「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
マンションの評価について
前回11月号(収益用不動産の適正価格はどのようにして見極めるのか。)では、不動産の適正な価格を見極めるためには、「その不動産の特徴を考慮した査定方法を知ることが重要である」とお伝えしました。
今回は、皆様にとって身近な「マンション」について、価格を査定する方法、査定にあたって注意する点等についてお話します。
1.マンションとは?
「マンション」と聞くとどのようなものを思い浮かべるでしょうか?
マンションには大きく分けて「分譲マンション」と「賃貸マンション」の2つがあります。
「分譲マンション」は、「区分所有建物」の一種で、その名の通り「区分けして所有することができる建物」です。分譲マンションは、区分された部屋毎に所有者が異なり、区分された部屋毎に購入することができます。
「賃貸マンション」は、多くの場合、マンション1棟全てを大家さん1人が所有していて、1部屋のみを所有(購入等)することはできません。
両者は外観では判別がつかない場合もありますが、その権利関係は大きく異なります。
今回は、「マンション」のうち「分譲マンション」について、その評価方法をみていきたいと思います。
2.分譲マンションの評価
今回のテーマでは「分譲マンション」の評価を取り上げます。この場合にはマンションの「1室」が評価の対象です。
なお、今回はお話しませんが、前述の「賃貸マンション」の場合は、「1棟全体」が評価の対象です。
建物は、土地なしに存在することはできません。分譲マンションでは、現実には建物の一定の範囲のみを専有していますが、その価値の中には、そのマンション1棟が建っている土地の持分が含まれています。
3.マンションの価格に影響を与える主な要因
買い手がマンションを購入する際、どのような要因が重視されているでしょうか?
購入にあたっての意思決定に影響を与えている要因をいくつか列挙してみます。
上記2.でマンションの評価の対象は「1室」とお伝えしましたが、その「1室」はマンション「1棟」の中にあります。マンション1室の購入を検討している人は、そのマンション1棟の状態も考慮しているのが一般的です。
【 購入するマンション「1室」について 】
①位置関係(階数・角部屋か否か・日照・眺望・ベランダ方位 等)
②室内状況(面積・間取り・リフォームの必要性・水回り等設備の程度 等)
③その他(管理費・修繕積立金・固定資産税・毎月必要となる費用 等)
【 購入するマンション「1室」がある「1棟全体」について 】
④地域性(駅からの距離・通勤利便性・居住環境・学校区 等)
⑤建物状況(築年数・外観・グレード・エントランス・総戸数・管理状況 等)
⑥管理規約(ペット飼育はOKか・用途制限はないか 等)
4.マンションの価格の評価
鑑定評価は、私たち不動産鑑定士がその対象マンションを取り巻く市場を分析して、その市場になり代わり、その市場に参加する人(買う人・借りる人、売る人・貸す人等)を把握し、その市場で成立するであろう市場価値を、様々な側面からアプローチし、導いていく作業です。
そのアプローチとしては、主に①費用性・②市場性・③収益性(「価格の3面性」といいます)の3つの側面があります。
①費用性(どれくらいの費用がかかる?)
建物を0から建てる場合に、「新品価格で●●円だから、古くなった分の減価を差し引いて評価するマンションの価格は●●円」という考え方です。
②市場性(どれくらいで取引されている?)
「隣の部屋は●●円で売れたみたいだから、角部屋の私の部屋の価格はそれより高い●●円」という考え方です。
③収益性(どれくらい儲かる?)
