「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
地代の評価【土地を借りて、その上の建物を第三者に貸している場合】その2
先月は、借地上に飲食店舗ビルを建てて貸しているXさんからのご相談内容をお話ししました。そして、【継続賃料】を求めるにあたって、
・まずは【新規賃料】との比較をしてみる
・その土地の効用が最も発揮される土地の利用方法(「土地の最有効使用」と言います。)が、「賃貸用建物の敷地として利用すること」の場合には、新規の地代の額【新規賃料】を検討する場合に、収益分析法を用いることができる。
ということを中心にお話しました。【継続賃料】の話なのですが、【新規賃料】の話ばかりでしたね。
先月のXさんの例では、最後に賃料を決めた時期から相当期間(10年)が経過し、現時点で新たに借りる場合の賃料額を試算してみたら、現在実際に払っている賃料の額よりも低いということが判明しました。
借地面積:100㎡
建物延床面積:400㎡
環境:最寄駅から続くアーケード商店街内に、4階建程度の小規模な飲食店舗ビルが建ち並ぶ商業地域
借地している土地の条件:間口6m、奥行約16mの長方形地
現在の地代の額(平成20年に改定)
月額 260,000円
新規に借りるとした場合の地代の額(新規賃料)
月額 150,000円
差額
110,000円
継続賃料を求める
継続賃料を評価するときは、下記の4つの手法を使います。
(ⅰ)差額配分法
(ⅱ)賃貸事例比較法
(ⅲ)利回り法
(ⅳ)スライド法
(ⅰ)差額配分法は、新規に貸し出す場合の賃料の額と現在の実際の賃料の額を比較して、差額が生じている場合に、当事者が前回その賃料の額で合意したという契約内容の事情を考慮しつつ、新規に貸し出す場合の賃料へ「近づける」試算方法です。
継続賃料の評価の依頼があるときは、当事者が一旦合意した賃料の額が、その後諸事情が変化したことによって、当事者のどちらかが今となっては「高すぎる」「安すぎる」と感じたときです。当事者のどちらかが「高すぎる」「安すぎる」というのは、何と比較してかを考えてみます。元々その賃料を決めた時になんらかの事情があって、一般的な水準よりも「高く」または「安く」決まったとしても、今同じ条件で新たに借りるとしたらどのくらいの賃料水準で借りることができるかということと比較していると考えられます。それならば「今の新規賃料の額に『近づける』のではなく、今の新規賃料の額を地代に修正したら公平でいいのでは?」と思うかもしれませんが、そもそもはお互いが現在の地代の額で合意したということを尊重する必要があります。その上で、差額が生じた原因を探り、その差をどの程度縮めるべきかを判断する必要があります。
今回の案件では、差額は月額110,000円、年額では1,320,000円です。
その差額が生じたことについて、貸し主か借り主のどちらかに原因がある場合には、その差額発生にどの程度寄与したかに応じて減額する割合や増額する割合が変わってくると考えられます。しかし、今回の案件では、この土地周辺の商況がなかなか回復しないのは、貸し主借り主のどちらかに原因があるというものではなく、一般的な経済的要因である景気の減退が理由で、対象物件のような小規模な店舗ビルだけでは、この物件がある地域全体の繁華性を大きく向上させることはできなかったと思われましたので、差額が生じた原因も借り主貸し主のいずれかにあるとは断定できないと判断しました。そこで差額解消の割合は、借り主貸し主同等としました。
差額の負担割合 貸し主 1/2 借り主 1/2
差額の半分を「現在の地代の額から引く(下げる)」という計算です。
(ⅱ)賃貸事例比較法は、対象不動産と似た利用方法がなされている不動産の賃料から比較して求める方法です。賃貸事例比較法は、上の図でもあるように、新規地代を求める場合にも使えます。では、新規地代を求める時の賃貸事例比較法と、継続地代を求める時の賃貸事例比較法とは同じかというとそうではありません。継続賃料を求める時の賃貸事例は、あくまで【継続賃料】の賃貸事例から比較する必要があります。新規賃料を求める時の賃貸事例は、新規の土地賃貸の事例から比較する必要がありますが、契約内容が対象地の契約内容と似ていなければ比較しようがありません。対象地の契約内容と似ている土地の賃貸事例の数は少ないと言えます。ましてや、継続賃料としての借地の賃貸事例は、理論上「継続中の特定当事者間の契約のもの」が必要ですので、当事者の属性を含め、契約の始期や、契約期間、契約条件等、契約内容の類似性があるといえるものは、殆どないと言えるでしょう。あるいは、あるかもしれませんが、契約の詳細情報が開示されないため把握できないとも言えます。したがって、現実にはなかなか適用できないのが実情です。
今回も周りに似たような継続賃料の事例というのは把握できず(場合によっては、貸し主(地主)が「お隣にはこんなに高く貸している」というようなことを開示してくれることもあるかもしれませんが(今まではそのようなことはありませんでした)、地主としても契約の相手方があることですし、なかなか開示はしないと思われます。
この案件でも適用できませんでした。
ここまでのところ、継続賃料としては現在の賃料よりも低いという結果になっています。
来月は(ⅲ)利回り法と(ⅳ)スライド法について説明します。