「不動産価格・査定・鑑定評価等」について、不動産評価の仕組みを解説した不動産鑑定士のアドバイスです。
2018年の不動産の価格に関するキーワード
皆様、あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
昨年は、地政学的リスクが懸念されながらも、三大都市圏の都心部を中心に、不動産の価格は上昇傾向が続きました。
今年の不動産の価格はどうなるでしょうか。昨年から引き続き、2018年も関心が寄せられるであろういくつかのキーワードを不動産の価格に関連づけてまとめてみました。
インバウンド需要
諸外国から日本への旅行客が増加したことにより、物販、飲食、宿泊の売上げが上昇した地域では、三大都市圏に限らず、物販店舗、飲食店舗、宿泊施設への投資やこれらを所有する需要が急増し、不動産価格が上昇しました。特に、海外ブランドショップ・高級レストラン・ドラッグストア・B級グルメの店舗が狭いエリアに集中立地する大阪市中心部や、インターネットの旅行情報サイトで日本国内のランドマークとして1位に選ばれた京都市の伏見稲荷大社周辺は、地価は元々上昇傾向にありましたが、さらに上昇幅を広げています。地政学的リスクがありながらも、大手旅行会社では日本への外国からの旅行客数はさらに増加すると予測しており、昨年までインバウンド需要の恩恵を大きく受けていた地域は、今年も引き続き地価へのプラスの影響は期待できそうです。
また、観光庁の訪日外国人の消費動向報告書によれば、外国人が日本に再訪する際は、ショッピングよりも自然・景勝地を訪れたいとする人や、スキー・スノーボードをしたいとする人も多く※1、都心からのアクセスが比較的容易な自然・景勝地を擁する地域や、昨年の地価公示、地価調査等でも地価が急上昇中の北海道のニセコスキー場付近など、数年前から外国人需要に牽引されて上昇してきた地域は良い影響を受けるのではないでしょうか。
※1参考 国土交通省 観光庁「訪日外国人の消費動向平成29年7-9月期報告書」
建築費高騰
東日本大震災、熊本地震の復興関連、東京オリンピックのための施設建設等で、建物建設のための人手が不足しているのに加え、鋼材や石油は上昇傾向が続いています。そのため、ここ数年は「建築費が高騰している」と言われています。
建築費が上昇すると、新規分譲マンションの分譲価格に反映されますので、分譲価格も上昇傾向にあります。東京都区部の中心部では、職住接近を望み、かつそれが可能な高所得者層が増えたことから、高額な賃料であっても借り手がつくことが継続しています。建設費は上昇していますが、今年も投資用賃貸マンション、分譲マンションはいずれも堅調な需要が見込めるのではないでしょうか。
大阪市中心部では、ここ数年でオフィス街の中心が移動し、従来オフィス街だったエリアに分譲マンションが多く建設され、人口、世帯数ともに増加傾向にあります。スーパーマーケットが新たに都心に開店し、住宅地としての利便性が高まったことにより、さらに郊外から住民が都心へ回帰するなど、好循環が見られます。ただし、大阪市中心部という好立地であっても、ファミリー向けマンションでは、賃料が月額20万円台後半になると賃貸需要は少なくなる傾向にありますし、これ以上建築費の上昇が続き、それに伴って分譲マンションの価格や賃料の上昇が続くと、分譲マンションへの需要者の増加に限界が生じてくる可能性があります。
名古屋圏では、昨年、2027年に開通するリニア中央新幹線の駅が地下5・6階に整備される超高層ビルが竣工したのをはじめ、名古屋駅前に高層ビルの建設ラッシュが続いています。また、大阪圏と同様に、オフィス街の中心が移動しつつあり、中心繁華街に近い都心部に高層マンションが建設され始めています。リニアは、2027年に東京-名古屋間が開通予定で、その後、少なくとも2037年までは名古屋以西へのリニアの運行はありません。このことから、東京との時間距離が短くなる名古屋市の経済発展に期待が寄せられており、特に名古屋駅前のオフィス需要は今年も堅調と見込まれています。したがって、建築費の上昇があっても地価や賃料はいずれも堅調に推移すると予測しています。ただし、住宅に関して、名古屋圏では、東京圏や大阪圏と比較して、マンション派よりも一戸建て派の割合が高く※2、現在建築中・分譲中の、都心に立地する分譲マンションは売れ行きが好調ですが、建築費の上昇が見込まれる今年以降も継続して分譲マンションの需要が伸びるためには、名古屋圏外からの居住者の流入が増える必要があるのかもしれません。
※2参考 国土交通省 土地・建設産業局「平成28年度「土地問題に関する国民の意識調査」による
IR(統合型リゾート)
おととし(2016年)の12月に、いわゆるIR推進法案(正式には「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」)が成立し、昨年中には整備方針や政令が決定すると目されていたのですが、昨年は結局周辺法案の整備のみで、具体的な進展はありませんでした。
