「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
固定資産税の評価額と鑑定評価額
固定資産税(土地)の【評価額】と、その土地の鑑定評価額
土地建物等を所有している方は、年に1度4月末から5月にかけて、所有している不動産が存在している市町村から、固定資産税の課税明細書と納税通知書が送られてきます。固定資産とは、土地、家屋(建物は課税上【家屋】と呼ばれます)、償却資産の事をいいます。
各市のホームページ等を見ると、大体、【固定資産税】の定義として以下のような説明があります。
・固定資産税は、土地、家屋、償却資産を所有している人が、その固定資産の所在する市町村に納める税金です。
・固定資産税は、毎年1月1日に、土地、家屋、償却資産を所有している人が、その固定資産の価格(評価額)をもとに算定される税額を、その固定資産の所在する市町村に納める税金です。
課税明細書の形式は自治体によってバラバラですので、【○○年度 固定資産税・都市計画税課税明細書】と書かれているものもあれば、【○○年度 課税明細書(土地・家屋)】となっているものもありますし、都市計画税が課税されない市の場合には、【○○年度 固定資産税課税明細書】となっているものもあります。表題は色々ありますが、課税明細書の中身を見ると、【評価額】という欄が必ずあります。【評価額】は、各市町村が行った固定資産の評価の額が記載されています。この固定資産の土地の【評価額】は、不動産鑑定士が鑑定評価した額を基に、自治体が決定したものです。【不動産鑑定士が鑑定評価した額を基に、自治体が決定したもの】とは、不動産鑑定士が全部の土地を1つ1つ評価したものではないという意味です。市町村が土地の利用状況が似ている地域毎の範囲を決め、その中の1地点の土地を選定し、その土地を不動産鑑定士が鑑定評価します。個別の土地の課税上の【評価額】は、不動産鑑定士が鑑定評価した土地価格(標準価格)に0.7を乗じ、さらに各自治体の基準を用いて決定された価格なのです。
不動産鑑定士が更地の鑑定評価を行う場合、次の様なプロセスがあります。
① その土地(画地)を含む地域が、住宅地域なのか商業地域なのか、住宅地域であれば、マンションが多いのか、戸建が多いのか等を踏まえて、同一の用途に用いられている範囲を判定する。
② 駅からの距離や道路の状態、画地の規模の状態が似ているものの集まり等でさらにエリアの範囲を絞り込む(近隣地域の判定)。
③-1 絞り込んだエリアの中で一般的な画地(標準的画地)の個別的要因を検討し、判定する。
③-2 標準的画地の価格(標準価格)を求める。
④-1 一般的な画地と評価対象土地の個別的要因を比較する。
④-2 標準価格に個別的要因に基づく格差率を乗じて鑑定評価額を求める。
個別的要因の例を挙げれば、道路幅員、間口・奥行の長さ、規模、形状、高低差などがあります。特に条件が付されなければその土地の価格に影響を与える全ての個別的な要因(個別的要因)を考慮した価格が鑑定評価額となります。
固定資産税の課税のために市町村が必要としているのは、鑑定評価のプロセス③-2で判定した標準的画地の価格(標準価格)です。④で比較する各土地の個別的要因による増価率や減価率は、各市町村で定めた固定資産評価基準(この基準は、総務省の定める固定資産評価基準に基づいて作成されています)が一律に用いられます。
固定資産税(土地)【標準価格】と、鑑定評価での【標準価格】
総務省の定める固定資産評価基準では、「宅地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法によるものとする。」とあります。市街地では、固定資産評価基準に則った実務上、次の様な手順で【評価額】が決定されています。
a. 地域の土地の利用用途の傾向に応じて、商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分する(交通接近条件や、土地の利用状況に応じ、さらに細区分される)。細区分後の地区は、【状況類似地区】といいます。
b. 状況類似地区の中で、主要な路線を選択し、主要な路線沿いの土地のうち、間口・奥行・形状が標準的なものを選択する。その選択された土地を【標準宅地】といいます。
c. 標準宅地の価格を、地域の主要な路線の路線価とします。主要な路線以外の路線価は、主要な路線の路線価を基に、幅員や通り抜けの有無などを考慮して定められます。
d. cの路線価と、標準宅地に対する各土地の個別的要因の格差を考慮して【評価額】が決定されます。
