「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
一戸建て住宅の評価、購入の際の注意点について~その1
皆様、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
昨年は、イギリスのEU離脱や、アメリカ大統領選挙など、景気が大きく左右されるかも!?という予測が飛び交った世界的に大きな出来事がいくつかありましたが、結果的には、日本経済は安定的に推移していますし、不動産についても、都心部やその周辺で緩やかな価格上昇が続いています。
今年も、皆様にとって「身近な不動産」の価格や評価に関することがらを取り上げていこうと考えております。
昨年の12月号(マンションの評価について)では、「マンション」について、価格を査定する方法、査定にあたって考慮しなければならない点について説明しました。
今回は、「マンション」と同じく皆様にとって身近な「一戸建て住宅」についてお伝えします。
1.一戸建て住宅価格の評価方法
一戸建て住宅の市場価値へのアプローチも、マンションと同じく①費用性・②市場性・③収益性の観点から行います(12月号「マンションの評価について」参照)。
ただし、一点だけマンションと異なることがあります。一戸建て住宅の場合は、購入価格や購入の意思決定を行う時に③収益性の観点から考えているという人は少ないという点です。
マンションの場合、分譲マンションであってもワンルームから1LDKまでの広さのものは、所有者が自分で住むのではなく、賃貸されているものが比較的多いため、購入する際には「いくらで貸せるのか」ということが検討されています。また、ファミリータイプのものについても、都心にほぼ限定されますが、同じく「いくらで貸せるのか」の観点を踏まえて購入が検討されている場合もあります。
しかし、一戸建て住宅の賃貸借は、借り手側からすると、マンションと同じ程度のセキュリティや管理の状態を求めると、賃料が比較的高額になること、また、建物内部のみならず、庭回りの手入れが必要であることなど、物理的な管理がマンションと比較して面倒なイメ-ジがあるため、マンションと比較して敬遠される傾向にあります。一方、貸し手側に関しても、一戸建て住宅は投資(収益)物件として購入される場合は少なく、転勤等の事情によりやむを得ず貸すことはあっても、多くは自身とその家族で住むという目的で購入されています。
※従来は、転勤等が短期間で終わった後も、賃貸借の解約申入れによって賃借人とトラブルになることを敬遠し、賃貸人が別の家に住んで、賃貸借契約は解約せずにそのままにしている所有者も多く見られましたが、現在では、リロケ-ションシステム※の普及により、転勤が終了した後にスム-ズにマイホ-ムに戻ることができるため、一戸建て住宅の賃貸も増えつつあります。
リロケ-ションシステムとは
マイホ-ムを売却せず、転勤終了後は我が家に戻りたい人が、転勤期間中の空き家になったマイホームの管理・賃貸を行い、留守にしている間のローン返済、税金等をカバーするためのシステムです。
定期借家契約により、期間を限定して貸せるようになったため、リロケーション・サービスを提供する事業者が見られるようになりました。
リロケーションシステムは、一時的な賃貸借ですので、収益性が永続するわけではありません。したがって、一戸建て住宅を評価する際には、主に①費用性と②市場性の観点から検討していき、③収益性の観点は通常はあまり重視されません。
中古住宅は、建物の築年数が似た中古住宅の取引の事例が見られる場合は、価格の相場が形成されていますので②市場性からのアプロ-チが有効です。①費用性からのアプロ-チである原価法は、築後まだ数年という場合には、売主側も、売主が建物を建てた時点にかかった費用を考慮して売値をつけていることがありますので、その様な時は有効です。しかし、当初の売り手側の費用の側面は、時の経過と共に希薄となっていきますので、建物が古くなれば、①の側面もあまり重視されなくなる傾向にあります。
なお、平均的な木造住宅の場合、現在の日本の不動産取引の現状では、築後20~25年を過ぎると建物の価値はほぼなくなってしまい土地価格程度での売買となっています。
あまりに建物が古すぎる場合には、買い手が新築戸建て住宅を建築するための取り壊し費用に相当する額がマイナスとして考慮され、更地価格よりもさらに安くなる事もあります。
2.戸建て住宅購入の際に注意する事
■土地について
意外と気がつかないのですが、注意が必要な点は、現時点及び将来の「自然災害」発生の可能性です。
いかに堅牢な建物を建築しても、肝心の土地に隠れた欠陥があれば、一戸建て住宅としての市場価値は下がり、さらには生命の危険にも晒されることとなります。
過去の阪神淡路大震災、東日本大震災のほか、広島市土砂災害等、大規模な自然災害の発生を受け、政府や地方公共団体は、災害を未然に防ぐための法整備を再構築し、「ハザードマップ(都道府県単位)」、「活断層データベース(国立研究開発法人・産業技術総合研究所)」等、災害関連の情報収集・作成を行っています。
また、自然災害に加えて注意が必要な点として、土壌汚染があります。これらは、市役所等の窓口、HP等で情報収集でき、過去の土地の利用状況(工場等土壌汚染の可能性のある建物の履歴)は図書館等で古い住宅地図を閲覧できます。
土地について「自然災害」関連も含め、確認の必要な項目を列挙してみましょう。
<物理的な観点>
・周辺も含めた地盤・地勢はどうか?過去に溜池等を埋立てして造成された土地かどうか?(不同沈下・地震関連)
・擁壁の上に立っていないか。
・近くに海岸もしくは河川がないか?(津波関連)
・過去に工場が建っていた土地かどうか?(土壌汚染関連)
<法的な観点>
・土砂災害特別警戒区域等、建物の建築を制限する規制がないか?
