「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
借地人が底地を買いたいとき~【限定価格】という価格の種類
市場が限定される場合の価格【限定価格】
2020年4月号では、「今所有している土地の隣の土地を購入する」という場合に限定価格になることがあるということを説明しました。
限定価格とは、不動産鑑定評価基準では「市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合(~中略~)等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格をいう。」とされています。
理解しにくい文章ですが、要するに「その買おうとする不動産と併合できる不動産を持っている人が買う場合の価格は、第三者がその不動産を買う価格(正常価格)よりも高く買っても経済合理性がある」ということを前提とした価格のことです。ここでいう不動産とは、具体的な「土地」や「建物」といった物理的な観点からの不動産に限らず、借地権や借家権といった権利も含まれます。
底地の価格と更地(建付地)の価格
底地の価格とは、建物所有を目的とする借地権が設定されている土地の価格です。
借地権者は底地であるその土地を「契約内容に応じて」使用収益することができますが、「契約内容に応じて」とあるように、完全に自由な使用収益が可能なわけではありません。自分が所有している土地(更地や建付地)の場合には自由に売買が可能ですが、借地人が借地権(または借地権付建物)を売却しようとする場合、借地権の譲渡には地主の承諾が必要ですし、承諾を得るための対価として地主へ譲渡承諾料(または名義書換料等)の支払いが必要となることが多いです。借地人が借りている土地である底地を購入することができれば、土地所有者としてその土地を自由に使用収益できるようになりますし、土地建物一体としての価格で売ることができるようになります。
底地の正常価格
相続税等の課税のための資産の価値は、国税庁が発表している財産評価基準に基づいて求められています。相続税の課税上の底地の価格は、相続税路線価図に記載の借地権割合を元に、更地の価格を100%として、借地権割合を控除したものが底地の割合として算出されます。つまり、借地権の価格+底地の価格イコール更地価格という前提です。
底地の正常価格は相続税路線価の考え方とは異なります。正常価格は第三者間での売買(市場)を前提とする価格です。底地の所有者になるということは、借地人を押しのけてその土地を自由に使用することはできません。しかし、借地権が賃借権の場合には借地人から地代を受け取る権利がありますので、地代に基づいた収益価格が重視されます。受け取る地代の額が低ければ、底地の価格は安くなりますし、受け取る地代の額が高ければ、更地の価格を上回ることも理論上はありえます。不動産鑑定評価基準上、この「収益価格」と「比準価格」を「関連づけて決定する」となっていますが、底地の取引価格はその底地上の借地権の契約内容に左右されることから結局のところ、やはり地代の額が底地の価格に大きな影響を与えていると言えます。
借地権の正常価格
次に借地権の正常価格ですが、これも第三者間での売買を前提とする価格です。借地権の価格は地代の額が低ければ高くなり、地代の額が高ければ低くなります。「地代が安ければ高くなる」というのは、ぱっと訊くと「?」と思われるかもしれません。「長い間高い地代を払い続けてきたから、借地権の価値が高くなっている」ということではないのです。借地権の価格は借地権を買おうとする立場からの価格として考えると理解しやすいと思います。借地権は土地を排他的に利用しうる権利ですが、地代の授受がある場合(地上権の場合には、地代が不要な場合もあります)には、借地権を買った後も地代を払う必要があります。払う地代が安ければ多少高くても借地権を買おうかという気になり、地代が高ければ高い地代を払うのに借地権自体を高い金額では買いたくない、それなら更地を買うよ、となりますよね。
借地権価格は、その土地の適正な新規地代と実際の地代との差額の現在価値のうち慣行的に取引の対象となっている部分を借地人の経済的利益(前記差額の持続する期間を基礎として成り立つ経済利益)として現されるものです。なお、この差額の全額が取引の対象となるのではなく、実際には譲渡承諾料やその他一時金の額等を踏まえて価格が形成されることになります。また、極端な場合、借地権という権利はあっても、価格は無いということもありえるのです。
底地の価格+借地権の価格
このように、底地と借地権は1つの契約の相手方の権利同士なのですが、現実の底地の価格と借地権の価格は、更地価格からそれぞれの価格を控除した残りの価格という関係ではありません。また各価格は地代の額や固定資産税額等に左右されるため、相続税の路線価計算上の価値割合と一致するとは限らないのです。
借地人が底地を買う場合の底地価格
しかし、借地人が底地を買うと、土地の借地権者イコール土地の借地権設定者となり、土地所有者となります。借地人からすると、更地価格から借地権の価格と底地の価格との差額を全額上乗せして買っても経済合理性があるということになります。この「上乗せしても経済合理性がある価格」は借地人が買う場合に限定されるため、限定価格となります。
隣接地を買う場合の限定価格を算定する場合には、購入する土地と元から所有している土地、そしてこれらが一体となった場合の土地の各価格を算出し、一体となった土地の価格の上昇分に対する元の土地の貢献度に応じて上昇分を上乗せして求めます。底地の限定価格も同様に、一体となった場合の土地の正常価格(更地価格)から、借地権の正常価格と底地の正常価格を控除して差額が生じる場合、その差額を、それぞれの貢献度に応じて求めることになります。
適正な価格を求めるという場合には貢献度を求める必要があり、貢献度を求めるには底地・借地権の各価格または価額の単価比・総額比・限度額比等があります。
底地所有者(借地権設定者)が借地権を買う場合
隣接地を購入するという場合には土地の所有者同士で権利の強さやそのバランスに差異はないのですが、借地権と底地では権利の強さやそのバランスに違いがあります。借地人が底地を買う、底地の所有者が借地権を買うことを申し出ることはいずれからも可能ですが、底地の所有者が借地権を買い取りたいという場合、借地人は借地借家法で守られているため現実的ではありません。また立ち退き料の問題も生じます。しかし借地人が底地を買い取る場合には、底地所有者が底地を第三者に売る価格よりも高く買っても、借地人にとっては土地所有権を取得するという経済合理性があると言えます。この経済合理性が働くのはその土地の借地人に限定されるため、買い取る借地権の価格が限定価格となることがあります。
なお、借地人が「底地を買い取りたい」と申し出ても、「いくら積まれても先祖代々の土地は売らない」とする地主の方もおられるので、第三者市場の価格よりも高い限定価格であろうがなかろうが現実に買い取れるか否かは、隣接地の売買と同じく所有者次第です。
また、借地人に借地権を買って欲しいと言われ底地の所有者が借地権を買う場合には、底地の所有者が借地権を購入することで更地と同じ価値になることは同じですが、この場合は必ずしも限定価格になるとは限りません。底地の所有者は借地権を買い取らない契約の場合には、単に借地権を底地所有者に返還するだけですし、借地権自体が売買される地域では、借地権として他者に売る価格で底地の所有者が購入することになるのが通常だと思われます。この場合は、正常価格となります。
今月はここまでです。ありがとうございました。