価してください」と地図を示していただくことが多いのですが、その際、評価の対象が
(1)どの不動産で
(2)どのような権利なのか
を明確にしていただく必要があります。またさらに
(3)評価を依頼する目的は何か
と伺っています。
クライアントに「○○のために、この不動産のこの権利がいくらかという評価を行うことでよろしいでしょうか」と納得していただいてから評価を行うことになります。
(1)どの不動産:土地だけか、建物も含むか、土地や建物の全体か一部分か
評価の対象は土地なのか建物なのか土地と建物両方か
現に建物があっても、土地だけの価格が知りたいという時もありますね。
逆に建物だけの価格が知りたいというニーズもあります。
評価の対象は土地全体なのか土地の一部なのか
土地は地番毎に登記されていて、地番毎の土地の数は「筆」と数えるのが一般的です。評価の対象は1筆なのか、複数筆で一体となっている場合はどの筆の範囲かを確定していきます。
ご依頼を受けて対象不動産について法務局で調査をする時、隣接地も調査をします。すると隣接する土地も同じ所有者が持っていることが判明することがあります。このような時は、「この土地は範囲に含めなくていいですか?」と確認し、範囲を確定します。
建物の範囲も同じように確定します。
評価の対象は建物一棟全体なのか建物の一部なのか
(2)どの権利:所有権かその他の権利か。所有権は全部か共有持分の一部か。
①土地も建物も同じ人が所有
〔土地と建物の所有権価格〕として確定します。
②土地と建物で別の人が所有
ⅰ.土地も建物も同じ人が持っているものとして①の〔土地と建物の所有権価格〕として確定する場合と、
ⅱ.建物が何の権限に基づいてその土地上に存在しているのかを確認し、
建物については〔借地権付〕なのか〔使用貸借〕によるものなのか、全く権利がないのか、
土地については借地権が付着した〔底地〕なのか、使用貸借による建物が存している〔土地〕なのかを確認し、評価を行う権利を確定する場合があります。
③土地、建物が両方または一方が共有
ⅰ.土地も建物も同じ人が持っているものとして①の〔土地と建物の所有権価格〕として確定する場合と、
ⅱ.特定の共有持分のみを評価の対象として確定する場合とがあります。
(3) 評価を依頼する目的は何か
上記の(1)や(2)については評価を依頼する時は当然伝えるだろうとご理解いただけると思うのですが、(3)については「なぜそんなことを訊くのか」と思われることがあるようです。別に事情を詮索したいわけではありません。我々不動産鑑定士が依頼目的を確認するのは、評価の依頼目的によっては、(1)(2)の段階で、クライアントが依頼する時に考えていたのとは違う範囲を評価の対象としなければクライアントが評価を依頼した目的が達成できないかもしれないからです。せっかく高い鑑定評価報酬を支払ったにもかかわらず、目的が達成できなければ意味がありません。
「この土地建物を全て現状のまま売却するので評価してください」という場合、(3)が「全部売却のため」であれば、(1)は「この現状の土地建物全部」、(2)は「所有権全て」ということになります。
例えば、「土地と建物は所有者が異なっていて、建物だけ現状のまま評価してください」という場合。
【パターン1】
(3)が、遺産の価値把握等という場合には、土地建物をバラバラに売った場合の価値よりも土地建物一体となった価値の内訳価格を知りたいことが通常ですので、土地と建物の所有者が異なっていたとしても(2)では同一人の所有に係るものとして土地建物を取り扱うことを確定することになります。
【パターン2】
(3)が、建物のみ第三者に売却するためであれば、(2)では建物の土地利用権は借地権か使用貸借なのかを確定する必要があります。土地の利用権によって価格が大きく異なるからです。
ただし、(3)が身内に売却するためなのであれば、パターン1の取り扱いでも構わない場合もあります。
【パターン3】
(3)が、担保としての価値を把握するための場合は、第三者に建物だけを売却することによる換価価値を評価しなければなりませんので、パターン1のような同一人の所有に係るものとしてという前提を置くことはできません。
評価する対象不動産を確認する
上記のように何を評価するのかを確定した上で、ご呈示いただいた物件の資料や、法務局や市役所等の役所での調査で取得する資料を基に現地調査を行って、その不動産が本当にその場所にその範囲で存在するのか、示された土地の面積や範囲、利用用途が登記と一致しているか、建物の面積や範囲、構造や用途が登記と一致しているか、一致していない場合にはどう違うのかを確認します。また所有権ではない利用権について、その権利は本当に存在するのか、その権利が及ぶ範囲はどこまでか等を確認します。当初確定した対象不動産と、確認した結果に一致しない部分がある時は、クライアントにフィードバックを行って鑑定評価の対象を改めて確定し直します。
評価は、これらの対象不動産の確定と確認が終わってからしかできないのです。
今月のテーマはここまでです。
コラムをサボってしまっている間に、いよいよコロナ禍から抜け出せる時期が近づいてきました。個人的には花粉対策でマスクはしていますが、アメリカの企業をはじめとして日本でも出勤割合を増やしリモート勤務は縮小するという話も出てきました。2年半前はリモート勤務は通勤時間が減る分モチベーションや業務効率も上がる一方、事務所需要が縮み、賃料が下がり、地価が下がり、景気も浮揚しないという悪循環が続くかもしれないとの懸念もありましたが、結局はそう極端なことにはならなそうで、事務所系の商業地は土地価格が復活してきました。そして、日本に旅行に来る外国人旅行者も再び増加してきていますので、今後は店舗系の商業地の収益性も復活し、地価の上昇に繋がるのではないかと思います。
今月もありがとうございました。