「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
私道について~私道負担(セットバック)と課税並びにその評価について
「土地が道路に面していないと建物を建てることができない」ということをご存知でしょうか?
建物を建てるには、「建物の敷地は、道路に2m以上接しなければならない」という大きな決まりが、法律(建築基準法)で定められています(他にも多数要件はありますがここでは割愛します)。
そのため、建物を建てるにあたって道路を新しく造ったり、自らの土地を提供して道路にしている場合があります。皆さまが普段通行されている、一見同じように見える道路でも、その所有者が私人であったり国であったり様々です。
そこで今回は、建築基準法の道路(建物を建てることができる道路)を「道路」と定義し、私人が所有する道路を「私道」、国、都道府県、市町村等が所有する道路を「公道」としてご説明します。
私道とは
「私道」とは言葉のとおり、私人が所有する土地が道になったものです。私人が所有する土地が私道になるプロセスは様々で、自らの土地を道路に提供しないと建物を建てることができない場合や、古くから道路の形態になっており、建築基準法が出来た当初(昭和25年)には(建物が建ち並び)既に通行の用に供されていたものを呼ぶことがあります。
私道であるか否かは、目で見るだけでは判別できない場合が多く、法務局、役所などでの確認が必要です。場合によっては、私道の所有者であっても自らが私道を所有していることを知らない場合もあります。
また、現況の幅員が4m未満の場合にはセットバック※により、将来的に私道負担が必要となる場合もあります。
※「セットバック」という用語は「後退」という意味を有しており、敷地のセットバックの他に、建物の壁面後退等に使われる場合もありますが、今回は幅員を4mとするための道路境界線の後退(セットバック)に限定します。なお、建築基準法上の道路部分には建物はもちろん、塀や門扉なども設置する事ができませんし、容易に動かせない石などを置いておくこともできません。
よく見られる私道のケース
以下の図Ⅰ・図Ⅱ・図Ⅲは、よく見られる私道負担が発生しているケースです
私道となったプロセスは様々ですが、図Ⅱ・図Ⅲのケースでは、大きな土地を購入した不動産会社などがより多くの建物を建てるために、新たに道路を造った場合が多いと思われます。
私道負担(セットバック)が生じるケース
上記図Ⅰの土地B、土地Eについて、私道負担及び将来セットバックが生じる主なケース及び負担面積を見ていきます。
【土地B・土地Eの概要】
いずれも面積100平米(間口10m×奥行10m)
Bさん・Eさんが各々所有
【私道負担面積の計算】
(ケース1)現況道路(4m)をBさんとEさんが全て負担をしているケース
私道負担幅 × 土地の間口 = Bさんの私道負担面積(割合)
2m × 10m = 20平米(土地Bの20%)
(ケース2)現況道路(4m)を公道等(2m)と合わせて負担しているケース
私道負担幅 × 土地の間口 = Bさんの私道負担面積(割合)
((4m-2m)÷2) × 10m = 10平米(土地Bの10%)
(ケース3)現在私道負担していないが、将来セットバックが必要なケース*
セットバック幅 × 土地の間口 = Bさんのセットバック面積(割合)
(2m-2m)÷2) × 10m = 10平米(全体敷地の10%)
*このケースでは現況道路が2mで、現在私道負担は発生していませんが、次回建替え時などにセットバックをする必要があります。
皆さんが「私道」に関わる主なケース
①不動産(主として住宅)を購入するとき
法律(宅地建物取引業法)では、敷地面積・私道負担面積・セットバック面積は、別々に明記することが必要と定められています。しかし、一部の売買広告等では、「私道負担あり」や「セットバック要」のみの記載しかなされておらず、具体的に説明がされていないものも見受けられます。
私道負担部分及びセットバック部分には、建物等を建築する事ができませんので、土地購入後、思いどおりの建物が建築可能かどうか、また、次に建替えする際に現状と同じように建物を配置できるかどうか(庭や駐車場などの確保が可能かどうか)等について、十分に注意する必要があります。
また、後述する「公衆用道路」として認められれば不動産取得税も非課税になります。不動産業者は、非課税の手続きまでは行ってくれず、行う義務もありませんので自ら手続きを確認する必要があります。
②相続が生じたとき
相続税の課税標準額(財産評価額)のなかに私道部分が宅地として入っている場合などは、実際の財産価値以上の相続税評価額が算出され、支払う必要のない相続税負担が生じる場合があります。
③すでに私道負担をしている場合
先にも記載しましたが、所有している土地の一部がすでに私道になっている場合があり、後述する固定資産税等の非課税要件を満たしているにもかかわらず、宅地部分と合わせて高い固定資産税等を支払っている場合もあります。
一度、所有されている不動産が所在する市役所や法務局などで確認されてみてはいかがでしょうか。
④今後の建替えにあたって私道負担(セットバック)が必要となるとき
現況道路の幅が4m未満の場合には、建替えするにあたって、セットバックが必要となることがあり、建物を建てることができる敷地が小さくなってしまうことがあります。自宅の前の道路が、4mあるか一度確認することが必要です。
⑤土地を処分するとき
私道部分を所有していることを知らないで、建物の敷地部分だけを売買の対象としてしまい、私道部分の所有権だけが残ってしまっているケースも散見されます。私道単体での売買は困難となり、管理責任や納税義務だけが残る場合もあり、注意が必要です。
