「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
安くてお得な物件はあるか【土地編】
皆様が土地や一戸建てを購入しようと思いたったら、まずどうされますか?不動産会社を訪れたり、住宅販売サイトや、不動産会社の販売物件検索サイトなどを使って、エリアや広さ、予算などに応じた、希望にできるだけ近い物件を探すということをされるのではないかと思います。
振り返ってみて「お得だったな」と思えるのは、「希望の物件が思っていたよりも安く買えた場合」です。多くの方は「お得だったな」よりも「買って、ここに住めて良かったな」と思えればいいのではないかなと思います。それでも、安くてお得な物件があれば・・・と、誰しも考えるのではないでしょうか。
たとえば、鉄道が新しく通ったり、新駅や新しい道路ができたりすると、以前よりも不動産の価格が上がる可能性がありますが、それらの情報が公表された段階で、売る人も買う人も駅ができることなどを踏まえた価格を前提として取引をし、相場が形成されますので、知らずに買ってお得だった、ということはほとんどありません。
不動産情報を色々集めてみて、思ったより安い物件がある時、下記の点を確認してみましょう。
土地面積が広いのに安い~旗ざお地(旗状地・路地付敷地)
住宅地分譲の広告を見ていると、土地の広さが40坪と、55坪と違いがあるにも関わらず、分譲価格の総額はあまり変わらない、ということがあります。また、中古物件の場合でも、周辺の土地と面積は変わらないのに、価格に割安感がある、ということもあります。
このような場合、土地の形状を確認してみましょう。周りの土地と比べると間口が短く、奥行が長い細長い土地(「通路」や「路地」と呼ばれています)と、道路から奥まったところに建物を建てることができる広さの土地がある、いわゆる「旗ざお地(旗状地や路地付敷地と表現することもあります)」ではないでしょうか。
旗ざお地の場合、建物の建築や解体工事の時に、建材や機材の搬入搬出経路が限定されるということもあって、工事の費用が多少割高になってしまいます。さらに、建物が建つ敷地の外周のほぼ全てに建物や塀などが建ち並ぶことになるため、圧迫感が生じることが多くなります。したがって、道路に対する間口が広い土地に比べて需要が少なく、単価が安くなってしまっていることが多いと言えます。
道路に面する間口が2m以上あれば建物は建築できますが(※参照)、最近では自動車の幅が広いものが増えてきていますし、自動車を駐車した状態での人の通行路の確保も考えると、通路部分の幅が3m未満でかつ長い場合には、需要は特に少なく、単価が安くなっていることが多いです。ただし、メインの敷地となる部分が広く、路地の幅も広い場合には、外部から庭やバルコニーなどに対し、外部からの視線が気にならず、プライバシーが保ちやすいというメリットが生じますので、単価が安くなっていないこともあります。
※厳密には、道路に面している辺の長さが2mなのではなく、道路からメインの敷地までを通じて全て2mの幅が確保されていなければなりません。その具体的イメージとしては、直径2mのボールを、道路からメインの敷地まで転がすことができる幅を保つ、というものです。
面積が広くて、道路にも面していて、間口も広いのに安い
道路負担(私道負担)がある場合
間口は広いし、建築基準法上の道路にも面しているのに、広さの割に安い場合には、「道路負担の有無」を確認してみる必要があります。
負担している道路の部分は、建物を建築する時に、敷地の面積として算入できないことがほとんどですので、道路の負担面積がある場合には、その負担面積を除いた建物の敷地として利用が可能な面積をベースに価格を考える必要があります。
擁壁がある場合、道路から高い場合
間口は広く、建築基準法上の道路にも面している、道路負担は無いにも関わらず、周辺の相場より安い場合には、土地が道路から高くなっていないか、擁壁の有無、擁壁が設置された時期、擁壁の高さと状態を確認してみる必要があります。
道路から高くなっている高台の住宅は、眺望や日当たり、通風が良いことが多いため、いわゆる高級住宅地と呼ばれる地域にも多いですし、大規模に開発された住宅地域でも、人気がありました。
しかし、現在では、高齢になった際のことを考慮して、道路から玄関までの階段を上り下りすることが敬遠されるようになってきています。
また、防犯対策に対する意識の変化により、見通しの良いオープンな庭を好まれる方も増えてきました。
擁壁については、古い時期に作られたものは、頑丈なものもありますが、長い年月を経て緩みが生じていることがあります。また、建設当時の技術も現在の機能にも問題は無くても、意匠の面でやや古い印象を受けるものもあります。いずれの場合も、擁壁そのものをつくり直すという場合には費用がかかります。
石積みの擁壁で、隙間に緩みが生じてきている、コンクリート製の垂直の擁壁で、クラック(ひび割れ)が見られる等の場合には、建物を新築しても床が傾く等の不同沈下が起こる可能性があるため、擁壁工事を再度行うことになります。
