「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
建築費が高くなると建付減価が発生しなくなる!?
2021年11月と12月に、最有効使用とは不動産の価値が最も高くなる使用方法であることを説明しました。その際、どのような使用方法が最有効使用なのかは、その不動産がある地域における法令や地域の経済情勢に応じて判断することになる旨もお伝えしました。
更地の最有効使用を判断する時、まず、その土地にどのような建物を建てることが適切なのかを色々と想定してみます。地域の経済情勢に応じて判断しますので、例えば【駅前】、【容積率400%】の二つのキーワードのみでは判断できず、その土地の上に想定される建物を利用する需要があるかどうか、建物を利用する需要がある場合どのくらいの数の需要があるか、建物を利用する需要があるとしても、建物の賃料や分譲価格がいくらくらいまで受け入れられるのかを分析・検討しなければなりません。その上で建物の大きさを判断します。
都心の多くや、場合によっては地方都市でも玄関口となっている鉄道駅の【駅前】、【容積率400%】では、その土地上に容積率400%めいっぱい利用した建物を建設しても採算が合います。この場合の土地の最有効使用は例えば、「中高層の事務所ビルの敷地」や、「高層共同住宅の敷地」と判断することができます。しかし、上記のような地域以外では【駅前】、【容積率400%】でも、容積率400%を利用した建物を建設しても借り手がつかず、容積率200%程度の床面積であればなんとかテナントが埋まるというところもあります。このような地域の場合、土地の最有効使用は、「中低層の事務所ビルの敷地」や、「中層共同住宅の敷地」となることもあります。既に中層マンションの需給バランスが飽和状態にあるような場合は「低層住宅の敷地」となることもあり得ます。
ところで、不動産の鑑定評価には「建付地」という類型があります。更地価格が建物等の土地の定着物が無いことが前提となっている価格であるのに対し、「建付地価格」は建物の敷地として継続的に利用していくことが合理的な場合の土地※1だけの価格です。
※1 鑑定評価基準上の建付地は土地とその土地上の建物の所有者が同じであることが前提となっているなど、「単に建物が乗っている土地」のことを指すのではありませんので注意が必要です。
建付地の価格は、実際の利用状況によって変わってきます。
例① その土地の利用状況が、更地としての最有効使用といえる場合
この場合は 建付地価格 = 更地価格 となります。
例② その土地の利用状況が、更地としての最有効使用とはいえない場合
その土地に、土地の最有効使用ではない建物があり(ただし、取り壊すほどではない)その利用が続くことによって、更地よりも需要が減少する場合には、更地と同じ価値とは認められないことがあります。
この場合は 建付地価格 < 更地価格 となります。
上記の建付地価格と更地価格との価格差は、更地価格からの建付減価※2と呼ばれます。
※2 逆に建付増価もありえますが、本稿では割愛します。
注意すべきは、経済情勢の変化や社会、地域の変化が土地の最有効使用に変化をもたらすということです。土地の最有効使用が変化すると、建付減価の割合も変化します。
昨今、特に地方都市では、建物の建築費の高騰に伴って、敷地の規模や立地によっては今まで最有効使用の建物として想定していた建物の規模が必ずしも最有効使用とは言えないということが起こっています。
例えば、中心部まで地下鉄で10分ほどの立地で利用可能容積率が400%の土地、土地上の建物は容積率を300%しか使用していない物件について建付地の価格を検討する機会がありました。生活の利便性が高く、ワンルームマンションに対する需要は旺盛な場所です。当初「この建物は利用可能な容積率を消化していないので、最有効使用ではない。したがって建付地価格は更地としての価格よりも低くなる」と考えました。まず、容積率を最大利用するようなワンルームマンションを建築して貸し出すことを想定して収益価格を試算しました。続いて、現在の建物の規模で建築することを想定して試算しました。すると、容積率を最大利用するように想定した試算価格の方が収益価格は低くなってしまったのです。
先に挙げたような、元々郊外の駅前で利用可能容積率を充足している建物が少ないような地域内の土地と違い、容積率を最大利用することで収益も最大になる地域内の土地だったはずです。しかしこの地域では、借主側の支払希望額(支払可能額)は建築費の高騰に見合うほどの上昇はなかったため、結果的に現況の建物と敷地の関係では対象建物は最有効使用の状態であり、建付地の価格は更地価格からの建付減価はなく、更地価格と同じと判断することとなりました。この場合、更地としての最有効使用も「容積率を最大利用するような建物の敷地」ではなく、「収支が均衡する規模の建物の敷地」です。
建築費の上昇だけでなく、需要者側の経済事情が向上し、併せて賃料の上昇が起こることが理想です。マンションの賃料や分譲価格は、需要と供給で決まりますので人々の収入が増えないとオーナー側が賃料を上げようとしても借り手がいないということも起こりえます。人々の収入が増え、賃料を上げることができるようになれば、今回の例の様な容積率を最大利用していない建物の敷地の建付地価格は、その時点では最有効使用の状態ではないと判断することになり、更地価格より低くなるでしょう。しかし世の中全体として景気が良くなっているのであれば、それはそれで良いことなのではないかと思ったりします。
今月のテーマとした〔建築費が高くなると建付減価が発生しなくなる!?〕はそれが普遍的な法則だということではなく、一般的な経済情勢等の変化を始め、その不動産がある地域の変化などによって、土地や土地と建物一体としての最有効使用は変化し、それ故に不動産の価格は常に変化するということの一例を記したものとご理解ください。
なお、大阪の中心部ではまだそのような現象は起こっていませんので、東京近郊ではまだ実感がないかもしれないです。
今月は以上です。
ありがとうございました。