建物の構造や工法、耐震、シックハウス、建物保証、太陽光発電、リフォーム、建物診断、メンテナンス、地盤沈下、インスペクション等、建物に関する知識を解説しています。
建物の耐震性・地盤
「住宅が建築された築年数を調べる方法」と、「建物自体の耐震性を調べる方法」の2種類があります。
住宅の建築確認を受けるときに一定の耐震性を確保する必要があります。この耐震性については、建築基準法の改正にしたがって基準が見直されてきました。細かい改正は何度かありますが、大きく分けて「新耐震基準(昭和56年6月1日以降)」と「旧耐震基準(昭和56年5月31日以前)」があります。マンションと一戸建てで異なるので、簡単にご説明します。
■マンションの場合
昭和46年以前の建物
昭和43年に発生した十勝沖地震で柱のせん断破壊が問題となり、昭和46年に耐震基準が見直されました。この柱のせん断破壊を防ぐために、柱の帯筋(フープ筋)を増やすようになりました。昭和46年以前に建築された建物については、現在の耐震基準より劣るため、耐震診断や耐震補強の有無を確認することが必要です。
昭和46年〜昭和56年の建物
昭和46年の建築基準法の改正から昭和56年の新耐震基準までに建築された建物で、「旧耐震基準の建物」と言われます。この年代の建物も同様に現在の耐震基準よりも劣るため、耐震診断や耐震補強の有無を確認することが必要です。
昭和56年以降の建物
「新耐震基準の建物」です。昭和56年の建築基準法の改正により新耐震基準に見直されました。令和5年現在でも新耐震基準を元に建物が建築されており、大幅な改正はされていません。そのため、マンションの場合には、新耐震基準(昭和56年6月1日以降)で建築された建物か、旧耐震基準(昭和56年5月31日以前)で建築された建物かで簡易的に耐震性を見極めることができます。
■一戸建ての場合
昭和46年以前の建物
昭和46年の建築基準法改正で、基礎のコンクリートが鉄筋コンクリート造の布基礎とすることや必要壁量の規定が設けられました。それ以前の基準の建物は、基礎コンクリートに鉄筋が入っていませんでした。
昭和56年から平成12年までの建物
昭和56年の建築基準法の改正により耐震性を確保するための壁量規定が見直されました。具体的には、構造用合板などの面材を貼った壁などの壁量計算の規定が入るようになりました。平成26年現在での耐震基準に近い建物となっていますが、地盤調査が必須でなかった点は留意しておく必要があります。
平成12年以降の建物
平成12年の改正によって、地盤調査が必須となりました。地盤調査をしなければ地盤の状態は分かりません。弱い地盤にいくら耐震性の高い建物を造っても、不同沈下などで傾いてしまったら本末転倒ですから、地盤調査はとても重要です。また、柱や梁などを結合する金物の基準が強化されています。
3階建ての場合
3階建ての一戸建ての場合には、2階建ての建物で行う壁量計算ではなく、より高度な構造計算を行う必要があります。というのも、3階建ては2階建てよりも狭い面積に、より高い建物を建築することが多いため、より強固な耐震性の確保が必要になるからです。
以上のように建物の建築年を知ることで、建築当時の耐震基準の特徴を把握することができます。ただし、個別の建物によって条件は異なるので、正確に調べるにはその建物自体の耐震性を調べる必要があります。
建物自体の耐震性を調べるためには、耐震診断を行う必要があります。耐震診断は設計図と実際の建物を調べて計算をするなどの専門的な知識がなければ行えません。そのため、耐震診断はプロに依頼するのが一般的です。耐震診断を行うことで実際の耐震性を知り、必要に応じて耐震補強を行うことができます。耐震診断の結果、一定の基準を満たすことで耐震基準適合証明書を取得し、各種の税制控除などを利用できる場合があります。
その建物が住宅性能表示制度の設計性能評価、または建設性能評価を受けているのであれば耐震等級1〜3(3が最も高い)で比較することができます。性能評価制度を利用している新築一戸建ての場合は、耐震等級が最高の3の住宅を比較的多く見かけますが、新築マンションの場合は耐震等級3の割合は少ないです。
地震に耐えられるような建物のことを、読んで字のごとく耐震構造といいます。耐震構造の中には、一般的な一戸建てやマンションに採用される耐震構造、主に高層のタワーマンションなどに採用される特殊な免震構造、制振構造があります。ご質問の耐震、免震、制振というのは、3つの異なる耐震構造のことかと思います。
高層タワーマンション以外の一般的な建物、具体的には木造2階建ての一戸建てや12階建て程度の中規模マンションなどに採用されます。耐震構造には、柱や梁などの骨組みで建物を支える軸組構造と、床、天井、壁などの面で建物を支える壁式構造があります。木造一戸建ての場合には、軸組構造の木造軸組工法(「在来工法」とも言われます)と、2×4工法や木質パネル工法といった壁式構造が採用されています。マンションの場合には、低層マンションなら壁式構造が採用されることがありますが、一般的には軸組構造(ラーメン構造)の建物が多いです。
