「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
〔評価の対象が土地〕の場合
評価の対象となる「不動産」
「不動産」と聞くと、通常は、「土地」「建物」「家」のことだと思いますよね。改めて「不動産」の定義を確認してみましょう。
まず、【民法】第86条には「土地とその定着物を不動産とする」とあります。民法では、原則として土地に定着したものは土地の所有権に含まれるということです。土地に定着するものとしては、建物、門扉、外塀、ネットフェンス、庭木、庭石など土地に人工的(庭木は自然的もある)に接着されたものを挙げることができます。しかし、これら定着物のうち「建物」は、土地から独立して別の不動産として取り扱われます。
不動産 = 土地及びその定着物 & 建物
一方、建物を建てる時に守らなければならない【建築基準法】には、第2条第1項で「建築物」を次の様に定義しています。
・土地に定着する工作物のうち、屋根及び柱もしくは壁を有するもの
これは、物理的状況を踏まえるといわゆる家やビルなどの「建物」が該当します。
したがって、建築基準法上は
建物 = 建築物
です。
庭木、庭石などは、土地から容易に切り離せないため、原則として土地の所有権に含めて取引の対象となります。
しかし、門や扉、外塀についてはややこしく、建築基準法では、建物としての建築物があれば「これに附属する門もしくは塀」も、「建築物」=「建物の附属」=「建物」として取り扱われますが、建物としての建築物が無ければ、建物として取り扱われず、「土地の定着物」として扱われます。
不動産鑑定評価基準でも、不動産は「土地とその定着物」と定義しています。土地について建物や構築物の敷地として利用されることが自然であるエリアの土地については「宅地」として、「農地」や「林地」と区別しています。建物については、これが建物だという定義は特にないのですが、基本的には民法や建築基準法の定義が前提となっています。
更地とは
宅地について不動産鑑定評価を行う場合、その土地の現実の利用状態や権利関係に応じて「更地」「建付地」「借地権」「底地」「区分地上権」と例示されています。
今月のテーマは、【更地の評価】ですので、上記類型のうち「建付地」以降は今後に譲ることにします。
不動産鑑定評価基準の定義では、
更地とは、建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない宅地をいう。
となっています。つまり、更地の評価は、純粋に土地のみの評価です。
現実には建物が建っている土地であっても、「更地価格を知りたい」という依頼があった場合、鑑定評価を利用する目的によっては「更地として」評価を行うことがあります。この場合、評価書には、現況の状態も記載しつつ、更地としての価格を評価しますということを明確に記載します。
記載例:対象不動産は、現況戸建住宅の敷地として利用されている土地であるが、ご指示により更地であるものとして評価を行う。
このような依頼の場合には、純粋にその土地を更地として評価すればいいので、定着物のことを考えなくてもいいことが多いのですが、元々建物が建っていた土地で、現在は建物だけを取り壊した状態になっている土地の評価依頼を受けた場合には要注意です。求めるべき価格が、定着物があることを前提なのか、完全な更地(定着物がない土地)なのか確認する必要があります。評価の依頼をいただく時に「更地になっています」とのことであっても、現地に行ってみると、ネットフェンスやブロック塀、外壁の基礎が残っていたりすることがあります。クライアントが「『現状のままの価格』を知りたい」のだとすると、この土地については定着物が一切無い「更地」ではなく、「定着物がある土地」として評価することになります。
なお、擁壁については、通常土地そのものとして取り扱われますので、擁壁のある土地は「更地」として評価することが可能です。
定着物がある土地の評価
定着物は法律上土地の所有権に含まれるとなっています。定着物がある土地の評価は、その土地を売買する際に土地の主たる需要者(買主)が、その定着物を必要とするのが一般的か否かを検討し、通常は定着物を必要としないと判断される場合には、更地価格から撤去費用を減価する必要があります。
定着物がある土地の価格 = 更地価格 - 定着物の撤去費用
しかし、建物だけが取り壊されて隣接地との境界にブロック塀が定着物として残置されているような土地の場合で、その土地の主たる需要者(買主)が、その定着物を必要とするのが一般的と判断される場合には、撤去費用は生じないこともあり、このような場合には、更地価格に一致します。
定着物がある土地の価格= 更地価格
ここで、定着物があることによって増価となることは無いのか?という点ですが、もしその定着物に対して売主買主が双方とも別途の価値を見いだしている場合には、通常は、土地の定着物といえども、売主買主で別途精算してもらうことを確認し、評価上は考慮しないことが多いのではないでしょうか。
掘り込み車庫
掘り込み車庫は、土地とされることもあれば、建物とされることもあります。基本的には、車庫としての登記の有無(または登記の可否)で判断することが多いです。土地とした場合には、定着物と同じように検討して土地の評価を行います。その地域において「車庫」は必要でも、構造や強度の点で現状のまま使用することができない場合には、撤去や補修の費用を減価することになります。
今月はここまでです。
ありがとうございました。