私道と課税(固定資産税・都市計画税)について
①課税
私道は、私人が所有し管理しているとみなされるため、当該私道について固定資産税等を負担する必要が生じる場合があります。その私道の所有者が独占的・排他的に使用している場合は良いのですが、不特定の人が通行の用に供している(みんなが普通の道路として自由に使っている)場合に、その私道の管理や税金などの費用を所有者のみが負担しなければならないとするのは、公平性の観点から妥当ではありません。
そこで、地方税法では「公共の用に供する道路」については非課税とすることにより衡平を図っており、「公共性の高い私道」については、私道の所有者からの申請等により非課税扱いとされています。
②非課税の主な要件
上記のとおり地方税法に基づいて私道を非課税とするためには、原則として市町村等に対し「非課税申請」をしなければなりません。すなわち申請主義をとっており、課税主体から「あなたの土地の一部は公衆用道路なので非課税にしてあげます。」と親切に言ってきてくれることは殆どなく、所有者から申請があった場合に初めて役所が現地調査を行って、非課税とすべき道路かどうかを認定します。また、この非課税の認定基準は市町村等によって異なっており、画一的な基準はありませんが、「公共性の高い私道」という観点からその多くには以下のような要件が定められています。(東京都主税局要件抜粋)。
ⅰ.通り抜け私道 ※先の図Ⅰのイメージです。
ア.道路の起終点がそれぞれ別の公道に接しているもの
イ.道路全体を通して幅員1.8m程度以上あるもの
ウ.客観的に道路として認定できるもの
エ.利用上の制約を設けず不特定多数人の利用に供されているもの
ⅱ.共用私道(行き止まり私道、コの字型私道) ※先の図Ⅰ・図Ⅲのイメージです。
ア.道路幅員が4m以上あるもの
イ.客観的に道路として認定できるもの
ウ.利用上の制約を設けず不特定多数人の利用に供されているもの
ⅲ.その他
▪建築基準法等に基づくセットバックのうち、公道等と一体となって効用をはたしている私道
▪大規模建築物等の敷地に設けられた歩道状の土地及び通路等(一定の要件あり)
これらの要件を満たし、公衆用道路として認定されれば非課税となりますが、私人の所有地であることには変わりがないので、管理やメンテナンスは原則として私人自らが行うことになります。
そこで、「自由に使えない私道の所有権なんて持っていても仕方ない」と考えて、市区町村等への寄付を考える場合もあると思いますが、寄付を行う場合には各市町村等に一定の審査基準があり、「あげる(寄付する)」と言っても、認められない場合も多くあります。
私道(セットバック)部分の評価について
現実の不動産市場の中で私道が単独で売買されることは殆どなく、建物の敷地とセットになっている取引が大半です。
私道が公衆用道路として不特定の人の通行の用に供されており、所有者が自由に使えない場合には、その価値はゼロとして評価する場合が殆どです。ただし、私道の現実の利用状況や課税状況、私道の効用(価値)は、通行のみに限定されない点などを考慮して、価値が認められる場合もあります。また、セットバック部分については、現在利用できているという現況を反映して、価値が認められると評価される場合もあります。
いずれにしても私道については、隣接する土地や周辺の土地の利用状況をも踏まえて個別具体的な評価が必要となります。
ここでは、先に記載した図Ⅳ(ケース1)・図Ⅵ(ケース3)と同じ数値を用いて、土地Bについて、一例として簡単に評価をしてみたいと思います。
【土地B】
面 積 :100平米(間口10m×奥行10m)
1平米単価 :100,000円(私道負担が無い場合の土地価格 1,000万円)
(ケース1)
①有効宅地部分(80平米)
100,000円(1平米単価)× 100%(価値率)× 80平米(面積)= 800万円
②私道負担部分(20平米)
100,000円(1平米単価)× 0%*(価値率)× 20平米(面積)= 0円
*私道の価値率:自由に使える度合い(利用度)等により査定しますが、今回は私道部分の価値率はゼロ(0%)として査定。
③B地価格(100平米)
上記 ① + ② = 800万円*
*私道負担が無い場合の土地価格(1,000万円)に比べて低くなります。
(ケース3)
公道等の幅員が2mであり、現況幅員も2mの場合、将来建替え時などにセットバックが必要ですが、現況私道負担は発生しておらず、Bさんは土地100平米すべてを使うことができているとします。
原則として上記ケース1と同様に、セットバック部分の価値率を査定のうえ評価しますが、現在利用できているという実態等を考慮して、今回は当該セットバック部分の価値率を5%として査定してみます。
①有効宅地部分(90平米)
100,000円(1平米単価)× 100%(価値率)× 90平米(面積)= 900万円
②セットバック部分(10平米)
100,000円(1平米単価)× 5%(価値率)× 10平米(面積)= 5万円
③B地価格分(100平米)
上記 ① + ② = 905万円*
*将来セットバックの必要が無い場合の土地価格(1,000万円)に比べて低くなります。
※同じ私道負担(セットバック)面積であっても、全体面積に占める私道負担部分の割合や、私道負担することにより残りの敷地面積が過小になる場合などによって価値率は異なってきます。
まとめ
今回のテーマで取り上げた「私道」は、外見では分かりにくく、取り巻く法律や税金並びにその資産価値形成過程は非常に複雑です。
まず、皆様が所有されている土地が面している道路が、私道なのか公道なのか、私道である場合には税金は負担しているのか否かなどを一度ご確認されてみるのはいかがでしょうか。