「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の価格に影響を与える要因〔一般的要因その2〕
不動産の価格を形成する要因
先月(2021年7月)のコラムでは、不動産の価格に影響を与えている要因の一般的要因〔自然的要因、社会的要因、経済的要因、行政的要因〕のうち、自然的要因と社会的要因について述べました。今月は経済的要因と行政的要因についてです。
一般的要因のうちの経済的要因
経済的要因は政策に左右される要因で、テレビや新聞などのマスコミを始め、最近ではインターネットを通じて最新の情報が入ってくるため、不動産の価格に対する影響が解りやすい要因ではないでしょうか。不動産の鑑定評価基準には下記の8つの項目が例示されています。
1.貯蓄、消費、投資及び国際収支の状態
2.財政及び金融の状態
3.物価、賃金、雇用及び企業活動の状態
4.税負担の状態
5.企業会計制度の状態
6.技術革新及び産業構造の状態
7.交通体系の状態
8.国際化の状態
1~6は景気の良し悪しに影響を与える要因として解りやすいと思います。ただし、一つの項目の動向が単純に不動産の価格を上下させるような影響を与えるというものではなく、また、その不動産の需要者・供給者の属性(個人か法人か)や、使用目的(住居なのか商用なのか等)によって影響の度合いは異なります。
7や8は、経済的要因というより社会的要因と思えるかもしれません。
特に7については、小職も字面だけ見た時になぜ経済的要因にこの項目が入っているのかと思いました。しかし、交通体系というのは社会インフラの一部を占める交通手段、つまり、人だけでなく貨物を移動させる設備やシステムを指すとすると、単純には、道路網、鉄道網、航空網、航路の設備の整備の状態や路線の廃止、さらにそこを移動する物体である車輌、鉄道、飛行機、船舶の物理的な進化等は経済的要因と言えるのではないでしょうか。道路網や鉄道網が整備されることによって、人や物の移動の利便性が高まると考えられますが、実は地域によってプラスの要因にもマイナス要因にもなりえます。道路や鉄道が新しく作られると地点間の移動時間は短縮されます。地方都市にとって都心との時間距離が短縮されることは、利便性が高まりプラスの要因と言えますが、一方で、人が流出することにより経済活動を行う昼間人口が減少することは必ずしもプラスの要因とは言えません。
ここ10年はeコマースの利用が増加し、物流拠点のニーズが高まってきました。空港や港湾施設と道路網や鉄道網との連絡が整備されたことにより、今まで何も特徴がなく地価が安かった地方都市に大規模物流施設団地ができ、結果的にそのエリアの地価を押し上げる要因となりました。
さらに2020年からのコロナ禍で、特に都心部ではステイホームが推奨されることになりました。日常生活での商品の購入や仕事上の取引においてもeコマースがより利用されるようになり、いざというときに出勤できれば日常業務はテレワークで行うという企業活動が定着しつつあります。鉄道事業者は運行本数を減らす等の対応を行っています。そうなると利便性が低下すると言えるのでしょうか。運行本数を減らす対応は、旅客鉄道に対する需給バランスを踏まえて行われた判断なので、利便性には影響しないということになるのか等を考える必要が出てきています。
8の国際化の状態は、理論的にはグローバルスタンダードが浸透すれば、国際化したとしても不動産価格に与える影響は薄まってくると言えます。不動産の取引慣習には日本固有のものが多いですが、不動産の証券化やグローバル企業の不動産取引等が増えることにより、グローバルスタンダードと比較して整備されていない仕組みや法律等が整備されて、その結果不動産価格に影響を及ぼすことがあり得ます。
一般的要因のうちの行政的要因
行政的要因とは主に公法規制の状態のことを指します。「行政」というのは、法律に沿って国や自治体が公のために動くということです。行政機関は、国民や市民の生命や財産を守ることを前提に、法律に基づいてさまざまな規制やそれに伴う調査等を行っています。法律を根拠として、行政を担う自治体は条例や要綱等を作成し、それを人々に守らせることにより、人々が安全かつ快適に暮らせるようにしています。行政的要因としては次の4つの項目が例示されています。
1.土地利用に関する計画及び規制の状態
2.防災等に関する規制の状態
3.不動産に関する税制の状態
4.不動産の取引に関する規制の状態
1.については、土地利用に関して大きく影響を与えるものとして民法・都市計画法・建築基準法などが挙げられます。それ以外にも借地借家法、埋蔵文化財保護法等、膨大な数の法律が定められています。
2.防災などに関する規制としては、最近だと土砂災害が起こりやすい場所を示して、特に危険な場所については、移転を勧告したり移転の補助金を出したりすることが始まっています。そのほか、規制ではないのですが、先月お伝えしたハザードマップが公表されています。ここ数年は実際にハザードマップに示した場所での浸水や土砂災害が発生することも多くなってきています。
3.不動産に関する税制については、不動産を取引すると課せられる税金、所有者に課せられる税金や住宅ローン控除等があります。また相続することでも税金がかかります。この税金の率や計算方法等が変わると、人々が不動産を買おうとする意欲やきっかけに変化が起こります。
4.不動産の取引に関する規制については、過去大きく不動産価格に影響を与えたのは、国土利用計画法(国土法)で、バブル期には、住宅地でも100㎡以上の売買については売買価格が高すぎないかチェックされるエリアがありました。現在はそういうエリアはなくなっていますが、その指定されたエリアでは不動産価格に大きな影響がありました。
現在では、一部だけ該当することになりますが、先日成立した国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制等に関する法律(安保重要土地等調査法)があります。国土の安全保障に関わる土地の売買については、その目的などを調査することができる法律です。あくまで安全保障上重要な土地のみですが、売買に規制が行われる可能性があります。
一般的要因は相互に影響を与えあっている
一般的要因は、いずれの要因も不動産の価格に徐々に影響を及ぼすものもあれば、突然短期間に大きな影響となって現れるものもあります。日本全域に影響を与えるものもあれば、一定の地方のみに影響を与えるものもあります。
要因を4つに分けて説明しましたが、これらの要因は常に相互に連動して常に変化しています。平成バブルが崩壊し、政治も経済も法律も変わり、人々の遵法意識も大きく変化しました。地域が変化するのは、その地域に理由がある部分もありますが、長期的な視点では一般的要因の影響を受けていない不動産はありません。
地域のあり方が違った形に変化するのは、一般的要因で挙げた4要因が様々に影響しています。地域のあり方が変わると、需要者も供給者も変化しますから、価格も変わってきます。
このように不動産の価格は常に変化の過程にあるものなのです。
今月はここまでです。
ありがとうございました。