免震構造というのは、建物と地盤の間にゴムと鋼板を何枚も重ねた積層ゴムと言われる免震装置を設置することにより、地盤と建物のつながりを切り離すことで、地盤が揺れても建物が揺れないようにします。免震構造のメリットは、免震装置によって地震の揺れの影響を減らすことができるため、建物の躯体の損傷を抑え、建物内で生活する人が家具の転倒などで怪我をするリスクを減らすことができる点です。デメリットは、新しい工法のため、将来的にメンテナンスが必要になったときの修繕コストが不確定なことがあげられます。
制振構造というのは、制振ダンパーなどによって地震の揺れを制御する構造です。免震構造は、地盤面と建物の縁を切ることで揺れを抑える構造でしたが、制振構造の場合には、建物の揺れを受け止めて揺れを少なくします。メリットは、基本的にはメンテナンス費用がかからないことです。デメリットは、一定規模以上の地震に対しては制振構造の効果を発揮できますが、免震構造のように大きく揺れを抑える構造ではないため、建物内の家具の転倒などを防げないことです。
選ぶ住宅の種類や規模によって最良の耐震構造は異なるため、一概にどれが良いとは言えません。木造一戸建てであれば、耐震構造で十分ですし、耐震強度そのものを高めることで住宅性能表示制度の最高等級である耐震等級3レベルの建物にすることができます。高層タワーマンションの場合、免震構造や制振構造などの特殊な工法が採用されることが一般的です。というのも、建物の高さが高くなるほど、より高度な耐震対策が必要となるからです。検討している建物が一戸建てなのか、それともマンションなのか、高層タワーマンションなのか、物件によって異なる耐震構造の特徴を把握したうえで比較検討してみてください。
新耐震基準の建物は、上記の許容応力度が阪神・淡路大震災クラスの震度6強~7程度の地震で倒壊、崩壊しないことを前提に造られています。これは旧耐震基準でいう許容応力度計算に加えて、保有水平耐力計算によって耐震性を検証します。地震時の耐震性を測る基準としては、許容応力度計算の他に、より高度な構造計算方法である限界耐力計算等があります。
阪神・淡路大震災の死亡者のうち88%が家屋、家具類等の倒壊による圧迫死であったとされています。(平成7年度版「警察白書」より)
そして、建物の建築年別の被害状況としては、昭和56年以前に建築された建物、いわゆる旧耐震基準の建物の被害が60%以上にのぼったのに対して、昭和57年以降に建築された、新耐震基準を満たした建物では30%以下でした。要するに、阪神・淡路大震災クラスの震度6強~7程度の地震が発生した場合、旧耐震基準の建物では地震に耐えられない危険があるわけです。
平成25年時点の国土交通省のデータによると、総戸数約5,200万戸のうち、昭和57年以降築の新耐震基準の建物が約3,700万戸で約71%、昭和56年以前築の旧耐震基準、耐震性のない住宅が約1,500万戸で約29%となっています。国としては、住宅の耐震化率9割を目標において耐震診断及び耐震改修を進めています。
耐震補強工事自体は、設備が新しくなり便利になることも、クロスやフローリングの張替えのように見た目がきれいになるものでもありません。耐震補強工事の効果を実感できるのは地震が発生したときとなります。ですから、どうしても多額のお金をかけてまで耐震補強工事は必要なのか迷う方も多いと思います。しかしながら、大地震が発生する確率も高まっていますし、大切な命を守るために地震に対する備えは必要です。現在の耐震基準に比べて著しく耐震性が低いようであれば、耐震補強工事を検討した方がよいでしょう。
ただし、どんな場合でも耐震補強工事をすべきとは限りません。中には、耐震補強工事の費用が高額であるため耐震補強を実施しないで、建替えを選ぶケースもあります。築年数が古すぎて耐震補強工事の費用が1,000万円以上かかるなど、耐震補強のコストが高くなると、当然建替えも比較検討することになります。「耐震性が劣るなら新しい耐震基準の建物を新築してしまえばよい」という考え方です。具体例をあげると「築50年の木造家屋の耐震補強工事をして、何年間住み続けられるのか」を考えて、耐震補強工事を行うべきかどうかを判断する必要があるということです。
もしあなたが中古住宅を購入して耐震補強工事を行うことを予定しているのであれば、耐震基準適合証明書を発行してもらうことをおすすめします。耐震基準適合証明書があれば、所定の要件を満たすことで、築年数の制限で適用されない住宅ローン控除や登録免許税や不動産取得税の軽減、贈与税の非課税制度を利用することが可能になります。税制控除を利用することで耐震補強工事の費用負担を軽減できるのです。
