「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
区分所有建物及びその敷地の価格の評価【その2】
「区分所有建物」は、分譲マンションだけではなくテラスハウス(連棟式住宅)も含まれます(2022年3月のコラムをご参照ください)。そして、建物は土地に定着しないと存在しえないものなので、分譲マンションの価格、テラスハウスの価格は、いずれも敷地である土地の価値と建物の価値を合わせたものとなります。
分譲マンションの一室(一戸)の価格
分譲マンションの価格の構成は、以下のとおりです。
専有部分の建物の価値+土地の価値+共用部分の価値
分譲マンションは、一棟の建物のうちの一部の空間(専有部分)が住居の仕様になっており、その範囲を所有する形態になっています。専有部分が住居ではなく事務所や店舗、倉庫等となっている場合は、分譲「マンション」とは呼ばず、分譲「オフィス」や分譲「店舗」等と呼ばれることになります。いずれも、敷地は専有部分の所有者の共有になっています。土地の共有持分の割合は、敷地権の登記が行われている場合は敷地権の割合として、敷地権の登記が行われていない場合は、敷地になっている土地の登記で共有持分割合として把握することができます。また、共有の形態が所有権以外に、借地権の場合もあります。
鑑定評価で分譲マンション不動産の評価額を求める場合は、①原価法による積算価格、②取引事例比較法による比準価格、③収益還元法による収益価格を求めて、関連付けて決定するとされています。①の原価法は、この不動産の構成要素を考え、その要素毎の価額を算出して、その価額をたしあげていく(積算)計算方法です。
分譲マンションの専有部分の評価
(1)原価法による積算価格
建物の登記には、構造の欄に「鉄筋コンクリート造」や、「鉄骨造」等と記載されています。しかし、建物として人が活用するためには、躯体だけではなく電気や給排水等の設備や外装、内装の仕上も必要です。躯体、設備、仕上のうち、専有部分の範囲内の外枠部分の鉄筋コンクリート等の躯体、室内の電気や給排水等の設備、各部屋の内壁や天井、床の仕上材等は、専有部分の所有者のみが使用しますが、専有部分を使うためには、共用の廊下やエントランス等が必要で、設備も一棟の建物内で水道等の配管や電気等の配線を巡らせて各専有部分に接続させます。内外装についても室内だけでなく、屋根や外壁、共用廊下の床等も施工が必要です。
このように専有部分だけでなく、共用部分や設備、仕上も含めた一棟全体の建物を建築するのですが、分譲マンションを開発するディベロッパーからすると、売却するのは専有部分ですので、共用部分や設備にかかった建築費は専有部分に振り分けて回収することになります。
また、敷地となる土地の価値についても、土地代を専有部分に振り分けて回収することになります。マンションディベロッパーが分譲マンションを建設して売る場合には、さらに広告宣伝費等の費用や、利益を加算します。その広告宣伝費等や利益分も専有部分に振り分けて回収することになります。このように、原価を積み上げるのが原価法です。
図1
中古マンションの積算価格の構成も同じです。ただし新築ではないため、一棟全体建物の価値は同じ時期の新築の建物の価値よりも低く、また分譲当時に専有部分の価値に含まれていた費用や利益相当分は、築浅のマンションであれば専有部分の価値に含まれていることもあるものの、同時期の新築マンションよりも少なくなっています。中古マンションの積算価格は、そのマンションを新築する場合の価格(再調達原価)を一旦算出し、築年数に応じたマイナスがあればマイナス分を控除して算出します。
(2)価値を専有部分へ振り分ける方法
土地の価値や、共用部分、設備等の専有部分以外の建築費、販売費等・利益を専有部分へ振り分ける方法としては、大きく分けて次のものがあります。
① 専有部分の面積の割合で割り振る。
② ①に加え、専有部分の位置による利用価値や満足度(効用)の違いを加味して割り振る。
③ ①に加え、建物専有部分毎の内装・設備費用の差を考慮して割り振る。
土地の価値を割り振る方法としては①または②が、建物の価値を割り振る方法としては、①または②と③が複合的に用いられています。販売費等・利益は、分譲時に発生するもので、中古マンションの売買当事者の意識にはないと考えられますが、前述のような築浅の中古マンションで、残存している販売費等・利益の価値を加算する必要がある場合には建物と同じで①または②と③を複合的に用いることになります。
専有部分の広さが全く同じで間取りも仕様も同じならば原価は同じなので、専有面積割合で割り振れば良さそうですが、なぜ①以外の方法があるのでしょうか。多くの分譲マンションでは、管理組合総会での議決権の割合や、共用部分及び敷地の持分割合が、建物の専有面積の割合となっていますが、その点との違いはどこにあるのでしょうか。
まず感覚的に解りやすい例を示すと、40階建マンションでその広さ、間取り、仕様が同じならば、40階にある住戸と3階にある住戸の価格は40階の方が高くなると思うのではないでしょうか。40階にある住戸が1億円で売れたという時に、同じ時期に同じマンションの3階も1億円で売れると直感的に思う人は少ないと思います。また、同じ40階でも、南向きの住戸と北向きの住戸で同じ価格になると思う人も少ないと思います。このように、階や向き等の位置によって需要の量が変わるのは、人々が空間の位置によって満足する度合いが異なり、利用価値が異なるからです。敷地となっている土地は、所有者がその区画内の地下から上空まで利用することができますが、所有し、日常的に使用する専有部分が存在する位置が下層階か上層階か、また、同じ高さの位置にある空間の中でどの方位のどの位置に存在するか等によって、人々の満足する度合い(効用)は異なります。この効用の差は、需要の多寡に影響し、その結果価格に差が生じることになります。土地の価値の効用を、ある住戸の土地の空間利用に対する効用を基点(例えば100)として、他の住戸についても位置の違いによる効用の差を判定することができます。
40階建マンションで、4004号室と304号室の土地の価値の振り分け額は次のように求めることができます。各部屋の面積、仕様や設備は同じであるものとしています。
表1
マンション全体の敷地の価値が、10億円とすると、4004号室、304号室の振り分け率を乗じると、
4004号室 1,000,000,000円×0.63%=6,300,000円
304号室 1,000,000,000円×0.45%=4,500,000円
となります。
建物や販売費等・利益の価値は、内装や設備に差が無いのであれば、位置別に差をつけにくいと判断され、その場合には、専有面積の割合で振り分けることもできます。位置によって差が生じていると判断される場合には、効用の差を判断して割り振ることが必要です。
上記の例で建物と販売費等・利益の価値の現在価値が975,000,000円として、これを面積で割り振るとすると、
この場合、専有部分の積算価格としては、それぞれ以下のとおりになります。
4004号室 6,300,000円+50,000,000円=56,300,000円
304号室 4,500,000円+50,000,000円=54,500,000円
専有部分の階等によって仕様や設備が異なる場合には部位別に建築費が異なることになりますので、建築費等を振り分ける際はその点も考慮する必要があります。
今月はここまでです。
次回は分譲マンションを評価する場合の比準価格(取引事例比較法)についてお伝えする予定です。
ありがとうございました。