「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
土地の価格(前篇)
あけましておめでとうございます。バリュー・ジャパン・パートナーズの善本です。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
多くの不動産鑑定士は、毎年ゆっくり新年を迎えることもなく大忙しです。その理由は、土地の価格についてお話する過程で明らかにします。
今月と来月は、土地の価格についてお伝えします。
今月は、時価・公示価格・相続税路線価・固定資産税評価額について、来月は、土地価格のまとめと留意すべき事項をお伝えします。
みなさんが土地を買ったり売ったりしようとすることになった時に、この土地の価格は高いのか安いのかをどのようにして判断したら良いのでしょうか。
不動産鑑定士に鑑定評価を依頼するのが理想だとしても、できるだけ費用をかけないでまずは自分自身で土地の価格を調べてみて納得したい、という方も多いと思います。
そこで、今回はご自身で土地の価格を調べてみる場合に役に立つ情報をお示しします。
「経済学では一物一価が原則なのに、日本の不動産の価格は、一物四価になっている」ということを耳にされたことはないでしょうか?インターネットで「土地価格」と検索してみると、概ね以下の4つ価格が検索結果に出てきます。
①時価(実勢価格)
②公示価格
③相続税路線価
④固定資産税評価額
※②~④はまとめて公的土地評価とも表現されます。
これらの価格が、あたかも別々のもののように説明され、土地の価格は他の「物」とは違っていると説明されている場合がありますが、実際は相互に関連しあっていますので、一物四価という表現は、実は経済学の一物一価と並べるべき表現ではないように思います。
まずは前回のアドバイス(2015年12月号 不動産とは・・・、不動産の価格とは・・・、不動産価格要因とは・・・)でお話しましたように、「土地」の価格の話なのか、「土地と建物」の話なのかをまず整理しましょう。
①の時価と④の固定資産税評価額は、土地の価格だけではなく建物の価格を指すこともあります。時価に関しては、土地と建物一体としての価格を指すこともあります。
一方、②公示価格、③相続税路線価はあくまで「土地」の価格です。
今回は、4つの価格のうち、「土地」の価格について説明します。
①時価
一般に、「時価とは」という問いに適切な回答を見いだすことは難しいのが現実です。「実勢価格」とか「相場」などという表現をされることもあります。ところで、お寿司屋さんで「時価」とあれば、「その時その時の仕入れ値に見合った、お客様に提供する価格」というような意味合いですが、そこに示されている「時価」は、お寿司屋さんとお客さんとの関係では価格交渉があって出てくるものではなく、お寿司屋さんがお客さんに一方的に示す価格になっています。しかし、お寿司屋さんがネタを仕入れる際の市場では、需要と供給の大きさの関係から仕入れ値が決まります。コンスタントに供給がある魚は、日常的に取引されますので、だいたいこれくらいの価格で売買されるな、という「相場」が現れます。しかし、稀少な魚(つまり、供給が少ない)は、売り手(供給)が強い立場になるため、値段が高くなります。お寿司屋さんには値段を交渉する余地がないかもしれません。そのようにして仕入れたネタが「時価」として示されています。この場合の「時価」は、お寿司屋さんとお客さんとの関係で形成された相場というより、お寿司屋さんとネタの売り主との関係で形成された相場と言えるでしょう。
土地価格でいう「時価」も、ある時点に売買が成立した価格を指すとは思われます、売り手も買い手も複数いる一定のエリア内の土地について、売買が複数行われると、だいたいこれくらいで取引されるという相場が生じます。しかし、供給者が1人だったり、買った方がどうしても自分の家の隣の土地が欲しくて買った、というような場合は、その売買価格が「時価」とも言えない場合があります。
土地の時価という場合には、いくつもの取引が行われた結果生じてきた「これくらいで取引されるであろう価格」が「時価」といえるでしょう。
実際に売買を手がけている不動産業者に相談をすることも有用ですが、その場合は信頼できる不動産業者を選択することが重要です。
また、インターネットでは、国土交通省のウェブサイト土地総合情報システム「不動産取引価格情報検索」があり、実際に売買された事例が買い主からの回答を基に載せられていますので参考にすることができます。ただし、売買にあたっての売り主や買い主の事情(早く売りたかった、急いで買いたかった)などは明らかにされていませんので、この点に留意して活用するようにしましょう。
不動産取引価格情報検索(国土交通省のページにリンクします)
②公示価格
新聞やテレビ、インターネットのニュースなどのメディアで「公示地価が発表になりました」と取り上げられるのに気づかれたことがあると思います。4つの価格のうち、大々的に取り上げられるのは、 ② 公示価格と③相続税路線価です。
公示価格は、「地価公示」「公示価格」「公示地価」等色々な言われ方をしていますが、国土交通省から発表(公示)される、毎年1月1日の時点の「土地」の価格です。
価格が公示されている土地には建物が建っているものが殆どですが、建物がないものとしての土地1平米当りの単価が示されています。
地価公示・都道府県地価調査(国土交通省のページにリンクします)
国土交通省のウェブサイトでも記載されているように、公示価格は
・一般の土地の取引価格に対して指標を与える
・公共用地の取得価格の算定に資する
