「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
どうしても隣の土地が買いたいとき~【限定価格】という価格の種類
不動産の鑑定評価の価格の種類
不動産鑑定評価基準では、「不動産の鑑定評価によって求める価格は、基本的には正常価格であるが、鑑定評価の依頼目的に対応した条件により限定価格、特定価格又は特殊価格を求める場合があるので、依頼目的に対応した条件を踏まえて価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである」となっています。
正常価格
【正常価格】とは、不動産鑑定評価基準によれば、次の様に定義されています。
「市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」
正常価格は、次の様な不動産マーケットで形成される価格のことを言います。
①マーケット参加者が自由意志に基づいて市場に参加し、いつでも参入、退出が自由である。
②取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘因したりするような特別なものでないこと。
③対象不動産が、相当の期間にわたって市場に公開されていること。
①については、例えば競売や公売など強制的に売り払われるものは、買い手には一定程度の価格競争が生じますが、売り手は自由意志に基づいた売却ではないため、正常価格の前提となっている不動産マーケットでの売買とは言えません。
②については、不動産以外の一般の物であっても、急いで現金化したい時には、買い手をじっくり探せばもっと高く売れるのに、すぐに売れる価格で取引されたり、早く手に入れたい時には、他にも似たような商品がないかじっくり探してみたらもっと安く買えるにも関わらず、高値で取引されたりすることがありますが、不動産でも同様です。
なお、価格の急落や急上昇は、多数の人が「この物件は要らない」、「この物件がどうしても欲しい」という判断をすることによって競争原理が働いて起こるため、必ずしも売り急ぎ、買い進みには当たらない(つまり、正常価格の前提となる市場と言える)と言えます。
③については、①や②で例として挙げた売買の場合には、市場に不動産が存在する期間が強制的に決められている、売買当事者の都合で通常よりも短期間である等、市場原理に任せていない場合と言えます。
市場が限定される場合の価格【限定価格】
例えば、「今所有している土地の隣の土地を購入する」ということを考えてみましょう。その隣接地がどうしても欲しいという場合には、普通の人が買う通常の価格(正常価格)よりも多少高くても買うということもあり得ます。この場合は、前述の②の買い進みがあったと言えます。この様な買い進みが起こるのは、多くは買い手側から隣接地の所有者へ売却を打診するような場合だと思います。
買い進みの場合には、買った土地を三者に売ろうとすると、100,000円/㎡でしか売れないため、経済合理性がないのです(しかし、当事者の心理的には合理性がある)。
ところで、「今所有している土地の隣の土地」と言う場合、どちら側の隣なのかによっては、そのものの正常価格よりも高い金額で購入しても経済合理性があると言えることがあります。
図1と同じ地域内で、自己所有地Bと隣接地B’の配置が図2の様な場合、隣接地のB’は、Aと比較して、間口は広いのですが、奥行が浅く、また面積も小さいため、戸建住宅を建てるのも困難です。したがって、Aよりも土地の単価は低くなります。また、自己所有地Bは、面積は160㎡あり、戸建住宅を建てることはできますが、車の大型化などもあって、間口が2mであることが需要を少なくしており、Aよりも土地の単価が低くなります。したがって、正常価格としては下記の額だと算出されたとします。
ここで、Bの土地所有者が、B’を買うと、BとB’が一体になった土地(BB’)は、Aとほぼ同じ土地になりますので、価額もAと同じになります。
単価が上昇しています。
Bの土地所有者がB’を購入する価額としては、その差額を上乗せして買っても経済合理性は成り立つと言えます。
極端に言えば、B’の一般的な市場価値である価額360万円に、280万円を上乗せして購入したとしても、Bに損は発生しないということです。ただし、BB’の価額が、B単独、B’単独よりもアップするのは、Bの面積や奥行も貢献している部分もありますので、上乗せする妥当な額は、B’が価格や価額の上昇に貢献した度合いに応じて算出されます。鑑定評価ではその貢献度合いを複数の視点から検討し判定します。
この、B’の土地価格は、Bの土地所有者が購入する場合には、他の人がB’の土地を買うのと異なり、購入後にメリット(Bの土地の単価の上昇)が生じることを考慮しています。このように、隣接地を購入することにより発生する価格の上昇を踏まえた価格は、不動産鑑定評価上【限定価格】と定義されています。売買当事者が限定される(市場が隣接地所有者同士に限定される)ため、限定価格と呼ばれます。
限定価格を求める場合には他のパターンもありますが、それについては他の機会にお伝えしようと思います。
隣接地と言っても、色々なパターンが考えられます。
CとC’や、DとD’の関係では、C’やD’の単価が、CやDと一体となることによって上昇する(一体になれば、C’の範囲の単価はCの単価まで、D’の範囲の単価はDの単価まで上昇する)ことが感覚的にも理解できるかと思います。各一体となった総額が、CとC’、DとD’単独の価額の合計よりも大きくなりますが、C’及びD’の各単価が上昇するのは、C及びDと一体となるからであって、一体地の総額が上昇することへの貢献度は小さいと言えます。
一方、E’や、F’については、違います。それらがなければ、Eは道路に面しない土地ですし、Fも奥の土地は道路に面しない土地として、そのままでは建物を建設することができません。一体地となれば、建物が建設できる土地になりますので、一体地の価格は大きく上昇しますし、その貢献度は大きいと言えます。
なお、頭書のAとA’の例の場合、たまたま「どうしても欲しい」と思って購入した例として挙げています。A’の価格は、不動産鑑定評価で求められる価格ではなく、そういった心理での取引があった場合には、買い進みにより正常価格(多数の取引当事者の需要と供給で形成される市場での価格)の水準よりも高位な額での取引がある、という取引価格を示したものです。
【限定価格】は、ある土地からみた隣接地を購入することによって、一体後の土地の価格(単価)が、隣接地単独の価格(単価)よりも上昇する場合に、購入者から見て経済合理性が認められる範囲でその上昇分を隣接地単独の価格に上乗せした結果の価格です。一体後の土地の価額(単価)が下がってしまう場合、あるいは変わらない場合には、【限定価格】とは示されず【正常価格】として示されることになります。
隣接地を購入する場合には、必ず限定価格として鑑定評価するのか
不動産鑑定評価を依頼する目的が、隣接地を購入するためであったとしても、必ずしも限定価格で求める必要はありません。どうしてもその隣接地が欲しいという場合には、鑑定評価額は別として、自社の特別な事業スキームを前提に、正常価格の3倍4倍の価額で購入する、ということも現実にはあり得ますし、お互いが合意すれば、一体となった後のメリットを考慮しない価格での売買もあり得ます。
なお、国、地方公共団体等が、特定の相手方に所有地(公有地)を売り払う場合、売り払う土地がその特定の相手方が既に所有している土地と隣接している場合には、その売り払う土地の鑑定評価は、限定価格を求めなければなりません。ただし、上記のとおり、限定価格の試算を行った結果、一体地の価格が上昇しない場合には、限定価格ではなく正常価格として示されます。
今月はここまでです。
新型ウイルスによる感染拡大懸念から、みなさまも公私ともに落ち着かない日々をお過ごしのことと存じます。ご自愛くださいませ。
ありがとうございました。