「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
地代の評価【土地を借りて、その上の建物を第三者に貸している場合】その3
先月は、継続賃料をもとめる4つの方法のうち、(ⅰ)差額配分法と(ⅱ)賃貸事例比較法について説明しました。今月はその続きで、(ⅲ)利回り法と(ⅳ)スライド法について説明します。
借地面積:100㎡
建物延床面積:400㎡
環境:最寄駅から続くアーケード商店街内に、4階建程度の小規模な飲食店舗ビルが建ち並ぶ商業地域
借地している土地の条件:間口6m、奥行約16mの長方形地
現在の地代の額(平成20年に改定)
月額 260,000円
新規に借りるとした場合の地代の額(新規賃料)
月額 150,000円
差額
110,000円
(ⅰ)差額配分法による試算賃料は、205,000円(月額)
(ⅱ)試算せず
ということでした。
(ⅲ)利回り法は、現在の賃料の額が、その賃料を決めた時の土地価格に対して、どういう割合(利回り)だったかを確認し、現在の土地価格に対してその時と同じ割合で計算したらどうなるか、という観点から試算する考え方です。
「前回はその割合で決めたでしょう?」と、ここでも当事者の合意を尊重するということです。積算法で賃料を求める方法は下記の式です(2018年4月のコラム)。
その賃料を決めた時の数値を上記の式に当てはめると、4つの数値のうち、a. c. d. は判るので、それを基に、賃料を決めた当時の、〔b.期待利回り=基礎価格に対する純賃料の割合〕を求めます。純賃料とは、賃料から必要諸経費をさし引いた、いわゆる手残り賃料を指します。
a.基礎価格
現在の土地価格は 50,000,000円です。現在を100とすると、平成20年は123でした。
c.必要諸経費
平成20年の必要諸経費 当時の固定資産税・都市計画税 400,000円
d.賃料
現在(平成20年に決めた)の年額地代 3,120,000円(=260,000円×12ヶ月)
現在の賃料を決めた時の、賃料の基礎価格に対する純賃料の割合は、4.4%となりました。
そこで、現在の土地価格に対して、その時の割合を乗じ、さらに必要諸経費を加算して、賃料の額を試算します。
d.賃料=a.基礎価格×b.期待利回り+c.必要諸経費 です。
現在の必要諸経費 現在の固定資産税・都市計画税 350,000円
利回り法による試算賃料 212,500円(月額)
(ⅳ)スライド法は、最後に賃料を決めた時期から、賃料に影響を与えているであろう様々な「価格の指数」の変化を考慮して、最後に賃料を決めた時期の純賃料の額をその各種価格指数でスライドさせ(変動率を乗じる)、現在の必要諸経費を加えて試算します。
この方法も、基本は「前回合意した賃料」が前提となっています。そこから、世の中の経済情勢の変動を示す各種指数に応じて、地代を変動させたらどのようになるか、というものです。
用いる指数の主なものは、消費者物価指数や、企業向けサービス価格指数のほか、業態に応じて、様々なものを用います。特に、土地価格を算出するにあたって、土地の最有効使用が事業用不動産の敷地と判断される時には、地代の支払い原資となる収益の基となる事業の各業界の動向を示す指数を用いることもあります。
地価指数を用いている例もあるようですが、地価指数は(ⅲ)利回り法で元本価値の推移をみるために用いている数値と重複するとも考えられるため、私はスライド法では採用していません。
本件では、次の指数を用いました。
それぞれの指数には特徴があります。その特徴を踏まえて、どの指数の数値をどの程度重視するかを判断します。今回は、各指数を同等として、変動率を出しました。
スライド法による試算賃料 247,400円(月額)
このように、
(ⅰ)差額配分法 205,000円
(ⅱ)賃貸事例比較法 試算せず
(ⅲ)利回り法 212,500円
(ⅳ)スライド法 247,400円
となり、いずれも、現在の賃料260,000円よりも低く算出されました。
それ以前の地代の推移をみると、
昭和61年~月額 100,000円
平成2年~月額 330,000円
平成10年~月額 300,000円
平成20年~月額 260,000円
となっています。
こうしてみると、平成2年に地主の地代増額に応じて以降は、土地価格の下落は大きいですが、地代は大きくは下がってこなかったことが判ります。
借り主側としては、新規の地代の方がずっと安いので、土地を返還して他で借りるという選択肢がなくはないですが、今までと立地条件が同じ借地の提供があるかどうかは不確定ですし、仮にそのような借地が見つかったとしても、土地を返還する場合には現在の建物を取り壊して更地にするための取り壊し費用と、新たな建物の建築費用が必要になります。このことを踏まえると、新規の賃料より高くてもこのまま借り続けるほうが、経済合理性にかなっている場合もあります。
来月は、得られた各試算した結果を検討していきます。
ありがとうございました。