「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
地代の評価
先月のコラム(2018年3月号 賃料の話)でちらっとお伝えした、乙さんからのご相談「長年借りている土地の賃料が高いような気がする」の内容は次のようなものでした(実際とはディテールを変えています)。
・借り始めたのは、100年くらい前(!)でよく分からない。
・土地150坪を借りて、2階建の自宅と工場を建てている。
・契約書はない。
・賃料の改定は何度かあるが、口約束で済ませてきた。
・現在の地代は150,000円/月
・昭和55年頃、月額45,000円だったのが、平成元年に月額200,000円に増額され、その後、少しずつ減額して、平成18年に現在の額(150,000円/月)になった。
以上は、最初にうかがった内容です。
加えて、下記のことを確認しました。
・借地契約上、構造が木造以外のもの(例えば、鉄筋コンクリートのマンション)に建て替えてはいけない等の制約があるかどうか。
・現在の建物は、住宅も工場も、築25年くらいなので、借地の契約当時(大正時代?)には、別の建物を建てていたと思われるが、建てた時に、建替承諾料を支払ったか。支払ったとしたらいくらか。
答えは、「契約上、建物の種類に制約はなく、現在の建物へ建て替えた時に、承諾料は支払っていない。」とのことでした。
内容からすると、求めるべきは、先月のコラムで紹介した【継続賃料】です。既に契約が開始している賃貸借で、当事者(貸し主、借り主)はそのままで、賃料の額だけを増減する場合に該当します。
まず、現在新たに貸すとしたらいくらかを求める
今回は、この土地を他の人に貸し出すとしたらいくらか、ということは訊かれていないのですが、継続賃料を求める場合には、現在同じ契約内容で新たな第三者に貸す場合の賃料を出して、その額とも比較を行うことが必要です。
資料をいただいて、確認してみましたら、ほぼ正方形で平坦な南西角地。道もそれぞれ6m以上ある。さらに、その物件の場所へアクセスするために利用可能な鉄道路線が3路線あり、その各路線は併走して走っているのではなく、物件の北方と南方と東方とにそれぞれ走っていて、物件へは各路線の各駅から徒歩5~8分程度という好立地。都心部からも近く、どこへ出て行くにも好都合の立地です。確かに小規模な工場は散見されるのですが、多くは戸建住宅で、この立地条件なら、売りに出れば建売業者が飛びつくのではないかと思われました。
新規賃料の評価方法
ところで、賃料の評価の場合、鑑定評価の方法(手法)は次が挙げられています。
(1)積算法
(2)賃貸事例比較法
(3)収益分析法 等
(1)積算法は、対象不動産について、「a.基礎価格」を求め、これに「b.期待利回り」を乗じて得た額に「c.必要諸経費」を加算して賃料を試算する方法です。
a × b + cですね。
(2)賃貸事例比較法は、同じような賃貸借の事例を元に、事例の不動産と、その不動産がある地域の状態や、その不動産そのものの状態を比較して、賃料を試算する方法です。
(3)収益分析法は、その不動産を用いて行われる企業経営によって生み出されるd.純収益にc.必要諸経費を加算して賃料を試算する方法です。必要諸経費は(1)と同じものです。今回の案件は、土地の賃料を求める必要がありますので、例えば、この土地上に賃貸マンションを建てて採算が合うような場合でしたら、賃貸マンション経営という企業経営を前提として賃貸マンションの純収益を分析して賃料を試算するということは可能です。
積算法
積算法でいう、a.基礎価格は、その不動産の最有効使用(その土地の効用が最も発揮される利用方法)を前提とするのではなく、契約の内容に応じた不動産の価値でなければなりません。例えば、その土地は容積率300%の指定を受けていて、周辺の土地も6階建の建物ばかり建っているけれど、その土地は、借地契約で、2階建までしか建てられないという制約がある、あるいは、周りは店舗や共同住宅として使われていて、対象地もその様な使われ方をするのが最も自然と思われるにもかかわらず、借地契約で、戸建住宅しか建てられないという制約がある場合、その土地の価値は、最有効使用が実現できる土地よりも、安いと判断されます。このように契約の内容によって安くなることを「契約減価」と呼んでいます。
今回の物件について、まず、その土地が更地であるものとしての価格を試算してみました。
更地価格 100,000,000円
となりました。
今回の物件では、借地契約によって特に制約を設けられてはいないとのことでしたので、契約減価はなし。
基礎価格 100,000,000円です。
次に、b.期待利回りを判定します。
期待利回りは、不動産へ投資される資金が、不動産以外の金融資産への投資と比較してどの程度の集積率が期待されるかという利回りです。