「賃貸に出したら家賃はいくら貰えて、管理費などを支払っても手元に●●円位残るから評価するマンションの価格は●●円」という考え方です。
5.マンションの価格を評価してみる(具体的例)
今回は、以下のマンションの1室について簡単に評価してみたいと思います。
①費用性に着目した方法(原価法)
1棟全体の現在価値を査定して、そのうち対象【401号室(1室)が占める割合】を乗じて対象401号室の価値を求めます。
ここでは、1棟全体の土地建物の新品価格が10億円と仮定して、以下のような順序で査定します。
※【401号室が占める割合】については、単純に面積比で計算すると約9%(1戸÷11戸)です。しかし、これでは11戸すべてが同じ価格になり、通常は上層階や角部屋の方が低層階や中間部屋に比べて人気がある点(価格が高い点)が考慮されていません。今回は、401号室が最上階の角部屋にあることを考慮して10%と査定しています。
※10%はあくまでも例示であり、全てがこの数値になるものではありません。
②市場性に着目した方法(取引事例比較法)
近隣で実際に取引された事例を集めた後、3.で記載した『マンションの価格に影響を与える主な要因』等を分析することによって、事例と対象のマンションの価格差を査定し、対象401号室の価値を求めます。
ここでは、隣の402号室が2,900万円で1年前に取引されていたとして、以下のような順序で査定します。
※実際には、402号室の取引価格が正常かどうか(高すぎたり安すぎたりしないか)や、1年前から現在までの中古マンションの価格変動はどの程度かも分析します。また、実際には、1物件の取引事例から査定することはなく、多数の事例を収集して分析検討し、査定を行います。色々な要因の比較の方法など詳細については、今回は割愛します。
③収益性に着目した方法(収益還元法)
収益不動産については、前回11月号で詳しく記載していますので、是非ご覧ください。今回は、401号室を誰かに貸すことを想定します(分譲マンションですが、誰かに貸すことは可能です)。
ここでは、家賃月額12.5万円(年家賃150万円)で貸すことができると想定して、以下のような順序で査定します。
※還元利回りは、401号室の投資対象としての収益性を表しています。いわゆる「投資リターン」と呼ばれるもので、今回は6.0%を採用しています。
④評価額の決定
上記のとおり3つの側面からアプローチし、以下の3つの価値を査定しました。
買い手は、これらの3つのアプローチのうち、いずれを重視するでしょうか?
①費用性からのアプローチによる価値(2,200万円)について
ある1室を購入するにあたって、マンション1棟の原価を考えて購入価格を検討する人は少ないのではないでしょうか?
②市場性からのアプローチによる価値(3,000万円)について
近年、インターネット等で様々な取引情報が公開されており、その他にも不動産業者からの販売広告、不動産業者からの情報等、取引価格について知る機会、手段は増えています。したがって、マンションを購入する人にとって、購入価格を検討する場合には、有力な目安になるのではないでしょうか?
③収益性からのアプローチによる価値(2,000万円)について
このマンションを欲しいと思う人の大半は、自分(とその家族)で実際に住もうとする人だとすると、いくらで貸せるかを基に算出された価格が安くなったとしても、実際にはその価格では買えないことになります。なぜなら、周りではもっと高い価格で実際に買う人がいるからです。
近年、利便性の高い地域を中心に、投資として分譲マンションを購入することも増えています。地域性や市場に参加する人(買う人・借りる人、売る人・貸す人等)の属性によっては、高い賃料で貸すことができ、収益価格がもっと高く算出されるかもしれません。その場合には、分譲マンションであっても、収益性からのアプローチによる価値も重視されるでしょう。
今回の例に挙げたマンションの地域であれば、主な買い手は②を重視していると思われますし、売り手も②を意識していると思われます。その場合には、3,000万円に近い価格が評価額になると考えられます。
6.マンションと税金
マンションを保有するには、毎年固定資産税等が必要です。また、相続が生じた場合には相続税が必要です。
これら税金の計算の基礎となる、「固定資産評価額」は、低層階と高層階、角部屋と中間住戸等の個別条件により、市場において取引される価格が異なることが通常であるにもかかわらず、専有面積が同じであれば全て同額として計算されています。
つまり、鑑定評価で加味したような個別性(位置や階数等)は、一切加味されておらず、同じ建物内で床面積が同じであれば、すべて同じ評価額(同じ税金)になります。
具体例を挙げると、タワーマンションの最上階70平米(3LDK)と2階70平米(3LDK)は評価が同じ(=支払う税金が同じ)になっているのです。
今後、タワーマンション(概ね20階以上の新築マンション)の課税上の評価については、税制の見直し(高層階は増税・低層階は減税)が行われる予定です。
7.今月のまとめ
今月は、マンションの価格査定方法を中心にお話しました。以下簡単にまとめます。
・マンションの評価対象は、1室が通常である。
・マンションの価格査定には、1棟全体の価格も把握する必要がある。
・鑑定評価は、複数の視点からのアプローチが必要である。
・固定資産税等の査定には、個別性は反映されていない。
市場における「価格」というのは、売りたい人と買いたい人との合意で決定します。どうしてもその部屋を欲しい人がいる場合、その価格は高くなる傾向があり、逆にどうしても早く売りたい人がいる場合、その価格は安くなる傾向があります。鑑定評価はそのような特別な要因を排除して分析することにより、適正な価格を査定します。
市場における適正価格を知る為には是非、鑑定評価をご検討下さい。