c.の路線価は、【標準宅地の価格】です。鑑定評価のプロセス③-2の【標準的画地】の価格である【標準価格】と同じに見えますが、固定資産税課税上の主要な路線の路線価は、鑑定評価の過程で用いられる標準価格とは同額ではありません。a.の状況類似地区は、前述の鑑定評価のプロセス②の近隣地域の範囲よりもやや広域ですが、概ね同様に絞り込んだ地域の中で、主要な路線が決められます。主要な路線沿いの標準価格は不動産鑑定士が鑑定評価を行って求めます。鑑定評価上の標準価格に0.7を乗じた数値が、固定資産税課税上の評価におけるc.主要な路線の路線価として用いられます。
固定資産税課税上の主要な路線の路線価 = 鑑定評価上の【標準価格】×0.7
固定資産税(土地)【評価額】と、鑑定評価での【評価額】
前述のとおり、まず、路線毎に鑑定評価上の標準価格に0.7を乗じた路線価が定められ、各個別の土地の個別的要因に応じた格差率を乗じて、【評価額】が決定されます。格差率は、標準的画地と、各土地とにそれぞれ個別的要因に応じた評点をつけ、評点の格差で評価額を決める方法で行われます。評点も、総務省の固定資産評価基準で原則が定められていますが、各市町村の状況に応じて別途定めても良いことになっています。
これらの考え方は基本的な部分は一般的な鑑定評価と似ているのですが、少し異なっている部分もあります。
例えば、下記の図のような土地が多い戸建住宅地域です。
この地域では、大半の土地が、間口5.7m前後、奥行が14m前後です。この場合、近隣地域の一般的な土地は、〔間口5.7m、奥行14m、面積約80㎡〕ですので、標準的画地は、〔間口5.7m、奥行14m、面積約80㎡〕と判定します(図の )。標準的画地の価格が200,000円/㎡の場合、土地A、Bは、標準的画地の間口よりも広いですが、単価に格差は生じないと判断するでしょう。土地Cについては、建物の間取り配置に制約が生じることがあることを踏まえて、標準的画地の価格よりもマイナスになると判断する場合があります。標準的画地の価格(標準価格)から、土地A~Cの価格を下記のようにして求めます。
一方、固定資産税の評価では、絶対的評点を用いて計算されます。総務省の固定資産評価基準に、附表5[間口狭小補正率表]があります。
これによると、普通住宅地区の標準宅地の間口5.7mは、〔0.94〕となっています。土地Aは〔0.97〕、土地Bは〔1.00〕、土地Cは〔0.94〕です。鑑定評価で標準価格が200,000円/㎡とすると、路線価は、これに0.7を乗じた数値になっていますので、路線価は140,000円/㎡です。
他にも、奥行の絶対的な長さや、角地、二方路などの要因による補正率も附表で挙げられています。
附表6として、奥行長大補正率表があります。奥行長大補正は、奥行の長さが何m以上であれば……という比較ではなく、間口と奥行の長さの割合で判定するものです。普通住宅地区で格差率〔1.00〕となるのは、奥行の長さの間口の長さに対する倍率が2未満となっています。
前記図の各土地の場合、鑑定評価では間口と奥行の割合の違いでは価格に差が生じないことが殆どだと思うのですが、固定資産税の場合は、原則として明確に差をつけることになっています。標準宅地は、間口5.7mに対して奥行が14mですので、14m÷5.7m=2.45...です。2以上3未満は〔0.98〕ですので、分母は〔0.94〕×〔0.98〕となります。
実際の固定資産の課税担当部署で実施されている計算方法は、上記の様な計算式を用いて計算されるのではなく、個別的要因毎に評点換算して加算減算するというものです。大まかな考え方は上記のとおりです。総務省の固定資産評価基準は公表されていますので、興味がある方はそちらをご参照ください。
固定資産税【評価替え年度】は来年(2021年)
固定資産の不動産鑑定士による標準宅地の鑑定評価は3年に1度行われます。不動産鑑定士が鑑定評価を行わない年は、評価した年の評価額に、評価した年から課税年度までの地価の上昇率または下落率を乗じた額が【評価額】となっています(厳密には急激な上昇の場合には、負担調整などがあります)。3年に1度の鑑定評価に基づいて【評価額】が変わる年は「評価替えの年」【評価替え年度】と呼ばれます。実は、今年(2020年)鑑定評価が実施されています。では、今年が評価替えの年かというとそうではなく、来年(2021年)が評価替えの年です。今年、鑑定評価の後、市町村によって路線価敷設や評点の計算作業が行われ、2021年の課税額に反映されます。最新の取引価格を踏まえた評価額の見直が行われること=「評価替え」で、その評価に基づいた税額を納税者が納税する年が【評価替えの年】なのです。
今月はここまでです。ありがとうございました。