「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
評価額は色々ある
不動産鑑定評価基準によれば、不動産の鑑定評価とは、「不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示することである」とされています。評価額は色々あるなどと言うと、不動産鑑定士がそんなことを言っていいのか?と言われてしまいそうですが、実際に不動産の価格に関し【評価額】と呼ばれるものは他にも幾つかあり、それらも不動産の価値を貨幣額で表示しているものですので混乱を招いてしまうことがしばしばあります。最も身近で聞くことがある評価額といえば、
固定資産税評価額
相続税評価額
ではないでしょうか。
固定資産税評価額
固定資産税・都市計画税は、市町村税として土地・建物に対して賦課されます。その課税のために各市町村は、固定資産課税台帳を作成しています。この固定資産課税台帳には、所有者名、価格、税額等が登録されています。台帳に載っている価格として、評価額、課税標準額があります。このうち評価額は、地方税法第403条第1項により市町村長(東京23区は都)が【固定資産評価基準】によって決定しており、評価額=「適正な時価」とされています。
しかし、宅地については、地価公示価格等の7割を目処に評価されることになっています。(出典:総務省ホームページ)
相続税評価額
相続税や贈与税を計算する際に、土地・建物を評価する必要が生じますが、こちらは原則として国税庁の【財産評価基本通達】で定められた評価方法による評価額です。この評価額も「時価」とされています。また、地価公示価格等の8割程度を目処に定めているとなっています。(出典:国税庁ホームページ 「財産評価」「令和4年分の路線価等について」)
評価額の定義が違う
固定資産税の課税のための【評価額】と相続税の課税のための【評価額】は、同じ【評価額】という言葉が用いられていますが、根拠法令や目的が違うため同じ【評価額】と表示されていても、違う貨幣価値で示されることになります。
判りにくいですね。
例えば、全く同じ土地ですが【評価額】はそれぞれ以下のようになります。
1.固定資産税【評価額】 70,000,000円
2.相続税【評価額】 80,000,000円
固定資産税の評価額、相続税評価額の決定に関して不動産鑑定士は間接的に関わっていますが、原則として個々の不動産の【固定資産税評価額】、【相続税評価額】を直接評価していません。固定資産税評価額、相続税評価額は、日本全国に大量に存在する土地について毎年更新していく必要がありますので、それぞれの目的に応じて作成されている評価基準を画一的に適用して評価額が算出されるようになっています。ただし、一定の用途毎に分けた区域内で特定の土地を選定し、その土地について不動産鑑定士が鑑定評価を行っています。したがって評価額を決定するための前提となる価格を出すことで間接的に関わっていることになります。各土地の鑑定評価額(単価)に0.7や0.8を乗じた額が区域内の道路沿いの土地の価格として記載されます。道路に価格が記載されているので、【路線価】と呼ばれます。有名なのは相続税路線価ですが、固定資産税も路線価があります。路線価は単価で表示されます。同じ土地について上記の1.2.と、公示価格水準を並べてみると次の様になります。
1’.固定資産税【路線価】 700,000円
2’.相続税【路線価】 800,000円
3.公示価格または不動産鑑定【評価額】 1,000,000円
固定資産評価基準は各自治体が、相続税評価額の基準は国税庁がそれぞれ独自に画一的に定めていますので、厳密に言えば必ずしも 1’÷0.7 = 2’÷0.8 = 3 となるものではありませんが、このように絶対額が違っていても目的に対応して算出された【評価額】であり、その目的においては時価として用いられます。なお、路線価の価格の表示は、固定資産税は円単位の数字のみ、相続税は千円単位の数字のみが表示されます。
相続税【評価額】と不動産鑑定【評価額】との違い
固定資産税は所有権に対して賦課されますので、その評価額は借地権や底地、貸家について考慮する必要はありません。しかし、相続税は土地、建物それぞれ単独に対して賦課されるだけでなく、借地権や底地、賃貸マンション等の賃借人がいる土地建物については各権利の関係を踏まえて課税されます。そのため、国税庁は「借地権の評価」「底地の評価」「貸家建付地の評価」「貸家の評価」等、その評価方法を細かく定めて公開しています。昨今ではインターネットで簡単に確認できるからでしょうか、相続税の計算のためではなく、国税庁の評価方法で算出した額を不動産の【評価額】として用いていることに遭遇することもあります。利用目的によっては問題ないのですが、現実の不動産市場における価格を用いた方がよい場合は、市場の状態を把握して分析し、その不動産に対する需要と供給が一致する点を見いだし、それを貨幣額で表示する鑑定評価額が妥当です。相続税評価額の算出方法についてもその過程に鑑定評価の考え方を取り入れている部分もありますので、結果的に類似する額が算出されることもありますが、特に所有権以外の権利の価格は現実の不動産市場の状態は反映されていないことが多く乖離もより大きいことがあるため注意が必要です。
不動産競売の【評価額】
不動産執行手続きとして不動産を売却する競売は、裁判所が不動産の売却基準価額を決定して入札に付します。その手続きのために作成される書類の一つに「評価書」があり、これに記載される価額は【評価額】となっています。
競売物件の評価は原則として不動産鑑定士が行っていますが、裁判所毎の評価基準によって算出した結果を評価額としています。競売市場は売り出し期間が短く、また事実上買い手が内覧できません。したがって競売の評価額はこのことを理由に減価修正を行って【評価額】としています。したがって現実不動産市場より低い金額が評価額となっています。ただし、競り売りですので、実際の成約価格は評価額よりも高くなっているのがほとんどです。
評価額は色々ある
行政や司法の様々な異なる目的のためにそれぞれの基準に基づいた不動産価格が必要なため、色々な【評価額】があるということを説明しました。【不動産の鑑定評価額】は不動産鑑定士が行う不動産の鑑定評価でのみ用いることが可能な用語で、これを表示する不動産鑑定評価書は不動産鑑定業者しか発行することができません。
【不動産の評価額】の検討が必要なときは、評価の基準は何を用いるのがいいのかを確認してみてください。目的に合っていない基準を使った場合は、【評価額】が算出されても、実は目的が達成されないかもしれません。例えば相続時に相続税を納める時は相続税評価額で問題ありません。しかし、相続人の間で1人が不動産を相続する代わりに他の相続人に金銭を支払うという場合、どの評価額を用いて計算するのか。相続人全員が納得している場合は相続税評価額でも固定資産税評価額でも問題はないでしょう。しかし誰かが「売ったら幾らになるのか?」という視点を持った時は、もめ事になってしまうこともあります。不動産は何百万円、何千万円とするもので、場合によっては、何億円ということもあります。【評価額】を知っておくことは重要だと思います。
今月は以上です。
ありがとうございました。