※法律上の建築規制により、通常の建物より高額となる基礎等を設置する事が求められる場合があります。
・土地の面積に建物建築ができない部分(例えば私道を負担している等)が含まれていないか?
・将来、建物を改築する可能性がある場合に法令上の規制がないか?
※都市計画法上の用途地域の規制により、住宅を店舗等に変更する事ができない場合があります。
・公道との間に、他人の土地が介在していないか?
※古い建売住宅の場合、かつて分譲した不動産業者が、公道となっている土地と対象の土地との間の土地を所有している場合がまれにあります。将来建物を再建築したり、増築したりする際に、第三者の土地を介さなければ、建築基準法上の接道要件を満たせない場合や、下水道やガス管等を引き直す必要が生じた時、この介在している土地の所有者から承諾が必要とされる場合がありますが、その不動産業者が既に存在しないような場合にはやっかいです。
・敷地の分割が可能か?
※市町村の宅地開発に関連した指導により、一定面積以下の敷地では建物が建築できない場合があります。これらは、仲介不動産業者等が介在する場合は、概ね契約の際に交付される、「重要事項説明書」に記載されますが、記載義務がない事項もありますので、注意が必要です。
<環境等に係る観点>
・近隣に、高圧線等の周辺環境に影響を及ぼす恐れのある施設がないか?住環境はどうか?
環境に係る観点は他にもたくさんありますが、これらに係る事項は、購入時には問題がなさそうに思えても、長期の生活期間において日々接することになる内容も多いので家族や本人のライフスタイルに合わせて条件を取捨選択し、慎重に検討する必要があります。
自分達家族には最適な環境であっても、一般的には最適ではないような場合もありますので、将来売却することを考えている場合には、長期的かつ多角的な観点からの注意が必要です。
■建物について
建物は、躯体(骨組み)があって、壁、設備、内外装がありますが、素人では壁の中までは確認できないのが現状です。
そこで、購入前には専門家による事前調査インスペクション※をお勧めします。
インスペクション※を行う事で、建物に内在する隠れた欠陥を見逃すというリスクが大幅に減少します。
インスペクションとは
既存の住宅について、専門家(ホームインスペクター、住宅診断士)が、基礎、外壁などの住宅の部位毎に生じているひび割れ、欠損といった劣化や不具合の状態を、第三者的な立場から客観的な検査や調査を行うことです。今日では、検査や調査の結果、必要になりそうな補修工事やリフォーム工事に必要な方法やその費用の目安に関する情報を提供したり、検査した住宅に係る一定の不具合に対する保証を提供したりする業務なども、インスペクション業務に付随するサービスとして提供されるようになってきています。
現在、国土交通省から、中古住宅の売買の際に行われるインスペクションについて、トラブル防止の目的も踏まえ、ガイドラインが提示されています。
米国では、不動産エージェントが全米の不動産について取引履歴や修繕履歴の情報の詳細を把握できるシステムになっていますし、一般の人も、主な情報については比較的簡単に把握できるようになっています。ホームインスペクションも既に常識とされていますので、かなり高い割合で行われています。日本でも近年、急速に普及しはじめています。
■土地建物一体として
さらに土地建物全体について、さらに以下の点が注意すべき点として挙げられます。
<法的な観点より>
建築基準法等の法律に基づいた建築確認申請が行われているかどうかは、「建築確認通知書」で確認できます。建築確認が行われている場合には、さらに、工事完了後の検査を受けているかどうかを、「検査済証」の有無で確認することができます。これらを得ているかいないかは、重要です。
この「検査済証」がない一戸建て住宅の場合、建築関連の法令を守っていない事もありえますし、場合によっては違法建築であることもあります。したがって、「検査済証」がない建物の場合には、下記のようなことが起こりえます。
・その不動産を担保にして融資を受ける際に、融資額が減額されたり、融資そのものが不可能となる。
・違法建築の可能性も考えられるため、「検査済証」がある場合と比較して安値での取引となる可能性があります。買った後に、適法に建て替えや増改築をしようとしても、そもそもが違法な建築物であった場合には、一旦法律に適合した建物に改修しなければならなかったり、場合によっては建て替え自体が許可されない場合もあるからです。
3.今月のまとめ
今月は、一戸建て住宅の価格の評価方法と、購入する際の注意点を中心にお話しました。まとめると、
・一戸建て住宅の評価は、その建築後の経過期間によって変わること。
・一戸建て住宅には、購入時には土地の要因、建物の要因、土地建物一体の要因等に注意する必要があること。
人生最大の買い物と言われる「マイホ-ム」。その価格には様々な要因が絡み合っています。購入する時や売却するときに、物理的なことや法令のことで解らないことは、売買を扱っている不動産会社の担当者にどんどん質問してみましょう。
適正な価格を知りたい場合には、我々不動産鑑定士、外観では知り得ない建物の隠れた状態を確認するためにはホ-ムインスペクタ-、相続税や売却の際における節税方法を知りたい場合は税理士と、それぞれ専門分野の士業が身近にいますので、活用してみてください。