「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
相続時の不動産の評価額(その1)~相続人間の割り振りをどの評価額で行うのか~
2015年以降の相続税の基礎控除額は、【3,000万円+600万円×法定相続人の数】で計算されることになりました。
財務省の【相続税の課税状況の推移】をグラフにすると、次のようになっています。2015年を境に課税対象者も納付額も大きく増えているのが判ります。
一方、その時期の不動産価格を見ると、こちらもリーマンショックから回復し、三大都市圏を中心に上昇傾向になっています。国土交通省が発表している【公示価格の平均価格の推移】をグラフにすると、次のようになっています。
相続税の納税に関しては小職の専門外であり、専門家の方にご相談いただくことになると思います。このコラムで何度かお伝えしているように相続税の評価額はあくまで国税庁が示す計算方法で算出した額から計算してください、という【国税庁が示す計算方法で算出した額】であって、市場価値を判断して算出する【不動産鑑定評価額】とは異なるものです。今月は、相続税評価額と不動産鑑定評価額が異なることによって生じる悩ましいことについてお伝えします。
相続税を納める時の評価と、実際の時価は違うと納得して遺産分割をするべし
相続税を納める時には、相続人間で遺産分割協議を行って、誰がどの遺産を相続するのかを決めます。土地の相続税評価額は時価の約8割が目安となっています。また建物は、固定資産税評価額が相続税評価額となりますので、築年数が浅い時は実際にかかった建築費よりもかなり低い額になります。
民法の法定相続分の規定は、「相続する割合は、基本は相続人の間で(被相続人との過去の関わり方等を踏まえて)話し合って決めた割合が優先される」ということが前提になっています。したがって、例えば、夫婦2人に子供2人という家族関係で、父親が亡くなった時、誰か1人に全て相続させるということでも、みんなで三等分ということでも、全員が合意すれば問題はありません。また、相続割合を決める時に「不動産については相続税評価額を基に判断しよう」と決めることも全く問題はありません。不動産を相続した人がその不動産を売却すると、価値が実現するわけですが、相続税評価額よりも高く売れることが多いので、売却した人に悪気がなくとも他の相続人から不信感を抱かれてしまうということが起こりえます。
先ほどの例の様に、父親が亡くなった時の相続の際、相続人の誰かが他の相続人に不信感を持つようになると、次の相続(例えば母親が亡くなった時)には、残された相続人間(子供:兄弟姉妹)でもめてしまう事態になりかねません。
例1 土地建物と現金が相続財産で、相続人が2人(A・B)
1人(A)が土地建物を相続する場合
相続税評価額での評価額 | 時 価 | 差 額 | |
土地: 80,000,000円 | 100,000,000円 | ||
建物: 25,000,000円 | 50,000,000円 | ||
合計:105,000,000円 | 150,000,000円 | 45,000,000円 | |
40,000,000円 |
土地建物はAさんが1人で相続し、現金はBさんに渡す。ただし、あくまで遺産は均等に分ける(多く受け取る方が少なく受け取る方に現金で精算する)と決めたとしましょう。
【相続税評価】
土地建物の相続税評価額は105,000,000円ですが、時価ベースではAさんが150,000,000円分の価値のものを受け取ることになります。
不動産の相続税評価額:105,000,000円
現金: 40,000,000円
合計:145,000,000円
1人当たり: 72,500,000円
Bが相続する現金: 40,000,000円
AからBへの精算額: 32,500,000円
もちろん、AとBで合意した場合は全く問題ありません。
【鑑定評価】
不動産の時価が150,000,000円の場合の精算額は、
相続した不動産の時価:150,000,000円
現金: 40,000,000円
合計:190,000,000円
1人当たり: 95,000,000円
Bが相続する現金: 40,000,000円
AからBへの精算額: 55,000,000円
となり、22,500,000円違ってきます。
このように、時価と差が生じる場合には、不動産を売ると時価が実現するため、思ったより多い額を手に入れたという理由で後に相続人間でもめる原因となりかねないのです。
相続税評価額と時価の差があるからといって、時価を前提にするべきだ!と言い切れないこともあるということも理解するべし
不動産は相続した後に売却した場合には時価の価値が実現します。しかし、所有し続ける場合には修繕や維持するために費用がかかります。マンションであっても同じです。また、価値がいつ下落するのかは正直誰にも解りません。現金と不動産を比較するとリスクは現金の方が不動産よりも低いのです。また、多くの不動産の相続税評価額と時価とは差が生じるのが現実ですが、不動産が相続財産に占める割合が多い場合に不動産を相続した者が必ずしも金銭的精算ができるとも限りません。金銭的精算を行うためには相続した不動産を売却するしかないということも起こりえます。親と同居して面倒を見ることが条件である等、その不動産をその相続人に相続させる事情は様々だと思います。相続人となる家族で予め色々なことを話し合うことは、もめ事を予防することに繋がると思います。
今月は以上です。
ありがとうございました。