

「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
区分所有建物及びその敷地の価格の評価【その4】
今回は、分譲マンションの一室(専有部分)の価格を求める3種類の計算方法2022年4月号のうち、【②取引事例比較法による比準価格:後編】です。
取引事例比較法による比準価格
分譲マンションの価格を構成要素に分けると以下のとおりです。
専有部分の建物の価値+土地の価値+共用部分の価値
2022年6月号では、下記のとおり、土地と、一棟のマンション全体に関して比較する主な項目を挙げて説明しました。
〔土地に関する主な比較対象項目〕
① 交通機関からの距離(駅やバス停)
② 周辺の環境の状態
③ 地盤の状態
④ 前面道路の状態
〔一棟のマンション全体に関する主な比較対象項目〕
① 築年数・仕様・構造
② 共用部分の状態
③ 管理の状態
専有部分について比較する項目
専有部分は、玄関扉から内側に広がる所有者が排他的に使用できるプライベートスペースです。皆さんがマンションの部屋を選ぶ際に気にする部分は沢山あり、人によってこだわる箇所は異なると思いますが、主に次のような項目を比較することになります。
① 広さ
② 間取り
③ 内装
④ 設備
⑤ 階層、フロア内の位置
⑥ プライベートユースが可能な共用部分の有無
⑦ メインとなる大きな掃き出し窓がある方角
⑧ 管理費、修繕積立金、その他の額
評価を行う場合も、上記の①~⑧の項目などを比較していきます。
①広さ
①広さについては、専有面積に大きな差があるものから比較するよりも、評価しようとするマンションと面積が近いものから比較した方がより精度の高い評価額(単価)を得ることができます。マンションを探している人は、自己の生活に必要な面積だけでなく、購入可能な総額から逆算した面積をある程度決めていることがほとんどだと思います。総額が低くなれば購入可能な人は増えますので、同じグレードのマンションであれば、70㎡のマンションよりも50㎡の方が単価は割高になる傾向があります。
②間取り、③内装、④設備
まず、②の間取りですが、専有面積が約20~25坪(約66~83㎡)の分譲マンションでは3部屋+リビングダイニング+キッチンの【3LDK】となっているものが多かったと思います。このような間取りは、3~4人家族(ファミリー層)向けと言えます。ファミリー層は1LDKを選ぶことは少なく、2LDKも3人家族なら選択される可能性は高くなりますが、4人家族の場合には、選択肢から外される可能性は高くなります。この理屈では、間取りの差によって需要と供給の量に差が生じることになり、価格は3LDK>2LDK>1LDKとなると言えます。
しかし、日本では世帯あたりの人数がここ20年継続して減少しています。2人家族や3人家族が増えたことに伴い、必ずしも3LDKが一番人気の間取りとも言えなくなってきています。こういったことは時代とともに変わるので分析しながら比較する必要があります。
また、同じ面積の3LDKでも、室内の廊下が長く各部屋が狭くなってしまっているものと、廊下が短く各部屋が広いものでは、後者の方がいいと思う人が多いのではないでしょうか。このように間取りの違いは価格に差を生じさせることがあるので確認が必要です。
③の内装については、内壁や天井、床に使用されている材質のグレードによる格差もありますが、中古のマンションになると、むしろ売買される時の汚損の状態がより大きな価格差となって現れることが多いでしょう。
④は、色々な専有部分の設備の有無と、その稼働の状態が価格差となって現れます。最近標準的に装備されていることが多くなっている設備の例では、キッチンの食器洗浄乾燥機や浄水器、ディスポーザー、浴室の暖房乾燥機などがあります。これらが付いていないマンションより付いているマンションの方が人気は高いことが多いですが、これらの設備が付いていてもうまく作動しない等の場合には、取り替える費用を考慮する必要がありますので、比較する際は注意が必要です。
これらの②~④については、購入した人がそのまま生活に使用するのに支障があるか否か、支障がある場合にはその程度がどれくらいかを確認して価格の差を判断する必要があります。
⑤階層、フロア内の位置
2022年4月のコラムでお伝えした、階層別と位置別の効用比の話としてお伝えした考え方です。
階層については、高層階の方が眺望や日照の状態が良いのが一般的ですので、価格は高層階の方が低層階よりも高くなる傾向があります。
フロア内の位置については、眺望の良し悪しのみならず、エレベーターからの距離、角部屋や三方ベランダか等によって生じる価格差を検討します。
高層階でも眺望が悪い場合には、それより低い階であっても眺望が良いものの方が高く取引されることもありますので、比較する際は周辺の環境も確認する必要があります。
⑥プライベートユースが可能な共用部分の有無
多くのマンションで見られるベランダやバルコニーなどは専有部分ではなく共用部分ですが、プライベートで専用使用することができます。1階の住戸のテラスや専用庭と呼ばれるスペース、玄関の外に扉のある専用ポーチと呼ばれるスペースなどがこれに該当します。他にも、住戸などの屋根を利用したルーフバルコニー等もあります。これらはプライベートスペースですので、その有無や大きさで人気の程度が変わり、価格に影響を与えています。
⑦メインとなる大きな掃き出し窓がある方角
これは、要するにメインのベランダの向きのことです。足もとまである掃き出し窓がある部屋は明るくなります。一般的には、ベランダが北向きのものは他の向きと比較して日当たりがよくない点で人気が低いと言えます。そして最も人気があるのが南向きです。日当たりがよく、西日の影響も少ないからではないでしょうか。東向きと西向きは人によって好みは異なりますので判断は難しいですが、朝から午前中にかけて明るい東向きと、夏は西日が当たって暑いがその分冬でも寒くなりにくい西向きとは人気は拮抗していると言えます。正確に四方位の東西南北を向いているというものは少なく、若干西に傾いている等様々です。また、タワーマンションで掃き出し窓は東側で南側は全面はめ込み窓があるという住戸もありますので、個別に確認した上で比較する必要があります。
⑧管理費、修繕積立金、その他の額
管理費や修繕積立金の額は、個々の住戸毎に異なる額を負担しているのですが、共用部分を管理し修繕するための費用を積み立てているものです。これらは買い手が居住する限り負担し続けることになるものです。取引事例を選ぶ際は月額の管理費、修繕積立金の額が評価するマンションと大きく差がないものを選ぶべきだと言えます。管理費等の額の差は、共用部分の設備やサービス、管理の体制の差となっています。
例えば、実際にある例でいうと、いわゆる平成バブル崩壊直後に分譲された当時の高級マンション(当然億ション)で、管理費、修繕積立金合計が㎡あたり1,000円弱となっているものがあります。周辺の他の同じ時期に建築された専有面積100~120㎡規模の中古マンションの管理費、修繕積立金はだいたい約500~550円/㎡くらいですし、築浅の同規模の中古マンションでは300円を切るものもあります。先の管理費等が高いマンションは、ラグジュアリーホテル並の住民サービスが実施されています。
これらの差は、取引されたマンションに対する需要者や供給者の趣向やその属性が、対象不動産に対する需要者や供給者の趣向や属性の違いとなって現れます。鑑定評価では、評価対象不動産の主たる需要者を分析して比較することが求められますので、管理費等に大きな差があるマンションから比較することは適切とは言えないのです。
取引事例を比較して求める比準価格
鑑定評価はその不動産を買おうとする需要者がどんな人か、その需要者がどう考えて取引を決断するだろうかということを分析して行います。我々不動産鑑定士は、日々行われる膨大な量の取引のデータから取引当事者の動向を分析することで、評価に役立てています。一方で、皆様がマンションを実際に売買する時にも役立つ視点ではないかと思います。
今月はここまでです。ありがとうございました。