「IR」イコール「カジノ」として、様々な問題点がクローズアップされましたが、「IR」は「特定複合観光施設」、すなわち、複合的な観光集客施設を指します。カジノは、IRの中で最も収益を上げる施設として位置づけられますが、IRの整備という場合は、カジノだけで無く、ホテル、レストラン、ショッピングモール、国際会議場や展示施設等のMICE施設、劇場なども一体的に整備・運営することが大前提となっています。
多くの自治体が観光資源としてのみならず、自治体の収入資源として、誘致を望んでいますが、2018年1月の時点ではまだ、IRの事業者を選定した上でIR区域が決められるのか、IR区域を決めた上でIRの事業者を選定するのかも決まっていません。当初は2,3地点のみがIRの区域として認定されるとのことですが、先行して開業する地区が決定すれば、少なくともその地区の周辺の不動産価格にプラスの影響を与えることになりますし、アクセス条件によっては、IR区域から距離があっても宿泊需要や観光需要の上昇に寄与する可能性があります。
フィンテック
フィンテック(Fintech)とは、ファイナンスFinanceとテクノロジーTechnologyを組み合わせた造語です。フィンテックの定義を一口で述べることは簡単ではありません。今の私の理解では、次の様なものです。
「最新のIT技術を金融サービスの中に組み込み、既存の金融サービスの効率化を図ると同時に、新たな金融サービスの領域を生み出すIT技術」や、「これらを取り巻く環境」を指していると理解しています。
昨年投資対象から投機対象となった仮想通貨(バーチャルの決済通貨に契約内容が全て書き込まれるため債務不履行がなくなる技術)や、証券会社が始めだしたAIを用いて自動的に投資対象を選択し顧客の資金を運用するロボットアドバイザーなどがその例としてあげられます。
不動産の売買や賃貸の決済においても、現在ではインターネットバンキングを用いれば、現金を見ること無く、銀行から銀行へ送金できます。現在不動産を売買すると、銀行等で決済し、直後に法務局へ登記申請を行うという流れがありますが、もっとIT技術が進めば、次のキーワードとして挙げています仮想通貨を用いて、決済と同時に登記情報がオートマティカルかつセキュアに正しく変更される、というようなことになるかもしれません。今年はフィンテックによってどこがどこまで変化(進化)するでしょうか。先ほどのような変化が起こるとすれば、そもそも「通貨」のあり方が変わってしまっていることになりますね。
仮想通貨
仮想通貨は、実際に有形の通貨がある訳ではなく、インターネット上で行われる取引の決済手段として用いることができる手段を指すものです。各取引の経緯や、契約の内容までも暗号を用いることにより、ブロックチェーンという台帳に全て記載されるのですが、これは、紙の台帳ではなく電子上の台帳です。
このように、本来決済の手段として用いるのが仮想通貨の役割ですが、昨年後半にはマスコミなども取り上げるようになったことから、投資対象としてその価値が急騰し、投資というよりむしろ投機の対象ともいえるようになりました。「仮想通貨バブル」との懸念もされていましたが、ついに12月末に一旦暴落しました。
仮想通貨は、投資対象としてはハイリスクですが、ハイリターンを狙った個人投資家が少額を投資していることも多かったようです。仮想通貨はまだ今の段階ではボラティリティが大きすぎて、決済通貨として用いづらいように思います。昨年には、値上がりした仮想通貨で、高級外国車を購入するというニュースがありましたが、仮想通貨で不動産を購入したという話はまだ聞いていません。
クラウドファンディング
不動産に対する投資手段の主なものとしては、直接実物不動産に投資する「収益物件の購入」、J-REITという「投資信託証券を購入」が挙げられます。
数年前からは、インターネット上で資金を集め、その資金を事業者に貸し付ける、あるいはその資金を元手として事業を行い、得られた利益を資金の出資者に分配する金融手法「クラウドファンディング」が注目され始めていますが、この手法で集めた資金を不動産開発事業者や不動産売買事業者に対して貸し付ける「不動産投資型クラウドファンディング」も行われるようになってきました。実物不動産の購入よりも少ない金額で投資ができることはもちろんですが、J-REITを購入するよりもさらに少額の1~3万円程度から投資ができ、年利4%から、外国の不動産への投資だと10%を超えるものもあります。同額を銀行に預金する利率と比較すると格段に高利回りですが、そのほとんどは元本の保証がないものになっています。
今年は、さらに新しい不動産への投資スタイルが生まれるかもしれません。しかし、実物不動産に対する投資は、証券投資やクラウドファンディングと比較して、純収益が比較的高い精度で把握できることから、今年も低金利が継続する限りは、変わらず積極的に行われると予測しています。
今年一年も良い年でありますように。