また、外見上問題がなかったとしても、建物を建築する前に地盤の確認と擁壁の状態の確認は必要です。
特に、土地の外周の多くに擁壁があって、工事が必要な場合には、工事費が嵩みます。また、擁壁の高さが高くなればなるほど、工事費用が嵩みます。
さらに、擁壁のある中古物件で、古い建物を解体して撤去する場合には、擁壁より先に建物を撤去する必要があることが多いですが、その際、道路から高い場合には、建物の解体撤去費用が割高になる可能性があります。
なお、擁壁が垂直に設置されているのではなく、斜めに設置されている場合、実際に建物を建てることができる面積は少なくなります。
このような色々な理由から、擁壁がある場合には、擁壁がない土地と比較して、安くなっていることが多いです。
北面傾斜地の土地
同じ住宅団地内でも、地盤が平坦な地域の土地と、北向きのひな壇になっている地域の土地では、北向きのひな壇になっている地域の土地の方が安くなっています。
2階建を建てることができる住宅地域の場合、北向きのひな壇になっている地域の土地では、1階の陽当たりが悪くなってしまうことが多いため、好まれにくい傾向にあります。
建築基準法上の道路に面していない
土地の価格は、その土地が面している道路が、建築基準法上の道路か否かで大きく左右されます。
不動産の販売広告で「再建築不可」と記載されている場合がまれにあります。これは、建築基準法上の道路に面していないなどの理由で、「今、建物が建っていても、将来建替えや大規模な改修ができない」という意味です。
きちんとアスファルト舗装されていて、周りの道路と繋がっている場合でも、建築基準法上の道路ではないという場合がありますので、要注意です。
建物が古くても、ご自身が住む分には支障がないからということで購入する方もおられます。しかし、将来的に建替えや改修ができないとなると、買おうとする人がなかなか現れません。したがって周りの建築基準法上の道路に面している土地と比べて価格が安くなっています。
市街化調整区域内の場合
市街化調整区域とは、都市計画法で「市街化を抑制する区域」として都道府県が指定する区域です。原則として建物を建てることができず、市街化を抑制する区域として指定されているため、公共下水道の整備なども自治体が積極的に行いません。
かつては、市街化調整区域であっても比較的容易に建物が建設可能で、戸建分譲も容易に行うことができたため、住宅をはじめとして建物が建っている地域も多くみられますが、近年、法の運用が厳格になり、どの自治体でも原則として新たな建物の建築を認めない傾向にあります。
もちろん、例外として住宅は再建築が可能、今建っている建物と同じ種類の建物は再建築可能という土地もありますが、いくつかの要件がクリアできない場合には、再建築はできません。
また、以前建物が建っていても一旦更地にしてしまった場合には、以前と同じ種類の建物であっても原則として建物を建てることができないとしている自治体もありますので、建物を建てる目的で土地を購入する場合には、確認が必要です。
市街化調整区域内の土地の場合、建物が建築できるかできないかで、大きく価格が変わってきます。
なお、都市計画法では市街化区域も指定することになっています。市街化調整区域があれば同じ市町村内に市街化区域が指定されているエリアがあります。
市街化区域は計画的に市街化を図るべき区域で、既にまちになっている地域の多くはこの市街化区域の指定を受けています(具体的な土地が市街化区域か否かについては、個別に確認が必要です)。
市街化区域では、市街化調整区域のように建物を建てることができないという原則はありませんし、公共下水道等の人々の生活に必要な施設の整備も自治体が積極的に行います。したがって市街化区域と市街化調整区域の境目の地域では、市街化調整区域の土地の方が安くなっています。
売主が早く売りたいという場合
上記に示したような、不動産に固有の問題は全くない場合でも、海外転勤や相続による遺産分割、借金の返済など様々な理由で、とにかく早く換金したいという売主の物件の場合には、安く売りに出される場合があります。しかし個人の買い手からすると、ずいぶん前からその物件を検討していた等の事情がない限り、即購入を決めるというのはなかなか難しいことです。そのような場合には、不動産会社が買うということになるのが多いのではないでしょうか。
安くてお得な物件はあるか
ある物件が、周辺の物件の相場より割安感がある場合には、結局、その物件に対する需要者(買い手)の数が、周辺の物件の需要者の数よりも少ないといえます。
今回は、一戸建ての敷地を含む土地について、周辺の相場より安くなっている場合に、需要者(買い手)が少なくなる理由を挙げて説明しました。
「安くてお得」というのはあまりない、ということですね。しかし、「安い」という表現も「お得」という表現も、感覚として捉えるのであれば、個人個人にとっては、「安くてお得」ということはあり得えないとも言い切れません。
家族構成、生活スタイル、信条、予算などに応じた個々人が「良かった」と思えることができれば、「安くてお得」と言えるのではないでしょうか。
今月はここまでです。ありがとうございました。