「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
平成28年の都道府県地価調査基準地の価格が発表になりました。
都道府県地価調査とは
平成28年は9月21日に都道府県地価調査の結果が発表されました。
都道府県地価調査は、都道府県知事が毎年7月1日の価格として発表しているもので、毎年1月1日の価格として3月に国土交通省が発表する地価公示(以下、地価公示の価格を「公示価格」と記載)とその目的は同じです。「都道府県地価調査基準地の価格」は、単に「地価調査」や、「基準地価格」とも呼ばれます(以下、都道府県地価調査を「地価調査」、都道府県地価調査基準地の価格を「基準地価格」と記載)。
ただし、公示価格が都市及びその周辺の地域の土地取引の指標とするために公表されているのに対して、基準地価格は、都市及びその周辺に限定せず、必要に応じて地点が選定されています。
ところで、まちづくりのために定められた都市計画法では、人が集中する都市が無秩序に開発されないように、まちの整備に関して規制等を行う地域の範囲を「都市計画区域」と定めています。公示価格は、この都市計画区域の中にある土地の価格ですが、基準地価格には、都市計画区域以外の土地の価格のものもあります。つまり、地価公示は実施されていないけれども、地価調査は実施されている市町村があるのです。例えば、東京都では、奥多摩町や檜原村がそれに該当します。
国は主たる経済活動が行われているエリア(都市)を中心に、都道府県はその地域の経済活動が行われているエリアの隅々についても土地価格を把握し、土地の利用計画を決めることに役立てています。
8月のコラム「2016年8月号 相続税路線価が発表になりました」で、「相続税路線価は、その年の1月1日時点のものなので、その年の1月以降も地価動向が同じ傾向で続いているとは限らない」ということや、「新聞などで発表されている相続税路線価の最高価格地の地価動向は、個別の不動産の動向とは異なる動きを示していることもある」とお話ししました。地価調査において公表されている地価変動率は、前年の7月1日からの1年間の変動率ですので、1月1日以降の地価動向としても参考とすることができます。基準地価格と公示価格とを両方把握して比較することで、最新の地価動向を推測することができます。
ただし、地価公示で公表されている地点と、地価調査で公表されている地点とは大半が違う場所ですので、その点は注意が必要です。なお、地価公示と地価調査で共通の地点もあります。ただし、上記のとおり、都市計画区域外には地価公示は設定されていませんので、共通の地点も都市計画区域内のみです。
平成28年の公示価格と基準地価格について、全国の平均変動率として公表された数値を見てみましょう。
地価公示と地価調査での全国平均の対前年変動率を比べてみると、住宅地・商業地・工業地の全てにおいて下落幅が拡大または上昇率が縮小しています。地価公示は平成27年1月1日から1年間の地価動向、地価調査は平成27年7月1日から1年間の地価動向ですので、これだけを見ると、直近の期間の方が地価の下落幅が大きくなり、上昇していたところも上昇がストップしているように見えます。
平成27年7月からの地価動向
上記の表は、「都市計画区域内」と「都市計画区域外」の地価変動を示しています。
この表を見ると、都市計画区域内の地域については、ほとんどのエリアで、ほぼ上昇率拡大、下落幅縮小という傾向になっています。しかし、東京圏・大阪圏・名古屋圏という大都市圏であっても、都市計画区域外の地域では地価の下落傾向が続いています。都市計画区域外のエリアは、総じて駅や商業施設から距離があり、主要産業がないなどの理由により高齢化・過疎化の傾向がみられる地域が多く含まれています。都市計画区域内でも、同じ様な条件の地区では、地価の下落傾向が顕著に表れています。
今回の地価調査の中で、住宅地で最も高い上昇率を示したのは、北海道の倶知安町内の土地(倶知安(道)-2)で、前年価格に対する変動率(以下同じ)は+27.3%です。地価公示も、同じく北海道の倶知安町内住宅地(倶知安-3)が+19.7%と上昇傾向を示していました。これらの地点は、ニセコスキー場に近く、別荘地として外国人からの需要が継続して増加しており、コンドミニアム用地としての需要の高まりもあり、地価の上昇傾向が続いているようです。
また、東京圏・大阪圏は、主にマンション用地が、名古屋圏では、住環境の良好な戸建住宅地域が高い上昇率を示しています。地方圏では、鉄道新線の開通や再開発事業を契機として昨年の地価上昇傾向が継続しています。
商業地で最も高い上昇率を示したのは、名古屋駅の西側至近、東側至近の商業地域で、年30%以上の上昇率となりました。この上昇率の背景には、以前から続いている駅前の再開発事業や、リニア中央新幹線の整備への期待感も含まれていると言われています。また、インバウンド需要が続いている東京の銀座や大阪の心斎橋では、30%弱程度の上昇率となっており、依然インバウンド効果を見込んだ、ホテル用地の取得競争も激しくなっています。
都心部の再整備計画が進んでいるエリアでは、これらの整備計画と併せて建築された新築オフィスビルに対するテナント需要が好調で、稼働率が上昇し、併せて賃料も上昇しているという傾向があります。ただし、今後もオフィスビルに対するテナント需要が好調なまま継続するかどうかは今後の景気の動向次第ですので、注意が必要です。
今後の地価動向に影響を与えそうなことがらについて
発表されている数値はあくまで過去の取引事例等をもとに導き出された結果を表したものです。現時点の取引の参考にはなりますが、今後の動向を予測する際は、政治・経済・社会情勢等、日々の様々な変化に注意が必要です。
例えば、今年の6月、国土交通省は「ホテル等の宿泊施設については新築時や増改築時などに、容積率を緩和する」という主旨の制度を創設しました。
この制度では、地方公共団体が宿泊施設を誘導する区域を決めた場合や、再開発事業などの個別のプロジェクトにおいて、その区域内でホテル等を建設する際に、現行で定められている容積率の1.5倍までかつ、上限300%までのいずれか大きい方まで容積の割増しが認められます。これは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでインバウンド需要が続くことを前提に、国を挙げてインバウンド需要を取りこぼさないことを主な目的とする施策かと思われます。この区域が具体的に定められると、ホテル適地の地価に大きな影響を与えそうです。
他にも、実現すれば地価に大きな影響を与えそうな国の施策や方針として、税制改正、2025年の大阪万博誘致や、IR(カジノを含む統合型リゾート)関連法案の動向などがあります。また、海外の社会・経済動向も注視しておく必要があるでしょう。
来年の地価公示はどうなっているでしょうか。
今月はここまでです。ありがとうございました。