「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
里道って?その評価方法は?
皆さんは「里道」という言葉を聞いた事があるでしょうか?
一般的には「りどう」と読み、「さとみち」と読まれる事もあります。
また、同じ里道を指す言葉なのですが「赤線(あかせん)、赤道(あかみち)」と呼ばれたりもします。
里道とは
①その成り立ち
明治9年、太政官布告第60号により、その時点で通行に用いられていた道状の土地は、その重要度により「国道」「県道」「里道」に分類されました。その後、大正9年の旧道路法施行により、里道のうち重要なものは旧道路法が適用される道路である「市町村道」として認定されましたが、重要でない里道は、旧道路法が適用されない、国有財産法上の公共用財産として管理されることになりました。昭和27年には現在の道路法が施行されましたが、重要でない里道は、国有ですが道路法の適用を受けない道として、財産としての管理は県、機能面の管理は市が行ってきました。平成17年4月1日以降は、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律による国有財産特別措置法の一部改正に伴って、市町村が申請すれば、実際に道路としての機能を有している里道は、市町村の財産となりました。ただし、道の機能が失われており、今後機能回復を必要とする見込のない場合には、そのまま国(財務省)が管理することになりました。
道路法が適用される国道・県道・市道のように、法律が適用されるものは「法定公共物」と言いますが、里道は道路法が適用外という意味で、「法定外公共物」と呼ばれています。
ところで、なぜ「赤道」「赤線」などとも呼ばれているのでしょうか?
不動産の登記を管轄する法務局には、地番の配置が書かれている「公図※」が備え付けられています。里道には地番(土地の範囲毎に付けられている番号)がないのですが、他にも、水路である土地も地番がないため、公図での区別のために、道は赤色(茶色っぽい場合もありました)に、水路は青色に着色されていました。そのため、里道を「赤道」や「赤線(道なので、細長い線状に描かれていることが多い)」などと呼ばれることがあるのです。
※公図は、もともと税金を取るための基礎資料として明治初期に作成され、税務署に保管されていましたが、固定資産税が地方税となったため、昭和25年に土地台帳とともに登記所(現在の法務局)に移された、土地の位置、形状、配列等の概略を記載した地図です。法律上は、不動産登記法第14条の地図または、旧土地台帳施行細則第2条の地図を指していますので、法務局の図面の申請書には「地図」と書かれていますが、不動産業界では現在でもどちらもまとめて「公図」と呼び、不動産登記法第14条の地図については「14条地図」と呼んだりもします。
②里道の現況
上記で、里道は、道路法が適用されないが、実際に道路としての機能を残している、と書きました。現況では、小さな路地や農道、山道などが主ですが、中には新しい道の開通で使われなくなったり、草木の繁殖や土砂崩れ等により通行不能になるなど、道としての機能を失ってしまっているものもあります。さらには、長年のうちに、山林や田畑、宅地の一部とされてしまっているものもあります。
市町村道に指定された道路は、市町村の道路台帳に記載され、市町村によって道路としての維持・管理が行われています。一方里道は、公図に記載はあります(現在は「道」と記載されていて、着色はされていません)が、その多くは実質的な維持・管理がされていないものも多いのが現状です。
また、幅員は尺貫法に基づいて確保されているものが多く、地域によって、半間(3尺:約0.91m)や、1間(6尺:約1.8181m)等の違いがあります。
【里道の例】
ⅰ実際に道路としての機能を残しているもの
左側の「道」は4mくらいあって、車も通っていますが、左上から右下に伸びている「道」は写真のように、人や自転車は通ることができますが、道幅が狭く、車は通行できません。
ⅱ宅地に取り込まれてしまっているもの
里道の上に建物が建ってしまっています。
みなさんが「里道」に関わる時
ⅰ普段から道路として使っている。
これは、単純に、普段通行している道です。皆さんも細い道を抜け道で使っていることがないでしょうか?もちろん、狭くても「市町村道」や、場合によっては「国道」になっている場合もありますが、その様な場合には、例えば市道○○線というように、名称が付いています。
また、里道の両側に私道があり、全体で車も通行可能な道路になっている場合もあります。
里道の場合には、名称がありません。このように知らないうちに「里道」を使っていることがあります。
ⅱ実際には道路として使われておらず、庭や建物の敷地に取り込まれている。
長年の間に、「道」として使われなくなってしまった里道を取り込んで、一体で畑にしていたり、庭にしていたりするうちに、家が建ち、、、といったところでしょうか。建物の下に里道が通っていても、住んでいる人はそこに里道あることに気がついていないこともあります。
本来は、里道の上には建物は建築することはできません。そもそも他人の所有物ということもありますが、里道は「行政財産」ですので、本来定められた利用方法以外の利用はできないのです。
里道に関して鑑定評価が求められる時
①里道の売払い(払い下げ)
今までは自分の土地と思って使っていたけれど、何かのきっかけで里道が介在していることに気がついた場合には、里道を買い取らせて下さいと市役所(国)に申し出ることができます。あるいは、市役所(または国、以下同じ)から里道を買いませんかとの打診がくることがあります。このような場合、里道を買取る時の価格(評価)はどんな風に考えればよいのでしょうか?
