

「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
不動産の価格は何に影響を受けるか
不動産に価格があるということ
不動産のうちでも特に「土地」は、地球上の人類が生活していく上で無くてはならない「基盤」です。建物は、土地がなくては宙に浮いたままになってしまいますよね。建物だけではなく、人間も同じです。土地は人間が生活や活動を行うために絶対的に必要です。日本では、土地を所有することが認められており、その土地をどのように使うかを所有者が決めることができます。「どこまでも続く地平線」という言葉は、雄大な風景を表していますが、実際には土地の量(範囲)は有限です。したがって誰かが所有している土地を手に入れようとすると対価が必要となります。
対価の大きさは、経済学の原則と同じく、需要と供給のバランスで決まります。その土地をどのような用途に使うことができるかによって、その土地を欲しいと思う人の数(需要の量)が変わってきます。その土地を欲しいと思うだけではなく、実際に購入することができる資金力がある人の数(有効需要の量)によって変わります。したがって価格が高くなったり安くなったりすることに影響を与える「需要」は「有効需要」を指します。例えば、「同じような広さのマンションは都心から遠いよりも近い方が価格が高い」や、「形がいびつな土地は、長方形や正方形の土地よりも価格が安い」というのは感覚的に理解できるのではないでしょうか。価格が高い、安いと表現しましたが、価格が高いものの方が安いものよりも需要が多いということです。
不動産の経済価値に影響するもの【地域】
土地は、動かすことができないので、人が自ら移動してその場所に行かなければなりません。そこに移動した上で人が自らその土地に働きかけることで、その土地の価値を作り出すことになります。人が土地に働きかけるというのは、住宅を建ててそこに住むことや、店舗を建てて商売すること等を指します。
まちは不動産が集まってできています。まちの成り立ちについて想像してみるに、次のようなことではないでしょうか。住宅が集まり「まち」ができます。住宅の周辺で住民を相手に商売をしようと店舗が作られます。住宅と店舗が混在するまちができます。他の種類の物を売る店舗も並ぶようになり、お客さんが店をハシゴすることで商売が効率的だと気づいて店舗が集まるようになります。そうすると、徐々に住宅が集まる地域と店舗が集まる地域との違いが生じてきます。また、住民や店の人のために必要な物を作る作業所ができ、まちが大きくなってきて住民が増えると、作業所の規模では追いつかないので工場になり、工場になると騒音等で住宅として使用している人達との軋轢が生じ、住宅から離れた場所に工場だけが集まる地域ができます。このように、似たような利用方法の不動産が集まることで「地域」ができます。
地域は様々な利用方法によっていくつもあります。住宅の敷地が集まっているものを住宅地域、店舗や事務所等商業施設の敷地が集まっているものを商業地域、工場や倉庫が集まっているものを工業地域と分けることができ、それぞれ混在している地域もあります。これらの地域はそれぞれの地域ごとに類似する特性を持っています。似た特性を持つ地域は、地域相互が隣り合っていなくても需要者が同じになることがあります。例えば、下図のAとBのエリアは、Xという店舗や事務所ビルが建ち並ぶ幹線道路の背後にある住宅地域ですが、どちらも中規模の閑静な住宅街です。閑静な住宅街で中規模住宅用地を買おうとしている人は、Xのエリアでは探さないですが、AやBのエリア内で探してみるでしょう。しかし、商売のために店舗用地を買おうとしている人は、AやBのエリアでは探さずにXのエリアで探すでしょう。
この、買い手の「こうであって欲しいという条件」は色々あると思いますが、地域の条件が一定の傾向を持ってくるようになると、「地域要因」として把握することができるようになります。地域要因が違うと需要者が異なります。したがってそこでの需要と供給の関係から決まる価格水準も異なることになります。
また、地域要因は長い年月を経て徐々に変化していく場合もあります。例えば、小職が働く大阪市中央区には、北東部に国や大阪府の官庁が集まる商業地域があります。その中の谷町筋という南北の幹線道路沿いもその背後も中規模の事務所ビルが多く建ち並んでいました。しかし、ここ15年で官公庁の庁舎を除き、多くがマンションに変わっています。商業地域から商住混在地域へと変化してきているのです。
「事務所街」として見られていた時代には、このエリアの需要者は事務所として使う(または貸す)ことを前提とした企業などでしたが、「事務所としては入居者がいないが、マンションなら入居者がいるまたは売れる」という時代になると、マンションを提供することを前提とした需要者に変化しました。
不動産の経済価値に影響するもの【各不動産の個性】
「地域」を構成する不動産は、同じ住宅、店舗であっても、角地であるものやそうでないもの、道が行き止まりのものや広い道に面しているものなど、同じ建物内でも入口に近いものや奥まったところにあるもの、下層階にあるものや高層階にあるもの等それぞれ個性があります。これは特定の地域の中における「個別的要因」として個別の不動産の価格に影響を与えます。個別的要因による価格差は比較的解りやすいですね。
地域要因と個別的要因の関係
個別の不動産の価格はその不動産に対する需要と供給の量で決まります。そして、そのようにして決まった不動産の価格は、地域の他の不動産の価格に影響を与えます。不動産は位置的に同じものは二つと無いのですが、似た不動産はあり得ます。その似た不動産の供給量に対して需要量が少ない場合には価格は下がっていきますし、逆に需要に対して供給が少ない場合には価格が上がっていくことになります。その地域内の個別の不動産の価格の変動で、地域内の不動産価格水準と他の地域内の不動産価格の水準とに格差が生まれてくるようになります。
不動産の経済価値に影響するもの【一般的要因】
上記で地域要因や個別的要因が不動産の経済価値に影響を与えると述べましたが、そもそもこれらの地域要因や個別的要因は、国の施策や、自然現象、社会現象、経済の状態の変化に影響を受けています。この地域要因や個別的要因に影響を与える国全体を動かしている要因を一般的要因と呼んでいます。そして、逆に不動産の価格の変化がこれらの要因に影響を与える部分もあります。
自然現象としては、昨今多発している地震や台風、爆弾低気圧による大量の降雨・降雪など人知が及ばない事象を挙げることができます。景観が良い高台の住宅地でも、急傾斜地の場合には土砂崩れが起こるリスクが高い箇所と判明した場合は、実際に土砂崩れが起こっていなくても需要が減少し、価格が下がることがあります。逆に、高台の住宅地は海岸沿いの市街地から遠いとして敬遠されていたのが、大地震による津波の被害を受けないということで需要が増加し、価格が上がったということもありました。
また、グローバル化した現在では、日本国の施策だけではなく、海外の社会経済情勢も日本の経済に影響を及ぼし、個別の不動産価格に影響を与えます。典型的な例が2008年のいわゆるリーマン・ショックです。そして今は2020年以降のコロナ禍です。コロナ禍は人類が体験したことがない事象ですので、先例がなく小職としても先行きが見えない状況が続いていますが、今後も今まで以上に一般的要因に注意を払っていく必要性を感じています。