・不動産鑑定士等が土地についての鑑定評価を行う場合の規準等
として用いられ、適正な地価の形成に寄与することが目的とされています。
また、相続税評価や固定資産税評価の目安として活用されている、とあるように、後述する③相続税路線価や④固定資産税評価額とも関連しています。
そして、公示価格は、価格を公示しようとする土地と似たような土地が取引された時の価格も参考にして決められています。
①時価を踏まえて②公示価格が決定されるとともに、公示価格は、時価が形成される基となる取引の指標となっており、時価にも影響を与えています。
なお、毎年9月頃に発表される「地価調査基準地価格」というものもあります。「地価調査」や「基準地」「基準地価格」と呼ばれています。これは、地価公示とほぼ同様の手順、同様の趣旨で鑑定評価され公表されていますが、発表する主体が都道府県で、毎年7月1日の土地の価格です。また、地価公示は都市計画区域(都市計画法第5条で定められた区域)内について実施されていますが、地価調査は、都市計画区域外についても実施されています。また、地価公示と地価調査で同じ場所が選ばれているものもあります。
③相続税路線価
相続税路線価は、国税庁が【財産評価基準書 路線価図・評価倍率表】として毎年7月に発表している、毎年1月1日の「土地」の価格です。
財産評価基準書|路線価図・評価倍率表(国税庁のページにリンクします)
全国の市街地の路線毎に、この道路沿いの土地の価格として1平米当り何千円という記載がされています。路線毎に価格が決められて載っているので、「路線価」です。
路線価図に、125と記載があれば、平米当り125,000円(,000が省略されています)です。
一般に「路線価ではこれくらい」と言われているときは、この相続税路線価を指します。
相続税と付いていることからもおわかりいただけるように、この路線価の価格は、相続が発生した時の相続財産の評価のために作成されています。課税の公平性の観点から市街化区域(都市計画法第7条で定められた区域で、すでに市街地を形成している区域及びおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域)内の概ね全ての路線に記載がされています(行き止まり道路には記載がない年もあります)。
この路線の価格はどのように決められているのでしょうか。
ある一定の範囲内で選ばれた土地について不動産鑑定士による鑑定評価が行われており、それを基に全路線について国税庁が路線価を決定しています。
③ の路線価図には②の公示価格や基準地価格の場所が載っています。その場所の公示価格を確認すると、相続税路線価は公示価格の概ね8割になっています。相続税路線価は公示価格で求められた価格を基準として、その8割程度となるようにされているのです。
相続税路線価を参考に時価をとらえようとする場合にはこの点に気をつけなければなりません。
それ以外にも、路線価の発表は7月ですが、価格の時点は1月1日で、地価公示と同じです。土地の価格は半年間でも大きく変動している場合もありますので、路線価は少なくとも半年以上前の価格である、ということにも気をつけなければなりません。
④固定資産税評価額
固定資産税評価額は、市町村が決めています。毎年1月1日の時点で土地を所有している人には、4月頃に納税通知書とともに課税明細書が送られてきます。
そこには、「評価額」や「当年度価格」、あるいは単純に「評価額」などと記載されている箇所と、「課税標準額」と記載されている箇所があります。
「課税標準額」は税の減免措置などを考慮した税率をかける直前の額です。固定資産税評価額というのは、「課税標準額」ではなく、「評価額」などと記載されている方の価格を指します。
土地の固定資産税評価額は、複数の土地が一体で利用されている土地であっても、登記されている1筆(不動産の単位で、一般的には土地の登記数に基づいて使用される。)毎に総額が記載されています。複数の筆を一体で利用している土地の場合、総額を面積で割ってみると、奥の土地も手前の土地も同じ単価になっています。
決定までの過程としては、③の路線価と同様に、ある一定の範囲内で選ばれた土地について不動産鑑定士による鑑定評価が行われています。それを基に個別の土地についての評価額を市町村が決定しています。ただし、鑑定評価が実施されるのは3年に1回で、それ以外の年は地価の変動を反映させた上で、評価額として決定されています。
固定資産税評価額は公示価格の7割を目処とすることとなっています。固定資産税評価額を参考に時価をとらえようとする場合にはこの点に気をつけなければなりません。
固定資産税評価額という場合には、角地や、間口に比べて奥行が長すぎる等の個々の不動産の特徴が反映された価格となっていますし、具体的な個別の土地の固定資産税評価額は原則として所有者本人しか開示してもらえません。
ある地域の固定資産税評価額の一般的な単価を把握したい場合には、固定資産税評価額の「路線価」を確認することができます。「路線価」というと通常は相続税路線価を思い浮かべるのですが、路線毎に価格が決められるとその価格は「路線価」と呼ばれます。固定資産税評価額にも「路線価」があり、市町村によって開示されています。
なお、②~ ④ の公的土地評価( ④ は路線価)はウェブサイトで確認することができます。
全国地価マップ(一般財団法人 資産評価システム研究センターのページにリンクします)
時価・公示価格・相続税路線価・固定資産税評価額は別々のものではなく、相互に関連しあっていることがお解りいただけたでしょうか。
来月(2月)は、土地価格のまとめと留意すべき事項についてお伝えします。