「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産鑑定士による不動産の評価はどのような場合に行われるのか
「不動産の鑑定評価とは」については法律に規定があります。「不動産の鑑定評価に関する法律」の第2条に、「『不動産の鑑定評価』とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。」と規定されています。また同法では、「不動産」は、土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利のこととされています。土地建物だけではなく、借地権もその対象です。
法律により不動産鑑定を用いなければならないもの
・資産の流動化に関する法律(資産流動化法)の、証券化される不動産の価格
資産流動化法第40条第1項第8号により、不動産が証券化の対象となっている特定目的会社は、募集優先出資を引受けることを申し込みしようとする者に対して特定資産の価格を通知しなければならないとなっています。この場合の価格は、特定資産が不動産の場合には、「不動産鑑定士による鑑定評価額」となっています。
・投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)の、投資信託財産について特定資産の取得または譲渡が行われた時
投信法第11条第1項により、投資信託委託会社が運用の指図を行う投資信託財産が不動産の場合、特定資産の取得または譲渡が行われた時、あるいは取得または譲渡の前に、「不動産の鑑定評価を行わせなければならない」となっています。
法律による要請はないものの、実務上不動産鑑定評価額が用いられているもの
・国や地方公共団体が不動産の売買等を行うとき
国や地方公共団体が所有する不動産を売却する時や、公共の道路を作る等のために土地を買収する時、土地を交換する時にはその対象となっている不動産の鑑定評価が行われます。
・賃貸等不動産の時価会計
企業会計の実務上、賃貸等不動産時価等開示会計基準、固定資産減損会計基準、企業結合会計基準等により、不動産の時価算定が必要となる場合があり、重要性が高いと判断された不動産の時価算定は、企業が不動産鑑定士から不動産鑑定評価書を取得することにより行われています。
・不動産特定共同事業
一般の投資家から資金を集めて、不動産事業(主に賃貸物件の運営)を行い、事業の利益から配当を行うという仕組みは、昨今「不動産クラウドファンディング」がその代表例となっていますが、この仕組みに関しては不動産特定共同事業法(不特法)が制定されています。
不特法では、運用する不動産の価格について不動産の鑑定評価は必須とはされていませんが、不動産の価格に関する開示事項として、事前に交付する書面に取得価格、その算定方法、不動産鑑定士による鑑定評価の有無の記載が義務付けられています。
・不動産を現物出資する場合
会社に対し資本金を出資する際、金銭による出資ではなく物による出資を行うことがあります。不動産も現物出資の目的とし得る財産です。
現物出資する財産の評価方法は特に規定はないのですが、原則として現物出資する財産の価額を裁判所が選任する検査役に検査してもらわなければなりません。この検査役は裁判所に選任の申し立てをし、検査役が選任されてから検査されるという手間と費用が掛かります。しかし、不動産については、不動産鑑定士の不動産鑑定評価書を添付した弁護士、公認会計士、税理士等の証明を受けた場合には、検査役の検査は不要とされています。
・市街地再開発事業を行う時
「再開発ビル」という言葉を聞いたことがあると思います。古くからの土地の形や権利関係を整理し、その土地の上の建物についても防災面からの改善や権利関係の整理等のために、市街地再開発事業という都市計画によって、元の土地建物の権利を一棟の高層建築物の区分所有権に変換したビルのことです。この事業を行う場合には、元の土地建物の価格、建て替え後の建物の価格について不動産鑑定士による評価が求められます。
このほか、マンション建て替え事業や、土地区画整理事業でも不動産鑑定士による評価が実施されています。
法律による要請はないものの、不動産鑑定評価書を用いることが望ましいもの
・不動産の価格や賃料で争いになりそうな時や争いとなった時
賃貸借等で不動産の価格や賃料の額(価格等)で争いになりそうな場合や、既に争いになってしまった場合には、客観的な価格等を把握することで紛争の解決に向けた話し合いのための資料とすることができます。また、交渉で合意できずに訴訟となった場合には、裁判用の証拠資料として用いられます。
・相続時にもめそうな時、もめた時
相続時の不動産の価格でもめそうな時に、お互いが納得するために客観的な価格を把握するために不動産鑑定が求められることがあります。
・親族間で不動産を売買する時や法人と法人関係者間で不動産を売買する時
契約自由の原則はありますが、親族間や法人と法人の代表者の間で不動産を売買する際、市場価値と乖離した低廉な額で取引してしまうと、市場価値との乖離部分について税務当局から贈与としてみなされて贈与税が課税されることがあります。しかし、不動産鑑定士による鑑定評価による価額で売買することで適正な取引価格での売買であると判断されます。