貸し主側からみて、元本価値に対してどの程度の割合で純収益が得られるのか、または、どの程度の割合で純収益を得たいかを示すものです。
新たな土地の期待利回りを、3%として計算してみると、
基礎価格 × 期待利回り
= 100,000,000円×0.03
= 3,000,000円
となります。
そこに、c.必要諸経費を足します。
貸し主からすると、費用として出て行ってしまい、純収益にはならない部分です。その不動産を利用するのは借り主ですので、自分で所有しているのであれば負担するであろう費用は、負担してもらうという考え方です。
借地の場合の必要諸経費は、土地の固定資産税・都市計画税(公租公課)が挙げられます。土地の公租公課の額は、所有者でなければ原則として確認することができませんので、相談者の方も把握しておられませんでした。そこで、当職で査定することにしましたが、この物件では、小規模住宅地の軽減も200㎡までしか受けられないこともあり、そんなに小さな額ではなく年間400,000円程度になりそうでした。
そうすると、
a × b + c = 3,400,000円
となり、これはあくまで年額ですので、月額に直すと、
3,400,000円 ÷ 12ヶ月 ≒ 283,000円となりました。
賃貸事例比較法
対象物件と似たような物件の「新たな賃貸借」があるかどうか調べてみました。実際の賃貸借契約内容の詳細が把握できるものがなかったので、水準を調査するにとどまったのですが、古くからの契約は坪単価500円~600円というのもありますが、新たな契約となると、坪1,500円というのもありそうです。
坪1,000円とすると、150,000円/月です。
収益分析法の試算
対象土地上に賃貸用マンションを建てて、貸し出すことを想定して、賃貸収入総額から、賃貸マンションを維持するために必要な諸経費を差し引いた残りの額に、土地の公租公課を加算して試算してみました。
その結果、月額 300,000円と、積算法の賃料よりも高くなりました。駅が近いことや、都心まで近いこと、大学も近くにあることなどから、賃貸マンションの需要は旺盛です。
結論として
このように試算してみた結果、新しく借りるとすると、今よりも高い賃料になりそうだということが解りました。
昔の賃料と比べるとかなり高くなっているのですが、過去の賃料も良心的だった可能性もあります。さらに、過去のことを調べてみると、昭和55年には、最寄り鉄道は1路線だけだったのが平成元年までに、新しく新線と徒歩5分のところに新駅ができ、中心部までの時間が短縮されることになっていましたし、その後もまた新しく新線と新駅ができ、その新駅へも徒歩圏です。利便性は格段に上がっていました。バブル期には、おそらく3億円したのではないかと思われますが、その時の基礎価格に対する地代200,000円は、昭和55年時代の45,000円から大幅増額ではありましたが、それでも結果の利回りとしては粗利で1%未満と低いですし、またその後も定期的に減額に応じてもらっているのであれば、地代の減額を強く主張することは、寝た子を起こすことにもなりかねません。つまり「今の賃料は昔に比べてかなり高いから減額して欲しい」と貸し主に強行に言うと「昔に比べて額は高くなったとはいえども、こちら(貸し主)はそれでも安い額で我慢してきた。そんなことを言うなら正しい賃料にしてください(つまり、増額)」という話になりかねないですね。
継続賃料の評価の場合は、直近合意時点の賃料水準と比べる
この案件では、賃料の減額を希望されていましたので、求めるべきは継続賃料なのですが、結果的には、継続賃料の評価には至りませんでした。現在の新規賃料の方が高いと試算されたからです。
継続賃料の増減額を求めて、争訟に至った場合に、当然正式な鑑定評価が行われ、直近合意時点の賃料水準と賃料を求めたい時点(現在とします)の賃料が比較されることになります。直近合意時点とは、契約の始期から現在に至るまでの過程で、現在の賃料の額を最後に決めた時期です。そして、その際、直近合意時点から現在時点までの間に、借地法に基づく賃料増減額請求を行いうるような事情変更があったかどうかが検討されます。直近合意時点から現在にかけて、公租公課や土地及び建物の価格、周辺の賃料が大きく変わっている場合には、事情変更ありということで、継続賃料を求めることができますが、変化の割合が小さい場合には、事情変更があったと認められず、賃料改定する必要なしと判断されてしまうこともあります。
今回の場合、直近合意時点が平成18年です。その年以降の地価動向をみると、平成21年までは下落傾向にありましたが、その後は継続して上昇傾向です。そうすると、現在の実際の賃料の額が現在の新規賃料より相当高いということでも無い限り継続賃料の鑑定評価を行っても、現在の賃料の額より低い額は算出されないのです。
今月はここまでです。
ありがとうございました。