現在、さまざまなメディアでも報道されているとおり、大地震の可能性が高まっています。行政としても耐震診断費用や耐震補強工事の助成制度を導入し、耐震性の低い建物の改修を推進しています。耐震補強工事のおおまかな流れをご説明します。
建物の築年数による耐震基準の違いや、過去の大地震で建物にどのような被害があったのかを調べてみましょう。各行政窓口へ行けば、耐震補強に関するパンフレットや小冊子があることがほとんどですし、インターネットでも調べることができます。
建物の耐震診断を行います。診断結果について書面で説明を受けます。ちなみに建物の築年数などによって耐震診断費用の助成が受けられる場合があります。耐震診断を依頼する場合には、助成制度を利用できるか確認しておきましょう。
耐震診断の結果、現在の耐震基準と比較して耐震性が低いことが分かったら耐震補強工事を検討します。具体的に建物のどの部分を補強するのか、補強の方法、工事期間の日常生活への影響(仮住まいが必要なのか等)、耐震補強にかかる費用を確認します。耐震補強工事についても、耐震診断と同様に助成が受けられる場合がありますので、耐震補強工事の見積と共に助成制度が受けられるのか、受けられる場合には金額はいくらなのかを確認しておきます。助成制度については、必要に応じて自分で行政の窓口に問合わせをしてみてもよいでしょう。
もし耐震補強工事を行うことを前提として中古住宅の購入を予定しているのであれば、耐震基準適合証明書の取得をおすすめします。所定の要件を満たすことで、住宅ローン控除や不動産取得税の軽減、地震保険の割引などを受けることができます。
中古マンションの耐震性と地震に対する対策がされているかどうかを調べる方法をお伝えします。
旧耐震基準で建築されたマンションなのか、それとも新耐震基準で建築されたマンションなのか調べます。昭和56年6月1日以降に建築されたマンションは新耐震基準で建築されており、令和5年現時点の耐震基準と同等となっているのに対して、昭和56年5月31日以前に建築されたマンションは旧耐震基準のため、現在の耐震基準よりも劣っています。そのため旧耐震基準のマンションの購入を検討する場合には、「過去に耐震診断が実施されているか」、または診断の結果「耐震補強工事がされているか」を確認しましょう。
マンションによっては、管理組合として耐震診断を行っている場合があります。というのも、過去に耐震偽装事件などが発覚し、マンションの構造計算に対する信頼性が大きく揺らいだことがありました。その際に、管理組合として建物の耐震診断を行い、耐震性に問題がないかを調査している場合があるのです。正式な耐震診断でなくても、売主であるデベロッパーに対して耐震性に関する質疑応答がされていることも珍しくありません。中古マンションの耐震性を調べるうえでは、このような耐震診断の報告書や耐震性に関する質疑応答の内容はとても参考になります。管理会社を通して、過去に耐震診断などがされていないか確認してもらいましょう。
高層タワーマンションなどでは、免震構造、制振構造により地震対策をしている物件もあります。どのような仕組みで地震の被害を抑えるようになっているのか、確認しましょう。また、高層タワーマンションなどでは、エレベーターが利用できなくなると生活に支障が出てしまいます。エレベーターについても地震に対して特別な対策がされているかを確認しておくとよいでしょう。
大きな地震が発生すると、電気や水道、ガスなどが利用できなくなることが予想されます。大規模マンションやタワーマンションでは、地震などの災害時に一時的に対応できるような食料やトイレ設備などが備蓄されているケースもあります。万が一の災害時の備えを個人で行うのも限界がありますので、多少であってもマンションとして災害時の備えがあることは重要です。
まず一戸建ての場合には、建築関係の資料の中に地盤調査報告書がないかを確認してみてください。建築前に地盤調査を行い、地盤の強さによって建物で対策をとります。良好地盤である場合には特段の対策は必要ありませんが、地盤が軟弱である場合には、地盤改良工事などの対策をとります。地盤調査報告書が残っており、地盤の良し悪しを判断することができて、もし地盤が良好でなかった場合でも地盤改良工事の記録が残っていれば、ある程度安心してもよいと思われます。
中古一戸建ての中には、地盤調査を行わずに建築されている建物もありますし、地盤調査を行っていたとしても資料自体が紛失していることもあります。このようなケースでは、その物件自体の地盤に対する対策を確認することは困難です。そのため、実際の建物の基礎を確認して大きなクラック(ひび割れ)が多数発生していないか、建物自体が傾いていないか、対象物件の周辺の建物でも同様の不具合が発生していないかを確認してみてください。対象地域一帯が軟弱地盤である場合には、建物が不同沈下するなどの不具合が発生し、基礎部分にもクラックなどが目立つことがありますので注意してみてください。
