「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
家賃の評価【建物全体の賃料と建物内の一部区画の賃料】その3
店舗の場合
2019年3月、4月と事務所の賃料を例に挙げて、説明をしてきました。店舗の場合も同じでしょうか。店舗と一言で言っても、業態によって色々な物件があります。国道等の幹線道路沿いに建つラーメン店や、ファストフード店、電気や衣料の量販店等は、店舗建物全体とその敷地である土地という組合せが対象不動産です。一方、ラーメン店もファストフード店も、ビルの中に入居していることもあります。この場合の対象不動産は「店舗建物内の一部区画」と言えます。
ビルやマンションが建ち並ぶ市街地でも、低層の飲食店舗や販売店舗が介在している場合があります。
このような場合も事務所ビルと同様に、一棟の店舗の賃料を店舗ビルの一部区画の賃料に当てはめて考えることはできません。一部区画の賃料を知りたい場合には、同じようなビルの一部区画の賃料と比較します。
店舗ビルもグレード比較?
店舗ビルについては、事務所と同様にグレードの違いによる賃料水準の差もあります。しかし、事務所としての区画の場合、ビル同士の比較の際にビルのグレードの違いを検討しますが、同じビル内であれば、提供される専用部分の内装(天井・内壁・床)に大きな差異はなく、また、例えば2階と7階でも、賃料水準にあまり大きな違いはありません。店舗の場合は、さらに以下の条件や状態が異なることで、賃料水準に大きな違いが生じることがあります。
1.顧客となる人々の通行量を踏まえた立地条件(建物相互間での比較)
2.客足の導線を踏まえた立地条件(建物内での比較)
3.顧客確保のための施設・設備の状態
4.その他
1.顧客となる人々の通行量を踏まえた立地条件(建物相互間での比較)
①駅からの距離が同じでも、人の流れが多い場所とそうではない場所がある。
例えば、同じ駅から徒歩3分の立地でも人通りが多い表通りと少ない裏通りでは差が生じます。
②同じ幹線道路沿いでも、視認性が高い場所とそうではない場所がある。
例えば、緩やかなカーブや、緩やかな坂の頂上付近は、対面通行の道路ではいずれか一方から看板等が見えにくいことがあり、来客の利便性が異なります。
③同じ幹線道路沿いでも、両方向の車両が来店しやすい立地と、そうでない立地がある。
大規模幹線道路の中には中央分離帯があり、対面からの車両は進入することができない場合がありますし、幹線道路が本線と側道に分かれる側道部分に面している場合も、対面及び本線からの車両は進入することができません。
2.客足の導線を踏まえた立地条件(建物内での比較)
店舗の場合は、1階や2階は比較的客が来店しやすいということもあり、他のフロアと比較して、相対的に高い賃料となる傾向があります。また、高層ビルの場合の上層階の店舗も眺望の良さから、中間のフロアの店舗部分よりも高い賃料となることがあります。
また、同じフロア内でも、エスカレーターとエスカレーターの間の位置と、そうでない位置とでは、客足の流れの量が異なりますし、奥まったところにあって、そのお店の常連客以外は流れてこないような位置の場合には、相対的に低い賃料となることがあります。
3.顧客確保のための施設・設備の状態
①駐車場の状態
幹線道路沿い店舗のように、顧客がその店舗に行く主な交通手段が車と考えられる場合には、駐車場の広さに応じて建物の賃料が異なることがあります。
なお、駐車場が広い場合には、建物と駐車場とで別の賃貸借契約をかわしていることがあり、その場合には借り主の権限が異なりますので、注意が必要です。
②店舗の施設の状態
店舗といっても、飲食店と物品販売店舗とでは施設内の設備が異なっています。飲食店舗の場合には、室内に水道やガスを引き込むことができ、厨房等の調理場を設置できる設備が必要ですが、物品販売店舗の場合には、専用部分に水道やガスは必要なく、共用部にあればいいという場合もあります。また、厨房などの設備は、借り主が借り主の負担で設置し、賃貸借契約の終了時に撤去して退去することになっている契約が大半ですが、様々な事情で前の借り主が撤去せずに退去した物件をそのまま借りるという場合には、貸し主からすると、設備付なので割高で貸せる反面、借り手から見て割安と思えることもあるかもしれません。ケースバイケースで判断することになります。
4.その他
余談ですが、深夜酒類提供飲食店営業開始届が必要な飲食店舗や、ラウンジやスナック等の風俗営業の店舗は、それぞれ風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)による届出及び許可が必要です。その届出や許可のためには、立地条件等の規制があります。届出や許可が認められる立地条件を備えている物件は、備えてない物件よりも賃料が割高に設定されていることがあります(届出や許可が認められるためには、立地条件だけではなく、他にも法令上の条件があります)。
店舗の場合は、宣伝効果や視認効果の良否が重要
多くの店舗は、その賃料の原資となる収益は、来店する客が物や役務に対して支払う代金です。したがって収益を増やすためには来店する客をいかに増やせるかが重要になります。
来店する客を増やすためには、日常のサービスや品物の品質の維持や向上はもちろん必要ですが、それがわからない段階では、まずは宣伝効果や視認効果の良否が店舗への需要の多寡に影響を与えていると言えます。
今日はここまでです。ありがとうございました。