「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の価格は道路に左右される~その2
道路とは(おさらい)
先月のコラムでは、建物が建築可能か否かは、建築基準法上で定める道路に面するか否かで決まるということをお伝えしました。建築基準法では、「都市計画区域内で建物を建築する場合には、原則として4m以上の建築基準法上の道路に、間口2m以上が面しなければならない」とされています。
道路の幅が4m未満の時は建物が建てられない?
確かに、建築基準法では幅員4m以上でなければ道路ではないとなっていますので、その土地が面している道路の幅員が4m未満の場合には、原則として建物を建築することができません。しかし、建築基準法の第42条には、先月お伝えした第1項に続いて、第2項の規定があります。第2項では、都市計画区域等の指定があった時に既に建物が建ち並んでいる道で、特定行政庁(建築確認を行う権限を持っている行政庁)が指定したものについては、幅員が4m未満しかなくても、道路の中心線から2mまでは「建築基準法上の道路とみなす」となっています。これだと、「なんだ~どんなに道幅が狭くても結局道路に面してるっていう扱いじゃない!」と思われるかもしれませんが、あくまで「特定行政庁が指定したもの」に限定されます。また、幅員が4m未満の状態で建物が建築できるのではなく、道路とみなされる範囲(道路の中心線から2mまで)には建物を建築することができませんので、道路とみなされる範囲まで敷地の境界線を後退させる(これを「セットバック」と呼びます)必要があります。この、建築基準法第42条第2項で道路とみなされる道のことは、「みなし道路」や、「2項道路」と呼ばれることが多いです。このコラムでは「2項道路」と記載します。
2項道路に面する土地の価格を判断する時
この土地1は、幅員3.2mの道に面していて、道は2項道路の指定を受けています。
売り価格は9,000万円となっていますので、単純に㎡単価を計算しますと、
9,000万円÷300㎡=300,000円/㎡ですね。
しかし、実際に建物を建てる際は、道路の中心線から2mセットバックしなければなりませんので、下記図の赤い部分は、敷地にすることができません。
赤い部分の面積は、
(4m - 3.2m)÷ 2 × 間口20m = 8㎡ です。
したがって、実際に建物の敷地として利用できるのは
300㎡ - 8㎡ = 292㎡ですので、実際に建物の敷地として使える面積(有効面積)は、元の面積と比較して、約2.7%少なくなります。
有効面積に対する㎡単価は、9,000万円÷292㎡≒308,219円/㎡となり、約2.7%高いですね。
上記の土地1は、奥行が15mありますので、このくらいの差で済んでいますが、
下記の土地2の様な場合は、有効面積が小さくなります。
土地2の㎡単価を単純に計算すると、
2,160万円÷ 72㎡ = 300,000円/㎡ です。
セットバック面積は、(4m - 3.2m)÷ 2 × 間口12m = 4.8㎡ です。
有効面積は、67.2㎡になってしまいます。土地1と比較すると、セットバックしなければならない絶対的な面積は少ないですが、土地2の元の面積に対する割合では、約6.7%も使えない部分が含まれていることになります。有効面積に対する㎡単価は、
2,160万円÷ 67.2㎡ ≒ 321,428円と、約7%高いです。
セットバックあれこれ
2項道路でセットバックが必要とされる範囲は、建物を建築するために必要な「道路」とみなされていますので、その範囲は敷地面積に入れることができません。セットバックが必要なのは、建物を建築する時ですので、古くからの建物が建っている場合には、自分の土地だけがセットバックしても、向かいがセットバックしていないなどで幅員が4m未満のままだったり、近隣の道は狭いままということもあります。
セットバック部分は分筆する必要はありません。しかし、セットバック後に分筆の測量を行って、私道として自治体に申請すれば、固定資産税・都市計画税が減免される可能性があります。
不動産の広告などで、「別途私道負担4.5㎡あり」という表現があれば、広告に記載されている土地の面積の他に私道が「別途」4.5㎡あることが明確です(敷地面積と私道負担面積は、明確に分けて表示しなければならず、敷地面積に私道負担面積が「含まれる」という記載は広告の不当表示に該当します)。
しかし、セットバックについては、「セットバック要す」や「要セットバック」(セットバックを要する部分の面積がおおむね10パーセント以上である場合は、その面積も記載する必要があります)と記載されている必要がありますが、全く記載がない所謂おとり広告と呼ばれる規約違反の広告も多く存在します。「幅員4m未満」なのに、「私道負担無」と誤った記載となっている場合、「今後セットバックが必要」ということになりますので、注意が必要です。
また、上記の例では「中心線から2mセットバック」を記載しましたが、これは原則で、例外として自分の土地側だけが一方的に敷地を後退して道路を4m確保しなければならない場合や、道と思っていた土地に、水路や里道、第三者の土地が入り交じって中心線がどこか解らないという場合もあります。一方、現在の建物を建てた時に、自分の敷地はセットバックしたが、対面の建物が古くから建っているため、セットバックしていないという場合には、道路の幅員が4m未満でも、改めてセットバックする必要はありません。
昨今の宅地開発では最低でも幅員4.7m(車道が4mで、両側に側溝がそれぞれ0.35m)、広いところでは6.7m(車道が6mで、両側に側溝がそれぞれ0.35m)の道路を整備して分譲することが増えてきています。いざというときの防災の観点からも4m未満の道路である2項道路に面する土地は第1項の4m以上の道路に面する土地と比較して、安価になりがちです。お得かどうかでいうとお得ではないと思われます。
今月はここまでです。
今年は、未曾有のコロナ禍の中、結局1年中手探りでの生活を余儀なくされました。人々の日常生活が日本だけでなく、世界中でこんなに変化するとは思いもよりませんでした。
来年は平穏な1年となりますように、皆様と共に祈ります。
ありがとうございました。