なお、市役所が里道を「売払う」ことは、かつては(市から民間への)「払い下げ」と表現されており、現在でも慣習としてその様な表現を用いることもありますが、最近は、市役所のウェブサイトでも「売払い」と表現されているのが大半になってきています。
図中の里道Cは、いずれも現在は誰も通行せず、道路の形態をなしていません。このように、近隣の住民も通行の必要性がない、というような場合は、所有者・管理者である市町村にとっても、残しておくことは整備や管理に費用がかかることもあり、里道に面している土地の所有者や利害関係人からの申し出により、市が周辺住民の意見を聞いて用途廃止の手続き(道路の機能が無くなっていることを認める手続き)を行います。
土地Aだけを所有していたところ、ある日市役所から、里道Cを買いませんか?と打診がきたような場合は、里道を挟んだ反対側の土地Bの所有者が里道を買いたいと申し出ていて、里道C全部を土地Bの所有者に売ってもいいですか?と確認する意味もあります。
土地Aの所有者が里道は要りませんと言えば、反対側で面する土地Bの所有者が里道の全部を買い取ることができますし、要りますと言えば、必要に応じて里道Cを土地Aと土地Bの所有者で分割して買い取ることができます。
②評価の考え方
上記では、土地Aと土地Bの所有者は異なっている前提でしたが、土地Aと土地Bの所有者は同じだとします。
里道単体でみると、公道に対する間口が狭くて、大概は細長い形状で、単独で使おうとすると、せいぜい自転車を縦に停めておけるくらいです。したがって、里道を一般に売りに出しても買いたいと思う人(需要者)はかなり少ないといえます。しかし、里道に隣接する土地を持つ人からすると、土地が少しでも増えることによるメリットはあるかもしれません。
図Ⅰの例も図Ⅱの例も、里道Cを買うと、土地Aと土地Bは一体で使えるようになりますが、図Ⅰの場合には、里道Cが無くても土地Aも土地Bもそれぞれが単独で使えます。ですので、土地Aも土地Bもそこそこ広い場合には、里道Cをあえて買わなくてもいいですが、土地Aと土地Bの両方あるいは片方の面積が小さく、その土地単独では希望する建物を建てることができないが、里道Cを買うと一体で使えて建物も建てることができる、というような場合には、里道Cを買うメリットがありますね。
一方、図Ⅱの場合には、土地Bは里道には面していても、単独では建築基準法上の道路に面していないため、建物を建てることができません。また、里道の上に建物を建てることはできませんので、土地Bを庭として使うことはできても、土地Aと土地Bとに跨がる建物は建てることはできないのです。
ⅰ図Ⅰで、土地Aだけを所有している場合(図Ⅲのようになります)
土地A(100平米)の所有者に対して里道C(10平米)を売り払うときの評価額を考えてみます。
土地Aの単価が仮に1平米当たり100,000円の場合、里道は、その形などから単独では建物の敷地として利用することができないため、標準的な土地の価格よりはかなり安価になります。仮に1平米当たり30,000円(30%の価値)としましょう。
土地Aが里道Cを買い受けた後の土地A・里道C全体の土地の価値は、
100,000円/平米×110平米 = 1,100万円 となって、総額は70万円多くなります。一概には言えませんが、一般的には、土地Aと一体としての価値は、土地A、里道Cの別々の価値の合計よりも高くなることが多いのです。
ⅱ図Ⅱで、土地AとBを所有している場合
土地A・B(各50平米計100平米)の所有者に対して里道C(10平米)を売り払う時の評価額を考えてみます。
ⅰと同様に、土地Aの単価が仮に1平米当たり100,000円、里道は30,000円とします。
土地Bは直接公道に面していないため、建物の建築ができません。その様な土地を単独でみる場合の価値は標準的な土地の価格と比較して安価になります。仮に1平米当たり50,000円とします。
総額が320万円もアップしています。
これも同じく一概には言えませんが、里道を買い受けることにより、土地Bは土地Aと一体となるので土地Aと同じ条件の土地となり、価値も同じになります(平米当り5万円が10万円に)。さらには買い受けた里道の単価も、買い受けた後には土地A・Bと一体化される事により、平米当り3万円が10万円となります。
実際には、土地AやBの形や地勢、道路づけなどによって価格が左右されますので、このように単純な価格で求められるものではありません。また、買い受けたい人が「この価格で買いたい」と申し出る性質のものでもありません。国や市町村からは、国有財産や公有財産の売り払いですので、売り払い価格には納税者への説明責任が伴います。したがって、売り払う際には鑑定評価を不動産鑑定士に依頼することになります。上記のように、ある特定の人はその不動産を買うことによって得をする(元々持っている土地の価値が上がる)ような場合には、そのことを踏まえて価格を求めます。このような価格のことを、不動産の鑑定評価では、「不動産の併合による限定価格」といいます。
取得時効について
上記の図Ⅱで、もう何年も里道Cを建物の敷地として一体で利用してきている場合に、取得時効を主張している例もあります。
ただし、取得時効を主張できる場合は色々な条件をクリアしなければなりませんので、ご注意ください。
まとめ
ご自分の土地の公図を確認してみたところ、里道が介在していたというような場合、あるいは、里道に隣接しているような場合で、その里道がだれにも何にも使われていないなら、里道を買い受けることができるかもしれません。特に、里道を買い受けることによって、ご自分の土地の資産価値が上がる場合がありますので、確認してみる価値はあると言えます。
なお、里道と同じ法定外公共物に「水路(青線、あおせん)」があります。水路についても、水が流れておらず、周辺の土地と一体となってしまっているような場合には、里道と同じ扱いが可能な場合がありますので、こちらも併せて確認してみる価値があります。