「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の価格は道路に左右される~その1
道路とは
「不動産の価格は道路で変わる」と聞くと、「そりゃあ、道路は狭いより広い方がいいよね」と思いますよね。不動産の広告では、道路の幅は、単純に○mと書いてあるものもあれば、幅員○mと表示されている場合もあります。また、北東○mと、道路の方位と共に記載されているものもあります。この方位は、土地から見てどちら側に道路があるのかを示しています。
もちろん、原則として「狭いより広い方がいい」のですが、これはその土地がどのような用途的地域内にあるのかによって価格に影響を与える度合いは変わってきます。商業地域では、概して道路の幅が広い方が狭いよりも人通りや車通りも多く、見通しも良いことから宣伝効果が高くなります。その結果、収益性が高くなり、需要者が増え、土地の価格が高くなると言えます。住宅地域の場合、確かに車のすれ違いが難しい4m未満の道路よりも6mくらいある方が良いと思う人が多いでしょう。良いなと思う人が多い方が価格は高くなります。また、道路の幅員が広い方が、陽当たりや風通しが良くなります。しかし、広い故に車が多く通るような道路の場合には、騒音や排気ガスなどの懸念がありますので、必ずしも広ければ良い(価格が高くなる)ということにはなりません。
ところで、「道路には種類がある」と言われると、多くの方がまず思い浮かべるのは「公道」と「私道」ではないでしょうか。今月のテーマである、不動産の価格を左右する【道路】は、「公道」や「私道」という分け方ではありません。実は「公道」という言葉には、定義がありません。「公共の用に供されている道路」と説明される場合がありますが、法的な定義ではないのです。建物の敷地として使う(または使える)ことを前提として土地の価格を考える時には、このような分け方ではなく、「建築基準法上の道路かどうか」で分ける必要があります。建築基準法上の道路かどうかで判定すると、「いわゆる公道であっても、道路ではないため建物が建たない」ということがあるのです。ここで言う建物が建たないというのは、物理的に建物を建築することはできるけれども、法律には違反するという意味です。
建築基準法上の道路とは
日本の国土面積のうち、約26%が都市計画区域の指定を受けています。都市計画区域は、中心の市街地を核とし、一体の都市として総合的に整備、開発または保全すべき区域や、新たに開発、保全する必要がある区域で、都道府県が決定しています。この都市計画区域に日本の人口の94%が集中しています。都市計画区域内で建物を建築する場合には、原則として4m以上の「道路」に、間口2m以上が面しなければならないという建築基準法の規定があります。
建築基準法は、国民の生活等の安全のために、建物の最低基準を定めたものです。建築基準法で定める道路のことを、建築基準法上の道路と呼んでいます。敷地が建築基準法上の道路に面していると認められる場合は、その道路が「私道」であっても問題なく建物を建築することができますが、逆に、敷地が面している道路がいわゆる「公道」であっても建築基準法上の道路と認められない場合には、建物を建築することができません。
建築基準法第42条第1項には第1号から5号まで【建築基準法で道路として認められるもの】(4m以上が必要)が規定されています。
第1号:道路法上の道路(国道・都道府県道・市区町村道)
第2号:都市計画事業・土地区画整理事業等の道路
第3号:都市計画区域の決定を受けたときに既に存在していた道
第4号:都市計画事業などでまだ道路の形態がなくても、2年以内に道路になるものとして指定を受けたもの
第5号:私道だが基準に適合して整備されているとして、指定を受けたもの
第42条第2項には4mなくても道路とみなす場合について規定されています。そして、第43条では、第42条で定める道路に2m以上面する必要があるとなっています。
土地が面する道路が、上記の第42条第1項第1号から第5号の指定を受けている場合には、建物の建築が可能です。
この法律があるため、建築基準法上の道路に面するか否かによって都市計画区域内の宅地の価格は左右されることになります。建物が建たない土地は、駐車場か物を置くくらいの利用しかできません。倉庫も建物と認められるようなものは建てることができません。したがって、建築基準法上の道路に面しない土地は、需要が少なくなり、価値も低くなります。
建築基準法上の道路かどうかを確認するには
最近ではホームページで市町村道かどうかを調べることができる自治体も増えてきました。市町村道とわかれば、あとは幅員を確認する必要があります。国道・都道府県道・市町村道で4m以上ある場合には、建築基準法上の道路です。
気をつけなければならないのが、道路部分の所有者が「国」「都道府県」「市町村」であったとしても、必ずしも国道・都道府県道・市町村道であるとは限らないため、建築基準法上の道路であるとも限らないのです。例えば、河川の管理のための道路や公園部局や上下水道部局等が管理している、国・都道府県・市区町村が所有している道路状の土地であっても、建築基準法上の道路には該当しないことがあります。
その土地が面している道路が建築基準法上の道路かどうかを調べるためには、その土地がある市役所(特別区は区役所)、町村役場に行く必要があります。最近では、指定道路図という図面をWebで公開している自治体もありますが、最新で確実な情報を確認するためには、その土地がある市区町村の建築確認を行う権限をもつ役所の窓口で確認するのが確実です。役所の受付で「建築基準法上の道路かどうかを調べたい」と伝え、担当部署を教えてもらいましょう。自治体によって部署名が異なります。
我々不動産鑑定士が調査する場合には、まず、その土地が面している道路が市町村道かどうかを調査します。その上で建築基準法上の道路かどうかを調査します。両者は依拠する法律が異なりますので、担当部署が違います。大きな自治体では窓口は別々です。小さな自治体の場合には、全部同じ窓口で調べることができる場合もあります。小さな市町村での場合、詳細な調査は都道府県で行わなければならない場合もあります。
建築基準法上の道路に面していれば、価格に差はないのか
第3号の道路で所有者が私人の場合や、第5号の道路の場合、建物を建築するにあたって道路部分の所有者の承諾は必要ないのですが、インフラ(上下水道・都市ガス等)の埋設管をやり替える等の際、道路所有者に掘削することの許可(同意)を得ることを事業者から求められることが希にあります。そのようなリスクがある場合には、そうでない場合よりも価格が安くなります。
第4号の道路は、都市計画で道路を築造する事業が進捗中で、まだアスファルト舗装されていない等、道路の形態をなしていなくても、建築主事を置く自治体が「2年以内には道路として整備されるので建築基準法上の道路としてもいい」と指定したものです。「二カ年指定」などと表現します。都市計画道路の計画線に面しているだけでは第4号の道路に面していることにはならないので注意が必要です。二カ年指定が行われ、第4号の道路に面するようになった場合には、現実には道路に面していない状態でも建築基準法上の道路に面していることになり、建物を建築することができます。道路が完全にできるまで当面その土地へ出入りができないような場合には、出入りができる土地と比較して理論上価格は安くなると言えますが、一方、「二カ年指定」がなされているということは、あと2年もすれば道路工事は終わり、広い道路に面することになることは確実ですし、建築基準法上の道路には面している(ことになる)ため建物を建築することができます。したがって、現実には需要は減退せず、価格に影響を与えることはありません。
4m以上の建築基準法上の道路に面していないと、建物は絶対に建てることができないのか
前述のとおり、建築基準法上の道路に面していない場合には、原則として建物を建築することができませんが、別の規定により、建物を建てることができる場合があります。
詳細は来月以降に説明する予定です。
今月はここまでです。ありがとうございました。