「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
土地の価格が先か、コーヒーの価格が先か。~2018年の都道府県地価調査を踏まえて~
不動産の価格と収益
経済学で昔よく引き合いに出されていた「銀座のコーヒー」という話があります。銀座のコーヒーが1杯1,000円と高いのは、銀座の土地の価格が高いからと思いきや、そうではなく、銀座の土地の価格が高いのは、銀座だとコーヒーの値段が高くても飲むという人が多いからという話です。「ん?同じでは?」と思う方や、「今や、銀座のコーヒーだからといってコーヒーチェーン店で飲めばそんなに高くないし」と思う方もおられるでしょう。
この「銀座のコーヒー」で言いたいと思われていることは、店主であるコーヒーの供給者側がお店のある土地の価格が高いから、採算を取るためにコーヒーの価格を高く設定しているというのではなく、客である需要者側も、銀座でなら1,000円でもコーヒーを飲もうかなと思うという、『需給が一致していること』がまずありきで、銀座だとしても誰も1,000円のコーヒーは頼まない、ということであれば、土地値は高くならないという話です。
両者が高いのは相互に要因があると言えそうですし、コーヒーの価格は全国同じというチェーン店もありますし、コーヒー1杯の単価でこのことを考えるのはやや無理がある時代になりました。同じ価格のコーヒーが1日に何杯売れるのかが、場所によって異なり、銀座は地方の都市よりも人が沢山集まるため売上が大きい、したがってその収益の差が土地価格の差となって現れるという方が理解しやすいかもしれません。それすら厳密に言えば、「地方の都市でそこしかそのお店がないので、売上げは銀座店に負けないのに?」という疑問を持たれることもあるかもしれないですね。たしかに厳密にはそのように単純なものではないのです。
ただ、その土地で生み出すことができる収益の額が小さい土地よりも、収益の額が大きい土地の方が、価格は相対的に高くなるとは言えます。
平成30年の都道府県地価調査に見る商業地の価格と収益
地価調査での東京都下の最高価格は、銀座2丁目で、㎡当り41,900,000円です。2番目は銀座6丁目で、㎡当り30,700,000円です。これらは、昨年(平成28年7月~平成29年7月)は20%前後の上昇率でしたが、今年(平成29年7月~30年7月)は、10%前後の上昇率と、上昇幅は小さくなりました。外国人観光客の来訪、物品購買による売上げが堅調だったことが土地価格上昇の要因となっていますが、東京オリンピックの開催による建築費の高騰が、上昇幅を抑えた要因のひとつと考えられます。なお、地価公示(1月1日の価格)では、地価調査とは異なる場所の、銀座4丁目が㎡当り55,500,000円となっています。
大阪府下の最高価格は、キタがミナミに抜かれるということになり、関西ローカルのテレビ番組でも話題にされました。キタは、北区の超高層店舗付オフィスビルの敷地で、㎡当り16,200,000円、ミナミは、宗右衛門町の店舗ビルの敷地で、㎡当り16,800,000円です。キタは事務所街で、ミナミは商店街です。外国人観光客による影響はキタよりもミナミの方が大きかったと言えます。
愛知県下の最高価格は、名古屋駅東側至近の超高層店舗付オフィスビルで、㎡当り16,200,000円です。リニアモーターカーの開通や駅の位置が具体化したことが主な要因ですが、奇しくも大阪のキタと同額となっています。
新しくオフィスビルが建ち並ぶようになったエリアに、大企業のオフィスが一斉に移転することで、新しいエリアに対するオフィス需要を呼び起こすことになり、新しいエリアのオフィス賃料が上昇するという好循環が見られます。この場合の収益は賃料収入です。
一方、店舗が主に建ち並ぶ商業地域では、物品販売や飲食の売上が収益を構成します。インバウンドにより物品販売や飲食による収益が以前よりも増加したため地価が上昇したということです。
地価調査の銀座の地点と、大阪のミナミの地点は、店舗や来店型事務所向きの商業施設が立地する地域で、土地の規模は500㎡弱ですが、大阪のキタの地点や名古屋の最高地点は、土地の規模が10,000㎡前後です。単価ではミナミがキタを追い抜いていますが、総額で見るとキタや名古屋はミナミの20倍近く高額です。これを踏まえると、「『商業地としての格』はどちらが上なのか」という疑問については、単純に結論を出すことができないように思えます。個人的には、やはり「キタ」かなあ、と思いますが。名古屋駅前との比較では悩ましいところです。
商業地の地価の動向は、収益の動向から
時とともに、政治、経済、生活様式が変化し、その結果、様々な環境が変化しています。正確には、変化している地域もあれば、変わらない地域もあります。変わる変わらないの割合も変化します。以前はその土地では収益を生まなかった、あるいは、その土地ではそこまで収益が上がらなかったという地域が、現在では大きな収益をあげることができる地域になったという例があれば、その逆もあります。
土地の価格が高くなれば、「営業する場所」を維持する費用が高くなりますので、土地の価格がモノやサービスの価格に影響を与える、つまり、収益に影響を与えるという側面もあります。しかし、その場合であっても、そのモノ等の価格が上昇するためには、そのモノ等の対価に対して需要があるということが、大前提ですので、地価の動向をみるには、その場所での収益が今までよりも増えるのか減るのかをみる必要があります。
昨今では、国内の要因だけではなく、外国や外国人の影響も大きくなっていますので、多方面に関心をもっておかなくてはなりませんね。