地盤調査会社から当該周辺の地盤調査データを取得できる場合があります。地域の地盤強度の傾向として把握するための判断材料として役に立ちますが、厳密には、隣の敷地であっても地盤強度は異なることが多いので参考程度に留めておいた方がよいでしょう。
地盤沈下とは、地盤が沈む現象のことです。地盤沈下の影響によって建物が傾いたり、地盤の中にある給排水管などのライフラインが破損したりする可能性があります。建物にとって地盤がとても重要というのは、「地盤沈下して建物が傾くのではないか」という理由からくるのです。
地盤沈下にも地盤面全体が同じように沈下する同沈下と、地盤の箇所によって沈下する程度が異なる不同沈下があります。同沈下であれば、建物が傾いたりするなどの影響は小さいのですが、不同沈下の場合には、建物の傾きにつながります。建物が傾くと、日常生活も困難となり、修繕するにも費用がかかってしまいます。売却する際には地盤沈下により建物が傾いた事実を伝える必要がありますので、売値が下がってしまうことも考えられます。
地盤沈下は建物にとっては構造的な瑕疵につながる重大な不具合に直結します。そのため、もし住宅購入を検討しているのであれば、地盤の状態について慎重にチェックすることをおすすめします。具体的な方法については次の項目で改めてご説明します。
建物にとって地盤は大事です。なぜなら、建物の基礎がどんなに強固につくられていても、その基礎を支える地盤が弱いのに何の対策も施さないままで建築すると、地震で建物が傾いたり、倒壊したりしてしまう恐れがあるからです。
地盤の強さは、「地耐力(ちたいりょく)」という数値で表すことが一般的です。地耐力とは、地盤がどの程度の荷重に耐えられるかを示す指標です。ちなみに木造一戸建てなら1㎡あたり5t程度の地耐力があれば建物を支えることができます。コンクリート造のマンションの場合には、50t程度の地耐力が必要になります。
地盤の強さは立地ごとに異なります。隣が良好地盤であってもその地盤も良いとは限りません。最終的には、その土地で地盤調査を行い、地盤の強度に合った対策が必要です。ただし、物件によっては地盤調査のデータがないことも珍しくありません。地盤調査のデータがないときはどうすればよいのか、4つの具体的な方法をお伝えします。
1.過去の地歴を調べる
地歴というのは、土地の歴史のことです。現在は住宅地であっても、50年前は沼地や田だったところを埋め立てた土地かもしれません。もともと沼地や田だった土地は地盤が強くない傾向があります。どのように過去の地歴を調べるのかというと、その地域の図書館で古い地図を閲覧するのです。地図が残っていれば、100年くらい前から遡ってみると土地の成り立ちを確認することができます。地図の一部であればコピーを取得することもできます。
2.地名から調べる
調べたい地域の地名から地盤の強さを予測する方法もあります。地名の中に、水を示す文字や沼などの言葉が使われている場合には、昔は地盤が強くなかった可能性があります。例えば、○○川や○○水という地名の場所については、現在は平地でも、昔は川があったかもしれません。○○沼、○窪などの氵(さんずい)が使われている地域は沼、窪地だったということもあります。水に関係する地名だからといって必ずしも地盤が弱いということではありませんが、もともとの地盤の状態を推測する貴重な情報にはなります。
3.各自治体で地盤に関する資料を調べる
各行政機関の中には、建築確認審査に関する窓口などで過去のボーリングデータなどを公開しているところもあります。また各行政機関の情報公開コーナーでは、過去に調査された地盤に関する資料が提示されている場合もありますし、地盤情報と土地の液状化の可能性に関する資料が配布されている場合もあります。上記のような資料の有無を確認し、資料があれば閲覧可能かどうかを事前に問い合わせたうえで、閲覧可能なら確認してみましょう。
4.現地で調べる
調査対象地の付近を実際に見て調べる方法もあります。物件周辺は貴重な情報の宝庫です。例えば、現地の近くの建物の基礎部分や外壁を見て、ひび割れが発生していないかをチェックしてみてください。周辺の建物の基礎部分に大きなひび割れが目立つようであれば、地盤沈下の影響が建物に発生している可能性があります。また道路部分を見て、下水のマンホール部分が盛り上がっているときも注意が必要です。なぜなら、下水のマンホールは地面下の下水道管につながっており、高さが固定されているので、周囲の地盤面が沈下しているために盛り上がっているように見えることがあるからです。