「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
区分所有建物及びその敷地の価格の評価【その5】
前回のコラムまでで、分譲マンションの評価額を求める場合の、3つの試算価格のうち、①積算価格と②比準価格についてお伝えしました。3つめの③収益価格についてですが、基本的な考え方は、2017年9月から3回に分けてお伝えした内容とほぼ同じです。
ここでは分譲マンション特有のことをお伝えします。
分譲マンションの専有部分の収益価格
「価格」は、不動産に限らず需要と供給が一致するところで決まります。収益価格は投資採算性に着目した試算価格です。都心のマンションのように、賃貸としてのニーズがありそうな地域にある分譲マンションの場合には、収益物件として取得しようとする需要もあると言えますので、収益価格を試算する必要があります。収益価格を試算するためには、その物件を貸し出した場合の賃料水準を把握する必要があります。
分譲マンションは、所有者自身が住んでいることが大半だと思われるかもしれませんが、当初から投資用として販売されているものもあります。当初から投資用として分譲で販売されているものは、単身者向けのものが多く、都心部や駅が近い等賃貸としてのニーズがある地域にあることがほとんどです。また都心では、ファミリータイプであっても居住の拠点をそこから別の場所に移した後、居住していた部屋を貸し出していることもあります。このような物件が多いエリアだと、評価しようとするマンションを貸し出す場合の賃料水準を把握することができます。
近年行われる分譲マンションの開発は、リゾート地等を除き、賃貸マンションと同様に駅から徒歩圏が中心となっています。しかし、平成元年前後の都心の地価が高騰していた時期には、駅からバス便の郊外でも多くのマンションが建設されました。このような中古マンションの場合、借り手が少ないこともあります。このような場合、需給バランスにより、賃料は低くなりますので、その低い賃料をベースとした収益性に見合った価格が収益価格となります。
収益価格試算のための総費用について
2017年10月のコラムで収益物件の価格を出すための費用項目についてお伝えしています。
再掲すると、以下のとおりです。
◇修繕費・修理費
◇管理費
◇税金
◇水道光熱費
◇テナント募集費用
◇損害保険料
◇その他
分譲マンションの収益価格を求める場合の費用として見る場合には、これらの項目は〔専有部分についての費用〕として計上するということに気をつける必要があります。
●修繕費
「マンション内の壁に穴が空いた」「排水がおかしくなった」「電気をLEDに変えたい」などが専有部分の修繕の例としてあげることができます。賃貸物件として所有している間に出費が必要になりそうな項目を、所有可能期間に応じて平均の年額に置き換えます。
●管理費
所有者が自分自身で賃借人を管理する場合は、通信費や口座管理の費用を挙げることができますが、昨今では、賃借人とのやりとり(家賃の未収金が発生した時や、修繕が発生した時のやりとり等)が煩わしいこともあり、管理会社に任せることも増えています。そこで、家賃の3~5%の費用を計上することも多いです。
紛らわしいのが、管理費と修繕積立金です。分譲マンションでは、管理組合に支払う「管理費」と「修繕積立金」があります。この「管理費」「修繕積立金」は、ベランダの修理やマンション全体の屋根・エレベーターの修理・点検等、共用部分の管理・修繕に使われるものです。所有する限り支払う必要がありますので、上記の専有部分に対する修繕費・管理費とは別に費用として計上する必要があります。したがって、分譲マンションの場合には、上記の費用項目に以下の項目が加わります。
◇管理組合に支払う管理費
◇管理組合に支払う修繕積立金
収益価格が試算できない場合もある
分譲マンションの評価の手法は3つあるとお伝えし、収益価格の試算について記載してきましたが、実は必ずしも総ての分譲マンションで収益価格が試算できるとは限りません。収益価格が試算できるかできないかは、評価しようとするマンションの需要者がどのような人なのかということを分析すると見えてきます。
都心など利便性の高いエリアにある分譲マンションを買おうとする需要者の購入動機は、自分や家族が住むためという他にも、所有して貸し出すためということも大いにあり得ます。
一方、郊外に立地するものの中には、自己の居住用の需要はあっても、貸し出すことを目的にわざわざ購入するという投資家需要がほとんどないことがあります。このように、投資家需要がないエリア内の物件の場合は、収益価格の試算自体が難しいことがあります。投資家は投下した資本に対するリターンを考えて投資しますので、必ず出費するであろう費用の額に見合ったリターンが得られない場合には、投資しません。費用の中でも管理や修繕にかかるものは、専有部分、共用部分を問わず、主として建物の物理的な価値の維持のための出費ですので、立地の良し悪しにかかわらず一定の額が必要になります。したがって、費用に見合わないような賃料水準のエリアに立地する分譲マンションに対して投資家需要は少なくなるのです。
投資家需要がなくても現実に取引はあるという場合には、購入動機が自己の居住用という需要者はいるということです。自己の居住用として買おうとする人は、周りはいくらくらいで売買が成立しているのかを気にすると思います。したがってこのようなエリアの中古の分譲マンションの場合は、取引事例を比較して求めた比準価格が最も説得力が高いと言えます。
今月はここまでです。
ありがとうございました。